今回は、成長著しい農産物の宅配事業で、この数年で同業2社を経営統合した「オイシックス・ラ・大地」を取り上げます。先月、オイシックスは、米国のミールキット宅配会社を買収しました。(上)では、食品分野の海外企業(PC社)を買収した意図を高島社長に尋ねてみました。
「オイシックス・ラ・大地(上):ミールキットのパイオニア、米国ベンチャー企業を買収」
『食品商業』(シリーズ第12回:農と食のイノベーション)2019年7月号
『食品商業』(シリーズ第12回:農と食のイノベーション)2019年7月号
連載の原稿を書いている本日(5月31日)は、「オイシックス・ラ・大地㈱」(東京都品川区:高島宏平社長)が、Purple Carrot(米国:社名Three Limes Inc.)から株式譲渡を受け、同社(PC社)を子会社化する日にあたっています。PC社は、全米48州でヴィ-ガン食に限定したミールキットを販売している宅配サービス会社です。創業から5年で、同社は年商約45億円に成長しています(https://www.purplecarrot.com/)。
オイシックスの高島社長によると、「買収の理由は、両社の事業や理念が似通っていること。しかも日米のミールキット市場が年率二桁以上の勢いで伸びているから」とのことでした(広報資料、図表1&図表2参照)。ただし、高島さんの本音は、「PC社の代表者(Andy Levitt氏)と考え方が共通で、彼がシリコンバレーのベンチャー企業家にありがちな“金で動くタイプの人”ではなかったところが信頼できる」と感じたからのようです。
米国のミールキット市場は、4千億円規模に成長しています。5年後には1兆円に拡大することが確実と言われています。それはまちがいないでしょう。米国ミールキットのトップ2社は、売り上げで1000億円規模に成長しているようです。
オイシックスの高島社長によると、「買収の理由は、両社の事業や理念が似通っていること。しかも日米のミールキット市場が年率二桁以上の勢いで伸びているから」とのことでした(広報資料、図表1&図表2参照)。ただし、高島さんの本音は、「PC社の代表者(Andy Levitt氏)と考え方が共通で、彼がシリコンバレーのベンチャー企業家にありがちな“金で動くタイプの人”ではなかったところが信頼できる」と感じたからのようです。
米国のミールキット市場は、4千億円規模に成長しています。5年後には1兆円に拡大することが確実と言われています。それはまちがいないでしょう。米国ミールキットのトップ2社は、売り上げで1000億円規模に成長しているようです。
<<この付近に、図表1と図表2を挿入>>
<海外ベンチャー企業買収の狙い>
オイシックスが米国のベンチャー企業を買収した狙いは、①市場が急速に成長していることに加えて、②オイシックスの経営システム(=独自のサブスクリプションモデル)を組み込むことでPC社を高収益企業に転換させること、それとは逆に、③PC社のヴィーガンレシピを日本に移植することの3点にあるようです。
ところが、PC社は「2018年12月期に、PC社が400万米ドル超(約5億円)の最終赤字となっていた」(日経QUICK,ニュース)とも報道され、現状は赤字です。ただし、高島社長が見込んでいるように、事業上のシナジーは充分にあるはずです。
2017年に「大地を守る会」と経営統合したオイシックス(当時の社名は、オイシックスドット大地)は、2018年にNTTドコモから「らでぃっしゅぼーや」を買収しました。買収当時は赤字企業だったらでぃしゅぼーやの事業を、わずか一年で黒字化することに成功しています。その経験は、PC社の買収に活かすことができるはずです。
これまでの実績をみると、日本企業による海外ブランドの買収はほとんどが失敗に終わっています。しかし、今回の買収劇は成功確率が高いのです。もしかすると日本のベンチャー企業としてはじめて、海外のサービスブランドを黒字化させる事例が生まれるかもしれません。PC社の買収は、日本企業として画期的でおもしろいチャレンジなのです。
高島社長は、長期的な視野をもった経営者です。オイシックスを東証マザーズに上場(2013年)した前後に、米国ハーバード・ビジネススクール(エグゼクティブ・コース)に短期留学しています。将来的に米国企業と事業提携する可能性を想定して、グローバルな人脈を築く準備をしていた様子がうかがえます。
オイシックスが米国のベンチャー企業を買収した狙いは、①市場が急速に成長していることに加えて、②オイシックスの経営システム(=独自のサブスクリプションモデル)を組み込むことでPC社を高収益企業に転換させること、それとは逆に、③PC社のヴィーガンレシピを日本に移植することの3点にあるようです。
ところが、PC社は「2018年12月期に、PC社が400万米ドル超(約5億円)の最終赤字となっていた」(日経QUICK,ニュース)とも報道され、現状は赤字です。ただし、高島社長が見込んでいるように、事業上のシナジーは充分にあるはずです。
2017年に「大地を守る会」と経営統合したオイシックス(当時の社名は、オイシックスドット大地)は、2018年にNTTドコモから「らでぃっしゅぼーや」を買収しました。買収当時は赤字企業だったらでぃしゅぼーやの事業を、わずか一年で黒字化することに成功しています。その経験は、PC社の買収に活かすことができるはずです。
これまでの実績をみると、日本企業による海外ブランドの買収はほとんどが失敗に終わっています。しかし、今回の買収劇は成功確率が高いのです。もしかすると日本のベンチャー企業としてはじめて、海外のサービスブランドを黒字化させる事例が生まれるかもしれません。PC社の買収は、日本企業として画期的でおもしろいチャレンジなのです。
高島社長は、長期的な視野をもった経営者です。オイシックスを東証マザーズに上場(2013年)した前後に、米国ハーバード・ビジネススクール(エグゼクティブ・コース)に短期留学しています。将来的に米国企業と事業提携する可能性を想定して、グローバルな人脈を築く準備をしていた様子がうかがえます。
<ミールキット事業、開発の始まりと供給の仕組み>
オイシックスの事業は、初期のころは、「有機や特別栽培野菜など安全性に配慮した食品の宅配サービス事業」とメディアでは紹介されていました。ところが、Kit Oisix(キットオイシックス)が開発されてから、同社の事業内容に「ミールキット(パーツ食材とレシピのセット)」の提供が加わります。そして、いまやオイシックスの成長をドライブしているサービスは、Kit Oisix(ミールキット)の開発と商品の提供なのです。その背景を考えてみましょう。
ミールキット開発のスタートは、2013年7月ごろだったそうです。自社のテストキッチンで商品開発がはじまります。コンセプトは、「プレミアム時短」です。一般的には、料理の時間短縮だと「手抜き調理」のネガティブな連想になるので、「自分で料理をするより付加価値がつく」というポジティブな面を打ち出すことにしました。家庭にいたままで新しい料理に出会える機会を提供するサービスを強調したわけです。
同じく、ファッション衣料品でサブスクリプション(定額購入)のサービスを提供している「エアークローゼット」(天沼聡社長)の利用者たちの消費者心理と似ています。エアークローゼットのサービスを利用すると、月額7344〔税込〕で月一回新品3着が自宅に届きます。スタイリストが衣料品を選んでくれるのですが、洗濯不要でクローゼットの空間を節約できることが本当のベネフィットではありません。自分の基本テイスト以外のファッションに出会える、新しい発見のチャンスを提供しているのです。
これを高島さん流に翻案すると、ミールキットの概念はつぎのようになります。ミールキットの採用は、自動車の運転でカーナビを利用することに対応しています。つまり、カーナビの地図が「レシピ」で、車を運転することが「調理技術」になります。思いもかけない料理が簡単に作れることが、ミールキットの付加価値です。ミールキットの需要が増えているのは、若い女性たちの間で調理技術のある人が減ってきていることと、家庭で野菜を調理しなくて済めばゴミが出ないメリットもあるのではないかとわたしは考えています。
<ミールキットのビジネスモデル:小ロット延期型生産方式がなじむ>
オイシックスのミールキットは、2019年4月で累計3500万食を突破しました。「将来の市場規模と競合はどこになりますか?」と尋ねたところ、「まだスタートしたばかりで、市場規模がどうこういう状況ではないですね」(高島社長)とのお答えでした。日本で立ち上がったばかりの市場を拡大していくには、たくさんの企業に参入してほしいのだと思います。
ミールキットはすそ野の広い事業になりそうです。オイシックスのナチュラル系農産物を活用し、メニュー開発には外部人材を多く登用しています。
たとえば、料理研究家やタレントさんを登用しているほかに、レシピにキャラクターを活用する(クレヨンしんちゃん)とか、スノーピーク社(BBQセット)と提携するなど、コラボ先は多種多様です。短期間で提携の話(たとえば、熊本県などの地方自治体など)と進めることができるのは、ミールキットでコラボレーションがやりやすいからなのです。最大の理由は、ミールキットそのものが、「小ロット生産」に乗りやすいからでした。
驚いたことには、ミールキットの最低ロットは1000個程度です。「初期のころは、最低10個から作ったこともある」(大熊拓夢、広報室長)。というのは、ミールキットは、「延期型の生産方式」が採用できるビジネスだからです。開発のスピードが速く、食材の調達も必ずしも大量である必要がありません。それどころか、大量に生産できない食材で差別化ができるのです。地域限定や期間限定の「限定マーケティング」に向いています。
それに対して、従来型のファストフードなどは、「投機型の生産方式」を前提にしたビジネスです。商品の大量調達が前提のため、開発のリードタイムが長くなる傾向があります。セントラルキッチンで加工するので、食材を標準化しておくことが必要です。そのため、しばしばせっかくの美味しさや栄養が犠牲になります。オイシックスは自社製造(SPA)しているので、開発から生産まで2か月程度で完結します。早期の商品リリースができるのです。
オイシックスの事業は、初期のころは、「有機や特別栽培野菜など安全性に配慮した食品の宅配サービス事業」とメディアでは紹介されていました。ところが、Kit Oisix(キットオイシックス)が開発されてから、同社の事業内容に「ミールキット(パーツ食材とレシピのセット)」の提供が加わります。そして、いまやオイシックスの成長をドライブしているサービスは、Kit Oisix(ミールキット)の開発と商品の提供なのです。その背景を考えてみましょう。
ミールキット開発のスタートは、2013年7月ごろだったそうです。自社のテストキッチンで商品開発がはじまります。コンセプトは、「プレミアム時短」です。一般的には、料理の時間短縮だと「手抜き調理」のネガティブな連想になるので、「自分で料理をするより付加価値がつく」というポジティブな面を打ち出すことにしました。家庭にいたままで新しい料理に出会える機会を提供するサービスを強調したわけです。
同じく、ファッション衣料品でサブスクリプション(定額購入)のサービスを提供している「エアークローゼット」(天沼聡社長)の利用者たちの消費者心理と似ています。エアークローゼットのサービスを利用すると、月額7344〔税込〕で月一回新品3着が自宅に届きます。スタイリストが衣料品を選んでくれるのですが、洗濯不要でクローゼットの空間を節約できることが本当のベネフィットではありません。自分の基本テイスト以外のファッションに出会える、新しい発見のチャンスを提供しているのです。
これを高島さん流に翻案すると、ミールキットの概念はつぎのようになります。ミールキットの採用は、自動車の運転でカーナビを利用することに対応しています。つまり、カーナビの地図が「レシピ」で、車を運転することが「調理技術」になります。思いもかけない料理が簡単に作れることが、ミールキットの付加価値です。ミールキットの需要が増えているのは、若い女性たちの間で調理技術のある人が減ってきていることと、家庭で野菜を調理しなくて済めばゴミが出ないメリットもあるのではないかとわたしは考えています。
<ミールキットのビジネスモデル:小ロット延期型生産方式がなじむ>
オイシックスのミールキットは、2019年4月で累計3500万食を突破しました。「将来の市場規模と競合はどこになりますか?」と尋ねたところ、「まだスタートしたばかりで、市場規模がどうこういう状況ではないですね」(高島社長)とのお答えでした。日本で立ち上がったばかりの市場を拡大していくには、たくさんの企業に参入してほしいのだと思います。
ミールキットはすそ野の広い事業になりそうです。オイシックスのナチュラル系農産物を活用し、メニュー開発には外部人材を多く登用しています。
たとえば、料理研究家やタレントさんを登用しているほかに、レシピにキャラクターを活用する(クレヨンしんちゃん)とか、スノーピーク社(BBQセット)と提携するなど、コラボ先は多種多様です。短期間で提携の話(たとえば、熊本県などの地方自治体など)と進めることができるのは、ミールキットでコラボレーションがやりやすいからなのです。最大の理由は、ミールキットそのものが、「小ロット生産」に乗りやすいからでした。
驚いたことには、ミールキットの最低ロットは1000個程度です。「初期のころは、最低10個から作ったこともある」(大熊拓夢、広報室長)。というのは、ミールキットは、「延期型の生産方式」が採用できるビジネスだからです。開発のスピードが速く、食材の調達も必ずしも大量である必要がありません。それどころか、大量に生産できない食材で差別化ができるのです。地域限定や期間限定の「限定マーケティング」に向いています。
それに対して、従来型のファストフードなどは、「投機型の生産方式」を前提にしたビジネスです。商品の大量調達が前提のため、開発のリードタイムが長くなる傾向があります。セントラルキッチンで加工するので、食材を標準化しておくことが必要です。そのため、しばしばせっかくの美味しさや栄養が犠牲になります。オイシックスは自社製造(SPA)しているので、開発から生産まで2か月程度で完結します。早期の商品リリースができるのです。
<次回予告>
ミールキットという新しい事業領域を発見し、成長を続けているオイシックスですが、これまでもさまざまな企業との提携の模索がありました。すべてがうまくいった事例ばかりではありません。近年、ふたつの企業ブランドとの経営統合に成功したことが、同社の事業を急速に拡大する転換点になりました。次回(下)では、「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」との経営統合の果実について紹介します。
ミールキットという新しい事業領域を発見し、成長を続けているオイシックスですが、これまでもさまざまな企業との提携の模索がありました。すべてがうまくいった事例ばかりではありません。近年、ふたつの企業ブランドとの経営統合に成功したことが、同社の事業を急速に拡大する転換点になりました。次回(下)では、「大地を守る会」と「らでぃっしゅぼーや」との経営統合の果実について紹介します。