京都円通寺の借景

 4月から京都女子大で教えているのに、京都観光をほとんどしていない。午後の授業が終わると、そのまま飲み屋さんに移動してしまう。インバウンド人気で外国人が増えたこともあり、混雑している京都の街を走る気にもなれない。そんなとき、JTB名古屋の木村ともえさんとメールでやり取りをしていて、勧められたのが円通寺のお庭だった。

 

 たまには、ふらりと郊外のお寺詣りでもしてみようかな。そんな気持ちになったのは、どうしたことの弾みだろうか。泊まりの荷物とカバンを京都駅のコインロッカーに預けて、身軽になった。
 暑くなりそうだが、午前中は時間が空いたので、地下鉄に乗った。終点の国際会館まで。国際会館は京都マラソンのゴール地点だった。昨年は宝ヶ池にも走りに来ている。地図で見ると、円通寺はそこからバス便になるらしい。

 35度近くに気温が上がりそうだ。たぶん国際会館からはタクシーを捕まえることになるだろう。娘からは、「おとうさん、郊外に出れば、きっと涼しいと思うよ」と言われたが、そんなに気温が下がるとも思えない。
まあ、行ってみるかくらいの気持ちで地下鉄に乗っている。木村さんからいただいたネットのURLを頼りに、行程をチェックしている。

 観光案内は、次のような説明になっている。

 円通寺の庭は、なんと言っても比叡山の借景が見事です。借景とは「景色を借りる」というように庭園の背景に在る景色自体を庭園の一部として利用するもので、この比叡山の借景を得るために後水尾天皇は各所をまわってようやくこの地を探し当てたということです。


 拝観時間は、このシーズンは、午前10時~午後4時30分。冬場の12月-3月は、午前10時~午後4時まで
●市バス: 京阪三条駅→四条河原町駅→市役所→北山駅→
 こちらの選択肢もあったかな?娘は、地下鉄の経路を勧めてくれた。

 お楽しみは、これからなのだが、手荷物が何もないのが不思議な感覚だ。手ぶらでお寺に行くのだなあと、、、

〈後書き〉

 国際会館駅のロータリーで中型のタクシーを捕まえた。運転手さんに尋ねると、円通寺には10分ほどで着くという。バス利用なので帰りが捕まえられるかと聞くと、「運がよければ」との答え。15分ほど、山門手前の駐車場で待ってもらった。
 運転手さん曰く、円通寺は不思議なお寺で、中にタクシーを入れてくれないとのこと。理由はよくわからない。推察するに、借景の庭を楽しむのだから、タクシーで観光客がたくさん来ることを歓迎しないのだろう。駐車場もごく最近になってからできたらしい。

 門をくぐって500円の拝観料を払った。かなり古い建物だ。お香の匂いがする。廊下伝いに左に回ると、横長の二間続きの畳の間がある。苔むした龍安寺のような石庭の向こうに、夏の比叡山が薄く煙っている。
 まじまじと比叡山を眺めたのは初めてだ。麓から頂上までの距離が短い。急峻な修験道の山であることがわかる。なんとなく姿が神々しい。直に畳に腰掛ける。自然に腰が落ち着く。
 11時なのに、適当な暗さが心地よい。心も落ち着く。わたしが部屋に入る前に、すでに三組の参拝者がいた。畳の上に座って、みなさん足をゆるりと伸ばしてある。静かに、垣根と杉木立の間に起立している比叡山を眺める。
この寺は、庭園と借景をテープで説明している。お寺のお坊さんの声だろうか。趣のある渋い声だが、ところどころ部分的に聞き取れない。

 タクシーの運転手さんによると、ここのお坊さんは二人。奥さんの姿は見たことがないという。どうでもいいことだが、話し方が上手で、ついつい話に突っ込みを入れてしまう。
 京都のタクシーさんは、お寺さんや商家の家庭の事情などをよくご存知だ。どこそこのお寺さんは、2度離婚していて、2回とも奥さんはCAさん。「最初の奥さんは、ごっつう美人さんやった」など嬉しそうに話してくれる。プライバシーなどをよく知っている。サービス精神旺盛だ。

 15分ほど座って、スマホで写真を2枚だけ撮らせていただいた。本当は、門をくぐって寺に入った後は、全面的に撮影は禁止だ。ごめんなさい。二枚だけ、こっそりと撮らせていただきました。記念に。
タクシーをあまり待たせると、料金が上がってしまう。そろそろ新幹線に乗る準備をしよう。束の間の借景を楽しませていただきました。たまには、こんな風に静かに観光を、、しかし、京都駅のまわりは混んでそうだ。切符を早い時間に買い替えないと、、