6つの10兆円産業: 拡大する市場と縮む業界の地図

 自分たちの生計を支えている業界が、いつの間にか市場を大きく失っていることに気づいて、身震いした経験はないだろうか?ピーク時(20年~30年前)に10兆円を超えていた産業がある。それは、①百貨店業界である。いまや市場規模は7兆円に縮小している。なお、かつて繁栄していた着物市場は、70年代の2兆円がいまや3000億円に縮小している。

 

 それとは、逆に市場が急速に拡大している業界もある。おもしろいことに、「10兆円」が市場規模のひとつの目安になる。

 ②通信販売業界は、2017年に9.7兆円の売上高規模があるといわれている(富士経済のデータ)。しかし、中身をみると、伸びているのはEC部門だけ。通信販売の8割はネット販売での売り上げで、カタログ通販は減少傾向にある。ニッセンや千趣会の経営を見ても、紙媒体の苦戦は明らかである。

 ③アパレル産業も苦戦が目立つ。2000年ごろに15兆円規模あった市場が、今や10兆円を切っている。家計調査をみても、被服費は10.2兆円(2016年)に減少している。15年前と家計の購入点数は変わらない(年間20億点)が、単価が3分の一に落ちているのが原因である。

 ④スマホの普及で通信産業は活況を呈している。3社寡占なので、残念ながら、通信費はおいそれとは下がらない。家計の負担は総額で10.7兆円。一人当たり(赤ちゃんも入れて!)では、ゲームなどを含む通信費に月額6千円以上を支出している(推計)。これが、大苦戦しているアパレル関連の支出減を圧迫している。

 

 衣料品への支出が抑制されているのとは反対に、総じて食品産業は好調である。とりわけ、これまで調子が良かったのが、⑤コンビニ業界である。昨年度(2017年)、市場規模が10兆円を超えた。コンビニや食品スーパー、ファストフードや飲食店のテイクアウトなど、総菜(デリカ)やお弁当の中食市場も、2016年には10兆円を超えたといわれている。

 老人家庭や単身家計が増えたせいなのか、先進国では20%を切るはずのエンゲル係数が、いまや日本では25%に迫ろうとしている。しかし、冷蔵・冷凍温度帯の技術革新で、デリカや冷食の品質は向上している。実際に、通信費が増えて衣服費は削っても、食品関連はおいそれとは減らすわけにはいかない。

 最後に、⑥健康医療産業も10.9兆円と、2016年に10兆円を超えた。厚生労働省が、医療保険の点数を見直したり、ジェネリック薬品の普及に躍起になっても、老人が増え続ける20年間は、この部分の抑制はむずかしいだろう。

 

 こうした消費者の負担をもっと緩和するには、新しい産業とサービスを生み出すしかない。おそらくは、生産性を高めながら、新たに雇用創出できる場は、ふたつの産業に限定される。わたしの予見は、10年前から言っているように、農業と食品産業である。このふたつは、新しい素材の開発と生産性の向上(ITの応用を含む)を用いて、大変革が可能な最後のフロンティアになる。

 IT(AIやデータ分析)そのものは、雇用を生み出さない。それどころか、働く場所を奪ってしまう。サービスと素材革命があるところに、新しい思いもつかない産業が生まれるだろう。それが農業と食品産業を、わたしが推奨する理由である。