「文章作法:美しい文章の書き方(理論編)」(V2:2021年1月31日)

 来週の水曜日(2月4日)に、新三年生向けに「読書感想文の書き方」をリモートで教えることになりました。コロナで新ゼミ生に対して接する場が少ないためです。そこで、「文章の書き方」について手引書を作成することにしました。まずは、「文章作法:美しい文章の書き方(理論編)」をアップしておきます。

  

「文章の作法:美しい文章の書き方(理論編)」(V2:20210131)

 (感想文を書くための心得)     小川孔輔(作成)

 

Ⅰ 理論編

 

1 はじめに

 小川ゼミでは、隔月で読書感想文を課しています。入ゼミ後の数回は、感想文の提出にあたって新4年生が新3年生の文章を添削指導しています。今回は新型コロナの感染拡大のために、先輩の4年生が新入生を直接指導できない状況にあります。そこで、わたし(小川)が、リモートで感想文の手ほどきをすることにしました。

 小川ゼミでは、すべての活動に対応して「手引書」があります。この文書も、たくさんあるマニュアルの中の一つだと思ってください。教育指導は、スポーツや趣味と一緒です。例えば、野球や剣道、チェスや将棋のように、文章を書くことも基本形(型)やルール(規則)を覚えるところから始まります。

 基本となる原理や原則を知り、練習を積むことで文章が苦手でなくなります。ポイントは、論理的で美しい、個性的な文体を会得することです。そのためには、コツを身に着けることが必要です。

 それでは、文章作法の解説を始めるます。最初に、元大学院生(新田美砂子さん)が準備をしている『野菜が主役の料理法(Misako’sメソッド)』の冒頭部分を読んでください。ファイルがふたつ添付してあります。

最初のファイルは、新田さんのオリジナル原稿です。彼女の文章を編集したのが2番目の文章になります。直しはそれほど多くはありませんが、読みやすい文章に変わっています。注目してほしいのは、①文章の流れの作り方と、②見出しのつけ方の重要さです。

 

2 文章を書くための準備

 マラソンを走る前に、わたしたちランナーはウォーミングアップをします。文章を書くときも同じです。運動前に体を温めるように、文章を書く前に準備体操が必要です。

 

(1) 書き手の立場の明確化

 読書感想文では、すでに課題となる書籍が決まっています。小川ゼミでは、マーケティングや流通サービスの本を選書することが多いのです。ただし、わたしの好みで、趣味の本や映画などが課題になることもあります。本でも映画でも、感想文を書くための基本ルールは変わりません。

 最初に、課題図書に対する自分の立場を決めます。たとえば、わたしは「書評ブログ」で、「★」(1~5)を打ってしまいます。最高が「★5」で、めったにないことですが、最低が「★1」です。つまり、フランスのレストラン評価本の「ミシュラン」のように、星付きで本を評価します。皆さんの感想文の選書に対するスコアです。

 

(2)内容(コンテンツ)の選択

 星の数で立場はすでに決まっています。そこで、犯罪事件を立証する刑事のように、自分の立場を強化するために証拠(コンテンツ)を探してきます。たくさんの証拠をリストアップして、簡単なメモを作りましょう。

 ちなみに、コンテンツは、自動車の部品(パーツ)や演劇の俳優さん(登場人物)だと思ってください。部品には、エンジンやブレーキのように重要なパーツもあれば、フロアマットのようにそれが無くても運転に支障がないパーツもあります。演劇でも、主役と脇役がいますが、通行人のようなアンサンブルを演じる役者さんもいます。

 つぎに、コンテンツを重要度の順にランキングします。これは、仮の順番でよいのです。書いている途中で重要度は変わることが多いものです。とりあえずは仮置きで結構です。

   

3 文章の構成を作る

 つぎに、文章を書き始めることになります。文章とは、ひとまとまりの「文」(コンテンツ=部品)を並べた構成物(自動車や舞台劇)です。しかし、部品の並べ方にはスタイルがあります。その中でも重要なスタイルの一つが、「文体」です。

 

(1) 文体(スタイル)

 簡単に言えば、「です・ます調」で文章を書くか、「だ・である調」にするかの選択です。前者を選べば、柔らかなタッチの文章になります。後者を選択すると、論理的でやや強い語調になります。読み手と主張の仕方にしたがって、どちらかを選びます。日記やエッセイは前者で、論文や説得などは後者になることがふつうです。読書感想文は、両方の場合があります。書きやすい方を選択してください。

 

(2) 文章の基本構成(ユニット)

 小説や論文でも一般書でも、もちろん読書感想文もそうですが、文章はつぎのように構成されています。「はじめに(序文)」ではじまり、「章」「節」「項」「段落」の集合で、樹木の枝葉のように構成がなされます。場合によっては、複数の章を「部」でくくることもあります。文章全体の構成単位を、「基本ユニット」(基本単位)と呼ぶことにします。

 

(3) 文の配置(パーツをつなぐ)

 単語をつないで、読点(。)で終わるのが一つの「文」(単語の集合)です。複数の文をつないで並べると、ひとつの「段落」ができあがります。段落をまとめると「項」に、項をまとめると「節」になります。「章」も「部」も、それぞれ下位の項目(節や章)の集合体です。

 それでは、もっとも下位の基本単位に相当する「文」を、どのようなルールで結合していくのかを考えてみます。覚えてほしいのは、どのレベルであっても、文章の「基本ユニット」(文、段落、項、節、章、部)は、複数の単位を集めて、上位のユニットが構成されていることです。

 

(4) 文の結合(基本ルール)

 ① 集合単位:「3.3.3の法則」

 「3.3.3.の法則」とは、3つの「文」がまとまって一つの「段落」を構成し、3つの「段落」が集まってひとつの「項」ができることです。ただし、ひとつの「節」が、3つの「項」から構成されるかどうかは、また別の話です。「節」「章」には、この「3.3.3.のルール」は必ずしも適用されません。

 ところで、文・段落・項については、「3」つでひとまとまりになる言いましたが、塊が「4」や「5」になることもあります。それは、文や段落が、つぎの2つのルールで結合されているからです。

 ② 文の相互関係(並列結合、因果結合、上下関係)

 わたしたちが、誰かに話しかけている状態を考えてみてください。発話のそれぞれの文は、(A)「並列関係」か(B)「因果関係」か(C)「上下関係」のいずれかに分類できます。隣り合うふたつの文を並べてみると、

 (A)同じ水準のふたつの文が並置されているか(並列関係)、

 (B)一方が原因で、他方が結果であるか(因果関係)、

 (C)一方の文が他方を包んでいることもあります(上下関係)。

 なお、並列関係には、(D)同じことを別の表現や比喩で言い換えることも含みます(言い換え、比喩)。また、(E)反対の事象や例外的な事柄を取り上げる場合も、並列関係の派生形です(反例や例外事項)。

 ここまでのまとめです。

 原理1:3つの文をつないで、一つの単位として重ねてください。

    段落の相互関係も同じです。3つの段落を重ねて、全体(項や節)が構成されます。

 原理2:文と文の関係は、(A)(B)(C)の3種類です。(A)には、(D)と(E)が含まれます。

 原理3:文や段落のつなぎ方は、後述の3つの原理を参考してみてください。

 

4 全体の流れを作る:3つの類似概念

 みなさんの読書感想文は、ワードで2ページです。全体は、3つから5つの文で一つの段落が構成され、全体が3~5の段落でまとまっています。ただし、例外があります。それは、最初と最後の部分です。

 「はじめに」(序:イントロダクション)と「おわりに」(結:まとめ)は、通常は1つの段落だけで構成されます。それは、全体の構成には、以下で述べる別の原則・原則があるからです。

 全体の流れを構成する概念に、①「序破急」、②「守破離」、③「起承転結」があります。それぞれ使い方が少しずつ違いますが、いずれも文章の流れを作る原理(考え方)を表した言葉です。詳しくは、つぎの解説をご覧ください(https://biz.trans-suite.jp/24851#i-2)。

 

 ① 序破急(じょはきゅう)

 「序」は、いとぐちや物事の始まり。「破」では、新たな展開を迎えします。続く「急」では、クライマックスへと一気に盛り上がり、速やかに締めくくるという様子を表しています。文章の構成が、3つを基本単位とするというのは、序破急で説明できます。

 ② 守破離(しゅはり)

「守破離」は、物事を習ぶときの3つの段階を示しています。第1段階の「守」では、師の教えを型どおりに身につけます。型を完全にマスターできたら「破」に移り、師の教えに自分独自のものを加えていきます。最後の「離」では、師を離れて独立するというステップになります。

 これに似た概念に、「正反合」(せいはんごう)というドイツ哲学の概念があります。「正反」=「守破」ですが、最後の着地(「合」)がちがいます。「離」は、師の教えから弟子が離れていきますが、「合」では、ふたつの異なる立場が調和されて終わります。

 ③ 起承転結(きしょうてんけつ)

 小説や物語の舞台構成に使われる手法です。「起」で、スタートの状況や設定が説明され、「承」では、それを受けて出来事や問題が発生します。続く「転」では、意外な展開が起こります。「結」では、事件や物事の解決に向けた行動が起こるというストーリー仕立てになります。

 ④ 結論

 文章を書くときは、①~③の手法を自在に活用して、全体構成を決めることが肝要です。

  

5 コンテンツ(部品)の作り方:アイデアはどこから来るのか?

 文章を書く作業は、マーケティングを計画立案することにとても似ています。文章を読んでもらうには、読み手(ターゲット)を設定して、その嗜好(テイスト、興味関心)に寄り添う内容(商品・サービス)を準備します。だから、文章を読んでくれる対象者を想定して、その人に語りかえるように文章を書きます。

 当然のことですが、取り上げる内容(コンテンツも)、想定される読者が興味を抱いたり、相手が喜ぶものでなければなりません。まさに、マーケティング発想そのものです。ただし、商品づくりのコツは、すでに1~4で解説しました。残された課題は、部品をどこから持ってくるかです。

 経験豊富なプロの作家でも、つぎのことを念頭に置いて文章を書いていると思います。

 

(1) 自分の経験

 学生のみなさんで、もっとも頻繁に感想文に利用されるネタは、つぎの4つです。

 ① 子供のころの自分の体験(趣味、部活、旅行など)、

 ② 両親や祖父母との会話、

 ③ 先生や先輩の教え、

 ④ アルバイト先での経験

 

(2) 参照と引用(本やテキスト)

 勉強好きな学生さんならば、たくさん本を読んでいます。また、演劇や映画などをたくさん見ているはずです。最強のネタは、広い意味で自分の経験を内省することです。

 

(3) 観察とインタビュー

 本当におもしろいネタは、街の中に転がっています。そのためには日々、周囲の出来事や人物の観察を怠らないことです。事件はいつも起こっています。わたしは、書くことそのものよりも、そのための準備作業の観察と聞き取りの方が楽しいと思っています。なぜなら、良い文章が書けるには、伝える中身が充実していなければならないからです。

 そのための一番の近道が、観察眼と聞き取りのテクニックを磨くことだからです。「お話し上手は聞き上手」と言います。インタビューの達人になることが、上手な書き手になるための第一歩です。

 また、事実を具体的なデータで示すことで、書き手の主張に真実性をもたせることができます。多少怪しいデータでも、具体的なデータを提示すると、物事の信憑性が高まります。このことは、書き方の技法として説明をします。

 

 (Ⅱ 応用編につづく)