NTTドコモ、二つの買収の失敗

 「NTTドコモのABCクッキングスタジオの売却にみるM&Aの失敗」(中田隆三: 24.Feb.2019)という記事をネットで見つけました。著者の中田氏は、M&Aコンサルタントと思われます。この見解について感想を述べてみたいと思います。ドコモに売却された2社とは、個人的に浅からぬ縁があるからです。

 
 中田さんが書いた記事コメントの全文は、URL(https://bizval.jp/media/news/070)でアクセスすることができます。著者の見解を添付します。半分正しく、半分は的外れのように思います。ポイントは二つです。
 
(1)シナジーが薄い買収だった(文末を参照のこと)。
 <コメント>
 両社に事業的なシナジーがなかったわけではないと思います。基本的な躓きは、戦略を立案してから、計画を実行に移すための組織がうまく編成できなかったからです。NTTドコモのような元官営の会社は、買収した子会社を「天下り先」に見る傾向があります。わたしが知る限り、大手の自動車メーカーでも系列の販売会社に(定年まじかの)役員を送り込んでいます。いわんや旧電電公社のNTTです。優秀な人材が送り込まれるかどうかは、実行段階に影響します。
 M&A側(NTT)と被買収企業(ABCとらでぃっしゅ)とでは、売上高や従業員数でも100倍以上の開きがあります。そもそも企業の文化がちがっています。そこを乗り越えるためには、買収した企業を動かす人間を、短期間で代えるようではいけないのです。子会社経営の鉄則です。
 たとえば、サミットストアに住友商事から出向した荒井伸也さんの事例など。
 
(2)中期経営計画におけるM&A戦略の失敗
 <コメント>
 この見解は、正しいと思います。ただし、戦略の失敗がなぜ起こったのかについては別に説明が必要です。
 買収を企てるのは「企業」(法人)ではありません。M&Aを手段として、個人的な野望を実現したい「イニシエーター」(発案者)がそこにいます。ライザップの例では、創業者の瀬戸社長がその当事者でした。
 二社を買収した時点のドコモは、携帯キャリア事業からの利益でキャッシュフローが潤沢でした。関連事業で投資先を探すのは当然のことです。そして、大きな会社ですから出世競争も激しいと思われます。次なる成長戦略を打ち出してそれを成功に導けるかどうかが、次にトップになれるための条件です。
 財閥系の企業で、事業の多角化に成功できずにトップになれなかった優秀な人材をたくさん知っています。ドコモの中で買収を企てた人物がいたはずです。戦略(思い)は正しくとも、実行段階で(1)のようなこと(大企業病)が起これば、買収は不発に終わります。実行段階で、事業を任せらえる人材を配置できなかったのではないでしょうか?
 そもそもドコモ側の企業文化を変えることができなかったから、この結婚は離婚に終わったのではないでしょうか?
 
(3)売却後の後始末
 らでぃっしゅは今、オイシックス・ラ・大地の部門として、再婚後の嫁入り先で融合のステージを歩んでいます。業績を見る限りでは、人的にルーツが似通っている「大地を守る会」と再融合するのだと思われます。社名の変更のやり方など、高島社長の天才ぶりには目を見張りるものがあります。新しい家族の再結合は、うまくいくと予想できます。
 一方で、ABCクッキングスタジオは、売却した全株(51%)を創業者がMBOで買い戻したわけです。資本構成は元に戻りましたが、最大の課題は、5年間のブランクを埋めることができるかどうかです。この間、モバイル技術の進歩や食に関する新規サービスの台頭など、ABCを取り巻く経営環境は激変しています。
 復帰した経営陣には、思いの外に高いハードルかもしれません。しかし、そこを見事にクリアして、再成長へ踏み出せることを祈念します。

 

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NTTドコモのABCクッキングスタジオの売却にみるM&Aの失敗
UPDATE:
24.Feb.2019
 
シナジーが薄い買収だった
NTTドコモは2014年に約200億円でABCクッキングスタジオの51%の株式を取得し、同社を買収、子会社化していました。
同時期に、NTTドコモは、「食」に関連するビジネスを買収しています。
2012年に買収した食品宅配大手ららぃっしゅぼーやも同時期におけるM&Aで、当時、NTTドコモは食品関連事業に進出をし、更には農事業へのスマートメーター(牛の飼育 牛温計等)の利活用など通信技術を利活用したB2Bビジネスなども展開していました。
料理教室のコンテンツとドコモのDポイントなどの付帯的なサービスとの融合などを進め、一定の成果を得たために売却を判断したとのことですが、「一定の成果」がどの程度であったのかについては、明らかにされておらず、また、料理事業を拡大するにはABCクッキング側が主導した方がよいと捉え、資本提携解消の運びとなりました。
わざわざ資本提携をしている意義がない、との判断であり、一定の成果はあるものの、すなわち
・思ったほどの相乗効果・シナジーは望めなかった
ということと捉えて良いでしょう。
 
中期経営計画におけるM&A戦略の失敗
買収当時の記事を見ますと、
「ABCの料理教室やレシピといったコンテンツにNTTドコモのモバイル技術を組み合わせた新サービスを開発する。両社は3月に業務提携を発表したが資本提携を機に連携を強化する。会見したドコモの加藤薫社長は「健康・学びの分野を重点的に、スマートフォンで快適に使えるサービスとして提供していく」」
(日本経済新聞2013/10/25付より引用)
とのことでしたが、結果的には、連携はうまくいかなかった、というのが実情でしょう。
当時から、本件買収については、200億円相当の買収価額であったことや、戦略的な意義が見いだせないなど、多くの批判を目にしました。
今回は、株式売却額は買収額と同程度の約200億円になる見込みで、3月中に譲渡する予定とのことです。
また、上記で触れましたらでぃっしゅぼーやについても、2018年にオイシックスドット大地(現オイシックス・ラ・大地)に売却し、これにて食に関連する事業のM&Aの失敗のみそぎは終わった、ということだと考えます。
ドコモは2011年に公表した中期計画で、
「モバイルを核にした総合サービス企業への進化」
を打ち出してましたが、この計画に基づいて買収した異業種企業は相次いで売却されることとなり、当時の計画並びに戦略は、失敗に終わった、と捉えることが正しいでしょう。