「人は何のために生きているのか?」という哲学的な問いが、ほとんど意味をなさない人物をひとりだけ知っている。「美味しいものを食べることを目的に、ご自分の生活を組み立てている」(らしい:推測段階)Mさんのケースだ。数日前に、Mさんの”グルメぶり”を地元新聞の『北羽新報』(2019年2月28日号)のコラムで紹介した。
グルメツアーのために、毎年のように欧州旅行をすること(行きたいレストランは、一年前から予約しておく)。世界中から収集したワインを保管しておくために、ワインセラーを設置したいので、わざわざ中古マンションを購入したこと。極めつけは、コレクションしたワインを美味しく飲むため、自ら出資して恵比寿にフレンチレストランを開業したことなど。
信じれらないほどのグルメ人間のMさんは、大手流通チェーンの元社長・会長を歴任した企業人である。大学時代はスポーツ選手で、いまは料理人でもある。退職後もコンサルや講演などで、ものすごく忙しい。それなのに、食べることに関しては労をいとわない。
「食べることを中心に生活が回っている」という印象を受けるから、本当に不思議である。Mさんのような極めつけのグルメは、いままで見たことがない。これから先も、たぶん現れることはないだろう。
昨日は、Mさんとは、政府系のある会合で同席させていただいた。会合で会えることを知っていたMさんは、90分の会議が終わるなり、つかつかとわたしのところに寄ってきた。開口一番に手帳を広げて、「小川さん、昨日は家内と話されたようで、つぎの会食の時間と場所はどこにしましょうか?」とニコニコ顔である。
友人のTさんとMさん+奥さんとわたしの4人で、門前仲町の秋田料理の店、男鹿半島本店で食事をしたのが最後だった。昨年の冬だったたような記憶がある。これには伏線があって、Tさんの会社の経営アドバイザーを、Mさんが担当しているのだった。
Mさんの奥さんとわたしは、実はこのところ、携帯で頻繁にメールを交換している。なぜなら、わたしが地元新聞のコラム「ワイン談義:友人のMさんのこと」を、奥さんにチェックしてもらっていたからだった。そのことを知ったMさんが、どうやらわたしの紹介ぶりに興味を示されたらしかった。
Mさんのレストラン予約は、本当にすごいのだ。グルメ人間ならではのやり方で。まずは予約しにくいレストランを、ほぼ一年前からリストに入れておく。紹介者を探してきたり自らが工夫して、どこかのタイミングで数人分の予約を終えておく。そこから、友人・知人のリストを使って、一緒に食べるひとに声をかけていくのだ。
「誰と食べるか」は後で、「どこで何を食べるか」を先に決めておく。ふつうでは考えられない会食のセットアップの方式である。この方式を採用しているひとを、わたしはもうひとり知っている。どうやら、Mさんの予約方法は、このひとから学んだのではないかと思われる節がある。
さて、手帳を開いたMさんは、「6月の某日に、都内のてんぷらとそばの店、いかがですか?」と店と提示してきた。同席するはずのTさんにその場でわたしから電話をしてみたが、忙しいのかお出にならない。Mさんとわたしの間では、「仮設定」ということになった。後日、MさんからTさんに連絡を入れて確認することになった。
Tさんが都合がつかない場合は、予約済リストの中から、別の日で別のレストランを探してくることになるのだろう。本日段階でまだ連絡がない。なので、その日は都合がついたのだろうと思っている。
それにしても、これほど食べることに執着するのはなぜなのだろう? Mさんが静岡県の農家の生まれであることと関係があるのだろうか? それとも、、、つぎの会食では、「なぜ」についてインタビューしてみるつもりだ。
そして、奥様は、てんぷらの店の同席リストには入っているのだろうか? こちらも気になっていることだ。