昨日の経営大学院「ビジネスイノベーター育成セミナーⅡ」では、極め付きにぜいたくな時間をいただいた。ヤオコーの川野幸夫会長を講師にお迎えしたからで、それも会長のトータルの拘束時間は、13時10分から16時50分までの約3時間半。午後の一時限目は、80分の講演のあと15分ほど質疑応答の時間に充てた。
授業の後半(二時限目)は、受講者45人が6つのグループに分かれて、川野会長からいただいた討議テーマを議論することになった。①「ヤオコーの事業承継が4代にわたって比較的うまくいった理由を考える」、②「ヤオコーのような継承の仕方は、一般的に正しいやり方なのかどうか?」。
興味深かったのは、学生たちの議論が、前半の川野会長の講義内容(①ヤオコーの経営、②企業の発展史、③経営理念の浸透)を適切に反映していることだった。なかなか優秀な社会人学生を、法政大学のビジネススクールは集めている(自画自賛)。そのように川野会長には感じていただけたと思う。
授業を運営する教員としては、鼻高々だった。どのグループも、それぞれ独自の視点から分析をしていて、わずか45分の準備時間であれだけ中身の濃い内容を用意できたのだから、立派な発表だったと思う。ヤオコーの経営と事業承継の在り方を、鋭く正当に評価できていた。
その中でも、学生たちの指摘でおもしろかったのは、事業承継における3つの成功要因の整理だった。小売りサービス業に特有の要因ともいえるが、意外に普遍的な結論になるのかもしれない。
家族経営で事業承継がうまくいくためには、
①親の商売(経営方針)を子供が小さいころから見ていること(親の背中を見て子供を育てる)。そして、後継の候補として企業に入ってからは、現場で一緒に仕事を体験すること。その場合、親族の誰か、あるいは上級幹部のひとりが、次期社長候補者のチューター役になること。
②事業を継承するタイミング(ヤオコーの場合は、社長を譲る時期を、たとえば65歳に定めるなど)を前もって設定しておくこと。社員もその事情を事前に開示されていたほうが、次期社長の育成プランに協力する準備ができる。
*わたしが知る限りでは、アイリスオーヤマがそのような手順とプロセスを経て、大山健太郎さんの息子さんを育てていた。ユニクロの柳井正社長は、そのようなプランを示していない。個人的にご本人を知っているので、立派な息子さんなのだから、「次期社長が自分の息子だ!」と宣言すべきだと思う。なんの遠慮もいらないのではないのか。
③後継者がうまくトップに育つかどうかは、結局は、母親の子供の育て方と本人の努力(資質ではない!)によると考えられる。この三番目の仮説は、ヤオコーだけでなく一般企業にも適応できるように思う。
事業承継について心配になる企業は、たいていは母親の子育てに問題を抱えた事例が多いのではないのか。ゴーンさんの母親(賢い母親だったら息子の蓄財を諫めるはず)や大塚家具内での親子喧嘩の事例を見ると、家族内でのごたごたや規律が事業に反映している様子が見える。
学生もそれを指摘していた。正しい判断だと思う。自分が起業したり結婚して家族を持ったら、あるいは子育ての仕方に、ヤオコーの川野会長から学んだことを応用してほしい。すばらしい機会をいただいた。ただただ長い時間の拘束にも、まったく嫌がらずに対応していただき、本当に会長には感謝である。