院生の左子義則さんから書評をしていただいた。出版前、本ブログに掲載することを条件に、贈呈することを受けていただいた。昨日、完読したので文章が送付されてきた。なお、本書は後期授業「ビジネスリーダーシップ論」のテキストに採用されている。*山田直樹さんの分を追加します。
平成29年10月29日
From: 左子義則
To: 小川孔輔教授
書評『True North リーダーたちの羅針盤』
まず、初めにこの度は大変著名な本を頂きありがとうございました。約500ページに渡る本編は好奇心が途切れることなく、読破することができました。高価な本でありながら、このような機会を頂き誠にありがとうございました。
私はまだ20代ですが、本書を多くの大学生または大学院生に読んで欲しいと感じました。そのため、20代の目線と最も感銘を受けた「公私の統合」の目線を併せて本書の書評をまとめたいと存じます。
~~~以下 書評~~~
本書は就職を控える多くの大学生・大学院生に進めたい一冊と言える。本書で述べられているリーダーの資質は誰しもが持つ「羅針盤」をベースに考えられている。日本は「リーダーシップがある人」とそうでない人を区別する印象が強く、そうでない人はリーダーシップを持つ必要が無いという印象を与えている。しかし、激変する社会環境や国際情勢の中でリーダーの立場にない段階から「自分の羅針盤」を持ち、リーダーへの階段を上がる意思を持った人材が欠かせなくなっている。この視点から、本書は学生の段階から自身の経歴や経験を棚卸し、自分自身の「True North」に興味を持ち、見つめる機会を与える本だと言える。
私が本書の中で最も感銘を受けた点が「公私の統合」である。昨今、日本では「働き方改革」が注目されている。以前の日本では、家庭を顧みず仕事に集中することが一般的とされてきた。現在は、仕事と家庭・普段の生活を両立させ、過度な労働時間を是正する動きが取られている。しかし、本書の中では「4つのバケツ」が紹介されている。この4つのバケツは「人生のバケツ」と呼ばれており、仕事のキャリアや個人の生活、家庭、友人関係などを表している。著者のビル・ジョージはバケツの中にある水の量を人生のタイミングによって調節することで公私を統合することを説いている。4つの調節はいつでも可能であり、その時々で大切にしたいものを優先する決断が重要であると私は理解した。私は人生の長いキャリアの中で仕事に熱中する期間があっても良いと考える。しかし、一方で、家族を優先する時には頭を切り替えて、家族や友人との関係、自分を見つめ直す時間を柔軟に取れる社会であるべきだとも考えている。小川先生のあとがきでも触れられているが、日本の社会が本書のようなキャリア形成を蓄積できる環境に変化していくことが重要であると強く感じた。
最後に、今回、このような機会を与えて頂いた小川先生に感謝いたします。皆様も自身の「True North」を見つけるために本書を読まれることをお勧め致します。
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2017年11月1日
内省を経て得られる指針~True North リーダーたちの羅針盤~
17w0127 山田直樹
私はこれまで、リーダーシップとは他者を引っ張っていく力であり、他者理解の側面が強い心の持ち方だと理解していた。しかし、本書を読み進めるにつれてその考え方が変わっていった。リーダーシップとは、他者への働きかけではなく、自分への働きかけである“内省”を続けて培われる、自己理解の心の持ち方なのだと理解した。そして、内省とは自分に対するコミュニケーションでもあり、読書が自分自身との対話であることも本書を読み進めて再認識していった。なぜ、本書のタイトルにLeadershipが掲げられず、羅針盤を意味するTrue Northが用いられているのか。このことも、リーダーシップの本質は他人を導くことではなく、自己を導くことにあり、ぶれない一貫した姿勢が共感を呼び、他者を行動へ駆り立てるエンパワーメントこそリーダーシップの本質があると理解した。
自分の指針を見つけることは難しく、維持していくことは更に難しい。それは、周囲に惑わされることなく物事のバランスを取ることの困難さであると日々感じていた。しかし、本書に登場するウォーレン·ベニスは、「バランスとは両側に少しずつ重しを与えることだが、人生とはバランスを取るのではなく、浮き沈みのなかでの選択の連続である」と言っている。これはは、何本にも分かれた道のどちらへ進むかが人生の選択ではなく、揺れ動く大海原のなかをどう進んでいくかの選択の方向性を示すのがTrue Northということだろう。何もない大海原で人生に迷わないために指針は重要なのだと思う。
では、自分のTrue Northはどうすれば見つかるのか。本書はノウハウ本ではないから、読者個人への具体的な指針の呈示まではない。誰もが知る著名な経営者から初めて名前を聞くリーダーまでが、多様なバックグラウンドをどう歩んできたかの道程が示され、彼らがどのようにしてTrue North を獲得したかを読者自身の内省に委ねているように思う。
私自身のTrue Northを振り返り、周囲の人々が楽しそうにしている場所に身を置くことが、自分の喜びだと内省した。だから、他人のいうことに耳を傾け、場を作るということを厭わずに行ってきたような気がする。その行動の原点は、大学生の時に御指導頂いた中央大学法学部教授・故相馬久康先生の「人に垣根を作らず」という生き方に大きく影響を受けた点にある。相馬先生は、授業やコンパの場所でも、目の前の私達以上に顔を見せない生徒のことをいつも気にしておられた。それから30年が経ち、本書の監修者である法政大学経営大学院教授・小川孔輔先生にご指導を頂く縁に恵まれ、学業だけでなくリーダーとしての人との接し方を教えて頂いている。この道を今歩んでいることが、自分のTrue North に導かれている証なのだと思う。そして、恩師からの教えを次世代に伝えていくことが、人生の折り返し地点を回った自分の、これからの使命ではないかと考えるようになった。
本書の最終章はグローバル・リーダーシップである。資本主義の本質はチャンス・動機・競争にあり、公正・品位・透明性・誠実を組み合わせることで思いやりのある資本主義が実を結ぶと示されている。そのような社会や組織を創っていくことを、これからの自分のTrue Northに掲げたい。
著者であるビル・ジョージが心臓弁工場を訪れ、ラオスから移民したトップ職人に“仕事の鍵が何か”をインタビューする記述があり、彼女はこのように答えている。
「ジョージさん、人の命を救う心臓弁を作るのが私の仕事です。完成した弁に自分のサインをする前に、この弁を自分の母親か息子に入れても本当に大丈夫なのかを判断します。」
彼女のTrue Northこそ、今人々が持つべき指針なのではないか。自社の製品やサービスを自 信を持って家族や友人に勧められるか。何度も繰り返され、揺らぎ始めた日本製品への信頼を取り戻す鍵は、働く人々が自分をどう導くかにかかっている。
以 上