B2B事業を再定義する: 不二製油の場合

 2013年に7代目の社長に就任した清水洋史氏は、同社の歴史を踏まえて事業領域を再定義することにした。インタビューは、「教科書的な」事業ドメイン見直しの好事例だった。不二製油は、1950年創業の伊藤忠商事のグループ企業。戦後に市場参入した最後発の植物油脂メーカーである。

 

 清水社長のインタビューは、相模屋食料(本社:群馬県前橋市)の鳥越淳司社長との個人的な関係からスタート。不二製油が、雪印(乳業メーカー)の技術者を顧問として雇っていたことから、同じく元雪印の営業マンだった鳥越社長との縁が生まれた。10年前のことである。清水社長によると、大豆の分離技術(低脂肪豆乳+豆乳クリーム)のヒントは、牛乳の分離技術(脱脂乳+生クリーム)から得られたようだ。

 2015年に、相模屋食料は「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」を発売する。その基本特許が「USS」(大豆の新しい分離法:後述)である。不二製油は、その際、相模屋食料にUSSの技術を提供している。分離した一方の豆乳クリームを、相模屋の新製品に使用してデザートとうふを発売するに至っている。

 相模屋食料が、TGC(Tokyo Girls Collection)や神戸コレクションにTOFUを出品することになった経緯については、法政大学経営大学院での鳥越社長の講演録を参照のこと(本ブログに収録されている)。また、その一部は、岩崎達也氏との共編著『メディアの循環』(生産性出版)にも登場している。

 

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■■USS(Ultra Soy Separation)製法■■
 USS製法とは、生乳を分離するのと近い方法で大豆を分離し、「低脂肪豆乳」「豆乳クリーム」という新しい素材ができます。これは昨年特許を取得した不二製油独自の新しい大豆分離分画技術です。
 「低脂肪豆乳」は豆乳の低カロリー化や大豆脂質による風味劣化の低減など大豆たん白素材としての可能性を大いに高めます。
 一方の「豆乳クリーム」は食品にまろやかさや、大豆のコクを付与することを可能にします。また、乳化力にすぐれ、和風のクリーム新素材としても期待されます。 

 

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 (以上の解説は、不二製油のIR資料から抜粋)

 

 本題は、ここから始まる(時代区分は、小川の整理)。清水社長のインタビューを総合すると、不二製油の事業は4つのステージを経て進化してきた。最後のステージで、事業ドメインを再定義することになる。わずか5年前のことである。

 *以下の記述と時代区分は、不二製油の広報部の校閲は入っていない。筆者独自の見解である。 

 

1 「大豆搾油のOEMメーカー」の時代(創業1950年~1960年代)

 大手メーカーの下請けが事業メインの事業。大豆から油脂分を抽出して、ホーネン(豊年)のラベルでサラダ油などを販売していた。高温抽出(>200度)を得意とする先発のメーカー(日清、豊年など)に対して、低温抽出(<100度)を得意としていた。そのため、大豆を油脂分(20%)とタンパク質(30%)に分離するが、そのうちのタンパク質の利活用に強みをもち企業にに育った。実質創業者で二代目の西村社長が、不二製油は「油脂の会社ではあるが、たんぱく質の会社でもあることを忘れてはならない」と遺言している。これが現在のドメイン再考に影響している(清水社長のコメント)。

  

2 「抽出素材多様化」の時代(1970年代~1980年代)

 抽出対象油脂材を、大豆からその他の植物(海外の大規模プランテーションからの輸入素材)に多様化する。派生素材は、チョコレート原料のカカオバター(?)、パーム油(マレーシア)、ヤシ油(フィリピン)、シアバター(アフリカ)など。不二製油の主要顧客が、菓子メーカーやレストランなどに変わる。清水社長は、この時代の同社は、「菓子業界の黒子」だったと解説している。植物の分離技術とともに、この時代には「用途開発」が進む。

 

3 「食品小売業と食品加工メーカーのコンサル会社」の時代(1990年代~2000年代)

 コンビニや食品スーパーの商品開発にコンサルしながら、素材を提供する事業に次第にシフトしていく。たとえば、コンビニのデザート菓子の材料として、チョコレートやホイップクリーム、シアバタークリームなどを供給。同時に、たとえば、大豆由来のタンパク質を用いるメーカー(例:大塚製薬のカロリーメイトやソイジョイ)に素材と技術を提供。

 

4 「植物由来の素材を用いたソリューション会社」の時代の幕開け(2010年代~)

 英語では、「PB-FS: Plant-based Food Slutions」。USSの分離技術に見られるように、大豆やその他植物(穀物類)を分離加工することから得られる素材(低カロリーの豆乳、豆乳クリームなど)を用いて、商品開発や素材を提供する企業に変わる。しかも、そのことを通じて、地球環境や人々の健康に貢献する企業に、事業ドメインを変える決断を明確にしたのが、清水氏が社長に就任した2013年。

 

 次回連載(『食品商業』2018年9月号)では、4のステージの不二製油を取り上げることになる。ご期待を!