ツアー3日目は、旅団から離れてアムステルダム中心部にある自由大学のHarry Aiking教授の研究室を訪問した。自由大学は、二日目にインタビューしたユルンが卒業した大学でもある。ホテルからタクシーを呼んでもらって大学の近くで降ろしてもらった。
相乗りタクシーで、研究室には10時5分前に到着した。簡単な訪問目的を伝えた後、コーヒーをいただきながら、現代のフードシステムが環境に及ぼす影響について特別講義は約2時間に及んだ。
最初は物質の自然循環について、二酸化炭素循環と窒素循環の概要、そしてそれらが生物多様性の減少や地球温暖化に対してもたらすマイナス面の講義を受けた。
事前にエイキング博士の論文を読んでおいたので、理解に苦労はなかったが、やはり本人から話を聞くと、何が問題の核心なのかが明らかになる。読むと直接本人から話を聞くのとでは、やはり理解に差が出るものだ。
エイキング 博士は、今年70歳。一度リタイアーした後、彼が残した業績でもある、持続可能な食ビジネスの構築が時代的に脚光を浴びるようになり、再雇用されて大学教員に復帰している。
博士は、食料の生産と消費を持続可能なものにするための政策を論議するPROFEATSプロジェクトのチェアマンを務めている。オランダ政府がバックアップして、50人の異分野からの研究者がプロジェクトに関与している。2006年に報告書にあたる書籍は、今でも売れているそうだ。
ただし、異分野の研究者の議論はなかなかまとまらず、プロジェクトの成果に関するご本人の評価はかなり厳し目だった。私の目から見ると真面目な研究者で、オランダ政府や農務省に対しては批判的であるとの印象を受けた。
つまり、政治家は選挙民や産業界からの支持を得るために、現実に妥協する傾向がある。官僚組織も同じで、彼の提案が受け入れられることは少なかったと言う。にもかかわらず、今でも、論文や講演を通じて自説を広める努力をしている。
200以上の論文発表しているので、エイキング博士の功績を簡単にまとめることは難しい。その中で私が一番興味深いと思ったのは、次の論点である。現代の食料問題を解決するための手段として、取り組むべき優先順位は次の順番になる。
1.タンパク質の過剰消費を抑える。
2.カロリーの過剰摂取を削減する。
3.家庭での食品ロスを減らす。
4.動物性タンパク質から植物性タンパク質に置き換える。
1.は窒素循環に、2.は二酸化炭素循環に関連して地球温暖化に、3.は食料問題と飢餓に関係している。4.は生物多様性と食料生産の効率に関係している。
この優先順位を見てわかるのは、食料問題や温暖化対策はそれほど難しくないということである。もっとも厄介なのは、窒素循環である。なぜならば、生物の多様性を喪失することは、未来のために私たちが持っている医療や食料増産など、現存の遺伝子を失うことになるからである。
その他の観点や会話の中で興味深かった論点は、雑誌などに順次発表していこうと思っている。
これから、ツアーの一行は、オランダスキポール空港からロンドンのヒースロー空港に飛ぶ。これにてオランダ滞在は終わりになる。