フランス国境を跨いでイタリア領に入る。高速道路を、10人乗りのマイクロバスは、険しい山の斜面を尾根伝いに走る。高度500~800m下に、アズール色の地中海を見下ろす。切り立った斜面にびっしりと温室が張り付いている。
本格的なガラス温室もあるが、大方は中南米でよく見かける簡易な温室だ。何を作っているのだろうか。野菜、まさか花?サンレモの輸出業者に、この正体不明の温室で育てられているのが、花や切り葉であることを教えられた。イタリアンルスカスやラナンキュラスなど。もちろん、カーネーションやバラも。イタリア半島の付け根、北イタリアの「腋の下」のごく狭い地区で、推定3~4万戸の農家が花を作っている。トータルで約8億ユーロ(約千億円)。しかし、イタリアの花き産業は衰退気味である。
19世紀後半、いまから150年以上前に、気候のよいサンレモの周辺で欧州の花き生産は始まった。当初もいまも、主たる貿易相手はドイツ人である。日照時間が長く、加温の必要がないサンレモ地域は、簡易な雨よけハウスで花の生産ができた。オランダが国際的な花輸出業者になる前、1960年代は、イタリアの花生産者たちは市場を作っている、欧州全域に花を輸出しはじめた。
1990年代には、サンレモの市場では、2万2千人が働いていた。それが、20年後のいま、80%は市場を経由しないで、生産者から直接海外に運ばれる。閑散としたオークションの荷捌きスペース。何年か先の日本の姿を見ているようだ。
花農家もきびしい経済状態にある。推定でだが、年収240万円。税金が45%だから、手取りはその半分にしかならない。かつては、この倍の収入があったという。
コロンビアのカーネーションやケニアのバラに対抗することは、コスト的にむずかしいのだろう。わたしたちが訪問したノビオ社(カーネーションの種苗で30%シェア)でも、海外の産地と提携している。生産品目は、ルスカスやラナンキュラスに切り替えている。