【シリーズ:農と食のイノベーション(第18回)】「フードエンターテインメント業態(下):キャラクター・カフェのビジネスモデル」『食品商業』2020年1月号

 後編(下)では、キャラクター・コラボカフェのビジネスモデルの誕生と仕組みを解説します。業態のトップランナーは、㈱レッグスと㈱トランジット・ゼネラルオフィスの協業による企画運営チームです。TGOの創業とレッグスとの出会いからビジネスモデルの解説を始めることにします。

 
 
「フードエンターテインメント業態(下):キャラクター・カフェのビジネスモデル」
『食品商業』2020年1月号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
  
 <リード文>
 「㈱トランジットジェネラルオフィス」は、中村貞裕氏が2001年に創業したベンチャー企業です。オーストラリア発の朝食で有名なレストランbillsなど、海外の飲食業態を日本に移植して成功している伸び盛りの会社です。中村社長はカフェで仕事をする「ノマドカフェ」のブームを作ったひとりです。
 2006年、コラボカフェ業態の立役者、星野天宏部長(オペレーション担当)がトランジットに入社します。急成長中のトランジットは、Signなど感度の高いカフェを10店舗程度運営していました。星野さんはSignカフェに配属され、業績をもっと良くするために使った手法が、店舗を広告媒体にしてしまうことでした。具体的には、キリンビールやハーゲンダッツの新商品、スターフライヤー(北九州拠点のエアライン)のサービスをPRするため、広告媒体の役割を担うカフェを企画する手法です。
 雑誌とのタイアップで期間限定のカフェを運営する方法が、同じく販促プロモーションを得意としている「㈱レッグス(東証一部)」の谷丈太朗氏(上席執行役員)の目にとまります。コラボカフェ業態の企画運営で、両社の事業提携が始まります。
  
 <コラボカフェの事業提携>
 2013年ごろ、星野さんが管轄するカフェは14店舗程。原宿に出店したパンケーキの店が一時期は好調でしたが、ブームが去って売上が低迷していました。一方で、Sign代官山で開催したサンリオとのコラボカフェは6時間待ちの状態。2014年には、渋谷PARCOで運営しているコラボカフェも好調でした。。
 キャラクター・コラボカフェが繁盛している様子を見て、星野部長はトランジットの売上が低迷している店舗でも取り組みたいと考えていました。しかし、自社だけで新しい業態を安定的に継続していくには限界があるようにも感じていました。コラボカフェの企画運営には、①キャラクターコンテンツ(IP)の管理と営業プロデユース、②キャラクターグッズの企画販売、そして③店舗の内装とメニュー開発の3つが必要です。
 中村社長に全権を委任されていた星野さんですが、どう考えてもトランジットにはキャラクターコンンテンツの管理とグッズを企画するノウハウが不足しています。そのときタイミングよく、Sign代官山、渋谷PARCOの運営の成功を見て声をかけてくれたのが、レッグスの谷丈太朗さんのチームでした。谷さんの会社レッグスは、販促グッズやプロモーション企画で、IPの管理やグッズ企画に20年以上のノウハウの蓄積があります。
  
 <はじまりは、おそ松さんカフェ>
 2015年、パンケーキの店をレッグスと共同で「おそ松さんカフェ」に転換します。ご存知のように、おそ松くんは、故赤塚不二夫氏の漫画の主人公です。オタク好きにはたまらないキャラクターのようで、開店と同時にカフェが連日満席になりました。コラボカフェのビジネスで特徴的なのは、グッズの売上が飲食への支出とほぼ同額になることです。
 たとえばヒットするコラボカフェの場合は、、客単価が約5000円(予約金700円、飲食2300円、グッズ2000円)。40席がフルに7回転すれば、日販が140万円(=5000円×40席×7回転)。月商では4200万円(=140万円×30日)になります。通常のカフェと比べて、月商が3倍以上になるのは、回転率と客単価がそれぞれ倍近くになるからです。
 ちなみに、おそ松さんカフェは、初回は30日で営業を終了するつもりだったそうです。ところが、あまりに客の入りがよかったので、「これで終わらせるのは、とても名残り惜しい感じがしました。そのあと、“おそ松さんカフェ、リターンズ”、“おそ松さんカフェ、ファイナル”と続けてみました」(谷さん)。「擦り切れるまでやった感がありましたね」(星野さん)。
 
 <コラボカフェの事業運営フロー>
 2019年末時点で、両社が共同で運営しているコラボカフェ(BOX CAFF&SPACE)は8店舗(常設)+α(ポップアップ店)。とくに原宿エリアは、「原宿カフェテーマパーク」と呼ばれるくらいで、両社が運営するカフェ以外にも、キャラクターやブランドと提携したコラボカフェの多い地域です。
 両社が企画運営しているコラボカフェは、東名阪地区に重点的に配置されています。それは、東京を皮切りに一箇所の開催を45日間と設定し、全国の大都市を順繰りに大阪・名古屋・福岡と地方巡業を続けるからです。また、原宿・渋谷地区では、地元の店舗をコレボカフェにコンバージョンすることもあります。二社が共同で運営しているコラボカフェですが、企画はどのように進行しているのでしょうか。中心メンバーのおふたりに尋ねてみました。
 コラボカフェを企画運営するための会議体は、週一回、毎週火曜日に開かれています。メンバーはレッグスとトランジットで十数名が集まります。個別案件ごとに20人ほどが参加し、コラボカフェの基本フォーマットを討議します。会議では、キャラクター(IP)の選択+コンセプト、メニュー、内装などを決定します。これまで4~5年間の実績から「運営マニュアル」が完成しているので、コンテンツの作成やカフェの基本フォーマット作りはほぼ流れ作業で進行しているようです。
 
 <メニュー開発の極意>
 元シェフの星野部長に、メニュー開発についてお話を伺ってみました。自称アニメオタクの星野さんならではの、こだわりのメニュー開発が伝わってきます。クリエイティブな開発のステップは、4つの段階から構成されています。
【ステップ1】最初に、採用するコンテンツ(マンガ、アニメ、ゲーム)を徹底的に調査します。この段階では、同時に、カフェに来訪するファンの好みや特徴的な行動なども同時にチェックします。グループによって、食事の好みが違うことがあるからです。
【ステップ2】二番目に、新しく利用できる食事のバラエティを探索します。トランジットは、常に世界最先端の飲食業態をリサーチし、飲食店と事業提携をしているので、メニューと料理技術の引き出しが豊富です。その中から活用できる要素部品を選択します。
【ステップ3】三番目に、システムアプローチ(①~③)によって、具体的なメニューを決定します。3つのバランスが難しいとのことです。人によって食べ物の好みが分かれます。例えば、ヘビーユーザーには、①のような食事を多くするなど工夫が必要なのだそうです。
【ステップ4】最後に、原価計算をします。客単価の高い業態ですが、売上に対する目標原価率は26%に設定されています。フード30%、ドリンク10%が基準です。ただし、メニュー全体のマージンミックスが必要で、全部の料理を原価率26%で作ってしまうと、料理が見た目で貧相になるそうです。
 
 <コラボカフェを超えて、日本発の飲食文化の輸出へ>
 両社のコラボカフェは、年率120%以上の勢いで成長しています。レッグスは、トランジット以外にも他の飲食店と事業提携をしています。トランジットも他のプロモーション会社とジョイントベンチャーを行っています。互いに切磋琢磨しながら成長する良好な関係に両社はあるようです。
 また、キャラクターやマンガを超えて、フードエンターテインメントの業態は、日本発の文化として広がりを見せていくように思います。谷さんも星野さんも、海外へのキャラクターコンテンツ輸出や演劇・音楽業界との文化事業提携に可能性を見ているようです。
  
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 図表 星野流メニュー開発のフロー(TGOマニュアル)
【ステップ1】 コンテンツリサーチ
【ステップ2】 料理のシーズ探索
【ステップ3】 メニューの最終決定
 ① キャラクターを食べ物に変える
 ② アニメの世界観を創る
 ③ 劇中のシーンを料理で再現する
【ステップ4】 経済的な原価計算