【日経ヒット塾】「伝えるメカニズム(上):3つのメディアの相互作用」

 2週連続で、岩崎・小川編著『メディアの循環「伝えるメカニズム」』(生産性出版)を『日経MJ』のヒット塾欄で紹介させていただいている。本日は(下)が掲載されている。今日の本ブログでは、「シリーズ(上):3つのメディアの相互作用」をアップする。

 

 連載の(上)では、マスメディア、キュレーション・メディア、SNSの相互作用を、「環メディア現象」として説明し、コクーンが破れて情報が一気に拡散するモデル(「コクーンブレイクモデル」)として定式化した。

 今日発売の(下)では、サントリーのレモンジーナとヨーグリーナが、メーカーのコントロールを離れて、制御不能(発売中止)になったメカニズムを、環メディアで説明している。

 なお、共著者の岩崎さんが、『生産性新聞』(2017年4月15日号)で、同書の新刊インタビューを受けている。タイトルは、「情報伝搬・拡散のメカニズムを分析」となっている。

 

 

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「伝えるメカニズム(上):3つのメディアの相互作用」
『日経MJ』2016年4月10日号

 文:小川孔輔(法政大学経営大学院) 最終版:2017年4月8日

 

 個人が情報発信できるようになった今、マス媒体だけでメガヒットを生み出すことは難しくなっている。現代の大ヒットは、マス(テレビ)とSNSの相互作用によって生まれている。両メディアの中間に、SNSを介してマスメディアに情報を伝え、商品やサービス(キャラクターやスター)のヒットを瞬間的に増幅させる、3番目のメディアが誕生し、「キュレーション・メディア」と呼ばれている。
 その情報拡散の機能特性は、秋元康プロデュースの人気アイドル「AKB48」の総選挙(ファン投票によるランクづけ)とよく似ている。キュレーション・メディアには、リスト化された大量の情報が蓄積されており、こうした情報は誰でも簡単に取り出せ、流行に乗り遅れそうになった人でもブームへの「後乗り」ができる。そのため大きなブームほどヒットの振れ幅が極端になる傾向がある。

 3つのメディアが相互に作用して、急速に情報が伝わる現象を「環メディア現象」と呼ぶことにする(図表)。そのメカニズムを説明するため2つの事例を取り上げる。船橋市の非公認キャラクター「ふなっしー」と、ここでは名前を伏せるが、福岡出身のアイドルのスター誕生物語だ。
 どちらも人気が沸騰する前に数は少ないがコアなファン層が存在していた。いわゆる「ヒットの生みの親たち」である。対象に対して関与が高い関心層(100~300人)を「コクーン」と名づける。ただし、ふなっしーとアイドルが大きくブレイクするには初期のファン層を飛び越えて、一般に情報が拡散されなくてはならない。そのためには、次の2つの条件が必要になる。
 一つは、趣味や嗜好で類似した関心をもつグループ(隣接のコクーン)に情報が伝わることだ。サイン会や本人の画像などが情報拡散の役割を果たす。例えば、このアイドルがブレイクしたきっかけは、ネット上に広がった1枚の写真「千年に一人の逸材」だった。それが他のアイドル好きのコクーンに次々に飛び火していった。
 情報発信の促進役として「著名人」が登場し、ブレイク直前の対象者に「お墨付き」を与えることもある。ふなっしーと加藤浩次(「相撲対決」でふなっしーを有名にした)、アイドルに対する松井玲奈(当時SKE48に所属)の関係である。特徴のあるキャッチコピーや画像が注目を集めるとツイッター上でリツイートの嵐が起こり、瞬く間に情報が拡散した。
 イベントやお墨付きでコクーンが破れて、対象の存在が一般に知れ渡ると、今度はマスメディアが関心を持ち、情報番組やニュースなどで大々的に宣伝する。Yahoo!やYouTubeなどがツイッターやGoogle検索ランキングなどから情報を拾い出し、ランキング露出を通して人気度を発信している。

 

 従来からのヒット現象との違いは、ヒットの波が2段階になること。第一段階は破裂する時で、第二段階はマスメディアによって認知が拡大する時だ。テレビに絶大な力があった時代にはメディアが流行をコントロールできたが、3つのメディアが相互作用を起こすとヒットは制御不能な事態に陥ることもある。

 

 

キーワードプラス:【キュレーション・メディア】
ネット上にある情報を拾い集めてきて、独自の基準で編集する機能を持った媒体あるいはサイトのこと。YouTube、Yahoo!ランキング、2ちゃんねる、種々のまとめサイトなどが代表的で、情報は編集されてリスト化がなされている。