日経MJヒット塾(第二回) 福島屋六本木店の三年後

 日経MJヒット塾のセミナー、昨日は福島屋六本木ヒルズ店が対象だった。今年のヒット塾も繁盛している。7期生は40人。業種はさまざまだが年齢は若い。雪印メグミルクなどに交じって、タニタ、オムロン、スノーピークなど参加企業はバラエティに富んでいる。

 

 福島徹会長が店舗コンセプトと新しい事業(F-Design)の説明をしてくださる。その前に、11時ごろから六本木ヒルズ店を視察。各自、店で実際にランチを購入してみる。おにぎりを購入したひとが約半分。その他は、お弁当やサンドイッチなどをサラダ類と一緒に買っていた。

 食後の感想は、みなさん「やっぱり、美味しいね」。ウッディフロアの落ち着いた売り場で、吟味された食材で仕上げられたデリカはおいしいはずだ。久しぶりに食する福島屋さんのお弁当で、わたしも満足のランチでした。

 

 ちなみに、店舗を視察する際に、わたしが指摘した観察のポイントは4つ。

(1)福島屋のコンセプト(美味しさと健康)が、売り場にどのように反映されているのか?

(2)「三位一体」の中で、生産者と加工業者さんの「思い」(情報)が、どのように売り場で伝えられているか?

(3)顧客はどこを見ているだろう?ふつうのスーパーとの違いはあるのか?それはどのような点か?

(4)従業員さんたちの動き(たとえば、接客)を観察のこと。

 

 午後は、8つのグループに分かれて、グループディスカッションになった。

  討論のテーマは、

 ①福島屋の売り場で感じる独特のの雰囲気はどこからきているのか?

 ②店舗の立地が、東京都の羽村市(5業態)からはじまり、立川、大崎、六本木、秋葉原となっている。

  この立地戦略の特徴は?その意図は?

 

 3時ごろから、グループ発表があった。福島会長から感謝されるくらい、全体的に素晴らしい発表が続いた。

 各グループの発表に対して、福島さんからコメントをいただいた。最後に、わたしが全体を総括してヒット塾はお開きとなった。その後は二時間の懇親会があったが、和気あいあいと時間が過ぎた。

 わたしのまとめ(約30分)で、福島屋さんのモデルに関して、大切な点をいくつかまとめておく。

 

1 福島屋さんの小売りモデルの新しさ

 基本的に、食のSPA(製造小売り)モデルで、「自主MD」。自主マーチャンダイジングとは、全量買取り、商品開発のリスクを自社で担う方式のこと。対抗軸にあるのは、「セレクトMD」。こちらは、原材料の調達と加工をベンダーに任せる方式。会社としては購買リスクを負わない。

 福島屋さんは、そのために新しい形式の「ローカルチームMD」を組んでいる(F-designを参照)。LocalのMDチームには、農家と加工業者が加わる(生産、調達、製造加工、販売企画の混成チーム)。地方を交流の場とするコミュニケーションによって、三位一体が進化していく。福島屋さんが、全体のチャネルスチュワード(調整、見張り役)となる。

 

2 生産・加工・販売一貫システムのメリット

 類似のモデル(SPF)は、今後は、全国に広がる可能性がある。その兆しは、日本各地で起こっている。福島屋モデルは、すでに広島(福山市)のスーパー「エブリィ」で始まっている。

 エブリィ(岡崎ファミリー)は、スーパー以外に、複数のレストラン業態や高級割烹、食材宅配のヨシケイを傘下に持つ。昨年、農業分野に参入した。その意図は、ローカルの農産物を確保するためだ。そして、福島屋さんと同様に、違う形でSPAを実現するため。

 製販一貫のメリットは、これまで生産・流通段階で廃棄になっていた規格外の農産品を、自社加工することで捨てなくて済むこと。これがコストと鮮度(品質)にプラスに跳ね返る。コスト面では、約40%のアドバンテージが生まれる。消費者と生産者に半分ずつ還元できる。

 なお、ナチュラルローソンのローカル調達でも同様な動きが起こっている。ローソンファームとの連携で、エブリィと同様なシステムが動いている。結果として、①鮮度・品質の向上、②廃棄ロスの削減、③農業所得の上昇の三点が同時に達成できている。

 

3 売り切れ御免モデル

 従来型の小売チェーンストア理論では、チャンスロス(販売の機会損失)を「悪」として追放するよう指導されてきた。しかし、SPF(食の製造小売り)のモデルは、場合によっては、チャンスロスが生まれてもよしとする。「つねに棚を満杯にしておくこと」を前提とはしない。

 フードロスを最小化することも、経営のひとつの目標とする。そう考えるのは、良いものを作る小規模生産者が大量に供給できない場合、旬のものや数量限定の商品でも店頭に並ぶようにするため。従来はチェーン店に並ばない非規格品でも、供給ネットワークに乗せるため。

 

 ちなみに、3年前の開業時に、六本木店の売り上げを来店客をみて予想していたた。3年前のブログ(2014年3月)に、その予測値が書いてある。年商10億円、日販300万円。ときどき、ロマネコンテが売れて450万円になるらしいが、三年後の売上予想値は、まさにぴったりかんかんだった。福島会長は、それを知ってとても悔しそうだった。

 「実務家は、(売り上げが立つように)それなりに努力している。そんな仕事をしているのに、(学者さんが)論理的に予想した数値が現実を当ててしまう」。福島会長は、なんともやるせない気持ちになるようだ。でも、当たってしまうんですね。