【科研費の購入システム】 壮大なる無駄とシステム改善の努力を

 W大学の某教授が、科研費を不正使用してから、支出がやたらと面倒くさくなった。10年ほど前からである。研究のために使用できる費目に制限がかけられたことは理解できるが、程度問題である。100円もしないボールペン一本でも、いちいち検収する仕組みが一般化している。



 文部科学省の科研費の支出について、事務経費と研究者(+研究協力者)の労力について、壮大なる無駄が発生している。官僚的な配慮からすれば、万が一の不正が心配なことはわかる。しかし、それにしてもやりすぎではないのかと思うことが多い。硬直的なシステムは、なんとかならないものだろうか。
 個人的な怒りをブログで紹介するのは、自分の立場を危うくするという心配もある。が、このシステムの無駄に対して堪忍袋の緒が切れそうなのだ。数日前に、わが研究室で起こったことから説明を始めてみたい。研究室で朱肉(174円)の替えを買うために、科研費の申請をしたときのことだ。
 もう少し具体的に述べる。科研費の研究や事務作業で必要になる商品は、法政大学の場合(他大学でも共通のシステムを利用しているはず)、WEBの購買システムに入って、アイテムをひとつずつダウンロードしてくる。そうして作成した商品ファイルを、大学の研究開発センターがチェックして、再度、PDFファイルでセンターに提出する。
 この作業は、わが研究室の場合は、秘書の内藤がやっている。今回は、そのうちのひとつのアイテムの購入に関して、大学側(研究開発センター)から、つぎのような返事が返ってきた。あまりのことに、わたしは茫然としてしまった。

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4月26日にご提出いただいた大塚商会でご購入の物品費の件で
ご連絡を差上げました。

ワンタッチ式印鑑ホルダーの補充カートリッジですが、
こちらは科研費からの支出不可となっている印鑑代に
付随する物ですので、同じく支出不可とさせていただいております。

大塚商会からの請求書を学内便でお戻し致しますので、
お立替の上、領収書をお送りいただけますでしょうか。
補充カートリッジを除いた物品について、
お支払をさせていただきます。

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 研究開発センターの担当者に責任があるわけではない。これはシステムの問題だと思う。
 法政大学の科研費WEB購買システムには、4つの会社が登録されている。大塚商会、ビックカメラ、紀伊国屋書店、モノタロウ。そのうちの大塚商会のシステムを、今回は内藤が利用していた。ここでの問題は、「(4社の)WEBでは購入できるのに、科研費では購入できないアイテムがある」という矛盾である。
 せっかく便利なWEB購買システムを作ったのに、アイテムを1個づつチェックして、かつそれでも「・・・付随する物ですので、同じく支出不可とさせていただいております」となってしまったのだ。大塚商会のWEBで8個のアイテムを「買い物かご」に入れたのに、1個だけがセンターの判断で購入不可になった。
 そのあとの処理が大変になる。すべての書類を書き直して再度提出。金額も計算しなおすか、個人支出との差額を計算しなおさなければならない。わたしにはできない作業だ。

 科研費で支出不可となった商品は、「商品番号(2188034 HLS252) ワンタッチ式印鑑ホルダー「はん蔵」用補充カートリッジ 1パック(2個)」である。研究開発センターの判断は、「印鑑は科研費で購入できないアイテム」なので、その付随物のカートリッジ(円形の小さな印鑑パッド)も購入してはならないアイテムである」というで判断である。
 しかし、考えてもらいたいのだ。科研費の申請や商品の購入にあたっては、ほぼ毎日のように印鑑を押している。印鑑は20年前に作った個人のもので、何度ハンコを押してもすり減ることはない。
 ところが、印鑑パッド(朱肉)はどんどん消耗していく。これが、科研費で購入できないのはおかしいのでは?書類を申請するために必要な消耗品である。明らかに、一体の付属物ではない。単なる独立した消耗品である。

 科研費の申請後に、こんなことが日常茶飯時のように起こっている。
 今回の印鑑カートリッジは、値段が2個口で174円である。しかし、このような事務作業のために、内藤の時間が余計にとられてしまう。数万円の備品でも、100円~200円程度の消耗品でも、事務的な作業量は変わらないのだ。センターの担当者との間で何度もメールが送られ、再三にわたる書類のやり取りが発生する。
 いまの科研費システムは、硬直的なルールで運営されている。そのため、壮大な無駄を重ねてしまっているのだ。年間数十億円分が、非生産的な作業のために消えてしまっている。民間企業の場合は物事を合理的に判断している。民間組織では、「50万円以下の支出については、部課長決済」となっているのがふつうだ。基本的な判断については、例えば、「500円以下の商品アイテムに関しては、担当者の判断に任せる」くらいが合理的ではなかろうか。

 もうひとつの提案は、WEBシステムの改善である。大学の購買システムは、「大塚商会、ビックカメラ、紀伊国屋書店、モノタロウ」の4社のシステムと連動している。ところが、ほとんどは科研費の購入なのだから、そもそも「購入できない商品」は、カタログから除外するか、<*>マークを打っておくべきである。
 そうしておけば、今回のように、「購入不可」との判断をいちいちしなくてもよい。ルールを汎用性のあるものにしておけば、無駄なコミュニケーションと事務作業を減らすことができるはずだ。
 これ以外にも、科研費の仕組みに不満を抱いている研究者は多いのではないだろうか。わたしの周りでは、「科研費は使いにくいので申請をやめた」という優秀な研究者が少なくない。日本国の研究力向上にとって、もっと効率の仕組みにしてほしい。ぜひとも全体システムの改善をお願いしたい。