<個人課題#3> 2016年マーケティング論 「原価率研究所(200円カレー)のビジネスモデルは持続可能か」

 以下のメモは、『日経MJ(ヒット塾)』からの依頼で、7月26日に「原価率研究所」(新潟)の本社と新潟駅前本店(一号店)を訪問したときの取材ノートの一部である。『日経MJ』(2016年8月8日号)のドラフト用のメモを読んで、<問1>と<問2>に答えること。

 

*なお、この課題は、全体を要約して書き直したうえで、『日経MJ(ヒット塾)』の8月8日号(上)に掲載されることになっている。日経MJ版は、キオスクで購入のこと。

 

 <原価率研究所の創業>
 一杯200円(税込み)のカレーの販売で、急成長しているカレーチェーンがある。新潟市内に7店舗、東京都内(竹ノ塚)と山口宇部に一店舗ずつ。その名は、「原価率研究所」。2014年5月に、三人の若者が起業した会社で、2年後に50店舗、数年後には株式公開を目指している。
 本店は、新潟駅から歩いて5分。居ぬきの二階建て物件で、店舗面積は10坪ほど。一階が二坪のキッチン、二階が8席の飲食スペース(ホール)。新潟市内の他店も、似たような立地とのこと。
 菅野社長によると、二年前にオープンした本店(一号店)のカレーの販売個数は、年間50万食。単純に計算すると、年間売上が1億円になる。サイドメニュー(チーズ)と自販機の売り上げがあるので、一店舗当たりでは1億2~3千万円になる。
 <200円カレーの原価>
 カレーの原価率が25%~30%(推定)。ごはん300gとルーが300gで、税込み200円。テイクアウト率が80%。見ていると、テイクアウトのお客さんは、複数個まとめて購入していく。着席の二階席は、ほとんどが若者だった(午後11時半で8席中6人)。
 「原価率研究所」という社名だけあって、ノンフリルな経営に秘密がある。象徴的なことは、店内が「3無しの状態」になっていること。水なし、ティッシュなし、エアコンなし。ただし、飲み物の自動販売機が置いてある。受け取りカウンター横の自販機には、飲料が100円で売られている。そして、温泉卵などの持ち込みは自由。自分でトッピングを持ち込むことができる。
 のちの店舗運営からわかるが、光熱費などの負担も低い。店舗の賃料は居ぬきのため、きわめて安い。地方ということもあるが、場所によっては月2万円という物件もある。それと関連して、シャッター通りへの出店が多いのが特徴。地域活性への貢献で新潟県知事から表彰されている!
 <創業者の経歴>
 社長の菅野優希氏は、36歳のベンチャー企業家。21歳で独立創業、アルゼンチンからマテ茶を輸入するビジネスに携わっていた。その後、JFLのクラブチームのオーナー(2年間)を務めていたが、2011年に東日本大震災に遭遇。米沢を経由して家族3人で新潟に避難してきた。
 そこで知り合った吉田恭平氏(31歳)ともう一人の知人(退社)と三人で、原価率研究所を創業する。震災を経験した菅野氏は、「社会のインフラになれる飲食ビジネスを始めたい」と考えていた。カレーと餃子(店舗は準備中)に着目したのは、新潟県人がカレーをよく食べることをデータで知ったからだった。家計調査によると、新潟は県庁所在地別のカレー消費で鳥取市、青森市に次ぎ3位(以下、山形、岡山、松江、金沢、福島の順)。なぜか日本海側と東北が目立つ。しかし、「その割には、新潟にカレーの専門店が少ないことに着目してカレーを安く売るビジネスを考えた」(菅野社長)。
 
 <食材の仕入れとマーケティング>
 カレールーは、大手食品メーカーと共同開発した。ルーには、刻んだタマネギが練りこんである。きっかけは、一号店が年間50万食分を販売していたことだった。食品スーパー数店分の大量のカレールーを発注する飲食店があることに気づいたメーカーの営業マンが、原価率研究所にルーの共同開発を申し出た。
 菅野社長は言うには、「カレーの味は、10点満点で5点。おいしすぎず、ただし、まずくはならないようにレシピをメーカーの開発者と共同で作った」。ちなみに、ラーメンの日高屋(神田会長)もイタリア料理のサイゼリヤ(正垣会長)もいつかインタビューで同じことを言っていた。
 ワンオペで店舗を運営できるよう(実際は、1.5人)、キッチンでの作業を徹底的に合理化してある。二坪のキッチンには、「近い将来、作業用の包丁もまな板もおかないようにしたい」(吉田氏)。カレー皿は蓋つきのプラスティック容器で、皿洗いの必要がない。洗い場は不要で水道代がほとんどゼロに近い。
 キッチンに置いてあるの、50人分の大鍋(二つ)と炊飯ジャー(7つ)のみ。ちなみに、コメは、大手商社から新潟産米を購入。容器は、大手包装資材メーカーから大量購入しているので、原価は非常に安い。徹底的なコスト管理が特徴になっている。
 現在検討中のロゴマークは、大手広告代理店の支援によるもの。「原価率研究所」という社名がユニーク。社長のテレビ出演などで知名度がアップしているが、プロモーション費がほとんどかからない。ブランド名と社長のユニークな経歴からだろう。
<問1>「原価率研究所」は、当面FCも含めて二年後に50店舗。そして、数年後の株式公開(IPO)を視野に入れて運営されている。ベンチャーキャピタルからも注目大だが、そもそも、このビジネスモデルは持続可能だろうか? 競合による模倣の危険などにもさらされる可能性がある。
<問2> 個人的には三人の若者たちを応援したい気持ちになる。ただし、株式公開(IPO)のために、現状ではいくつかの障害があると考えられる。この会社がIPOのために準備すべきことはどのようなことか? ちなみに、小川は、菅野社長に3つのハードルがあることを指摘した。みなさんならば、そうした問題をどのように克服するだろうか?