卒業生の井関定直君(イオンリテイル)が、「【連載】オムニチャネルマーケティングに挑む」に登場しています

 井関くん(IM研究科2期生、小川ゼミ)が、ネット系の雑誌でインタビューを受けている。卒業プロジェクトが体系化された形で実務で活かされたことを、指導教授としてうれしく思う。彼のテーマは「副店長ブログ」だった。http://marketing.itmedia.co.jp/mm/spv/1601/27/news022.html



 井関君は、IM研究科を卒業する時にも、プロジェクト最終発表会で、「最優秀賞」(金賞)を受賞している。イオンに在職したまま大学院に通っていたのだが、彼の卒業研究は社内や外部でも話題となり、デジタルマーケティングの賞を獲得している。
 3月からは、イオンリテール南関東カンパニーの経営企画部長に就任することになっている。経営規模で6000億円のビジネスを担当することになる。
 「かなり不安ではありますが、自分の持ち味を大切に業績を伸ばせるよう頑張っていきたいと思っております」というメールが彼の決意を伝えている。卒業生の中でのトップランナーとして、頑張ってほしい。

 以下は、インタビューの前編である。

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 【連載】オムニチャネルマーケティングに挑む:
 イオンのデジタル戦略は「個店」重視、ブログ研究から着想――イオンリテール(前編)
オムニチャネル化を積極的に推進する国内最大級の小売店イオン。本社集中でなく個々の店舗による情報発信を重視するのはなぜか。イオンリテールの担当者に聞く。
 
 国内小売業界をけん引するイオン。大手GMS(総合スーパー)から食料品・日用品中心のSM(スーパーマーケット)まで多角的に展開する同社では、中期経営計画の柱の1つとして「デジタルシフト」を掲げ、積極的にオムニチャネルを推進している。既に数々の取り組みを進めている同社だが、最近注力している分野は何か。2000年よりイオンのEコマースプロジェクトに参画し、「aeonshop.com」やネットスーパーなどECの立ち上げ、グループのオウンドメディア「イオンスクエア」の開発、グループデジタル戦略(AEON.COM)など、一貫してリアル小売業におけるデジタル戦略の構築と現場のオムニチャネルオペレーション実現に取り組んでいるイオンリテールの井関定直氏に話を聞いた。

ユーザーの行動をデジタルでエンハンス(拡張)する
小川 これまで御社はさまざまなデジタルマーケティング、オムニチャネルの取り組みをされてきていますが、目下のところはどのようなことに注力されているのでしょうか。
 
イオンリテール 南関東カンパニー ビジネスイノベーションチームリーダー 井関定直氏
井関 デジタルマーケティングの一部としてのオムニチャネルという考え方もあったのですが、「オムニ」という言葉自体に「全て」という意味があるので、オムニチャネルから全体を捉えるようになりました。その中でも、われわれはたくさん拠点となる店舗を持っていますから、これを軸にどのように戦略を講じていくかということがポイントです。Webで注文や予約をしていただいたものをお届けすることもあれば、注文したものを店舗で受け取っていただいたり、お客さまをお迎えに上がることもあります。あらゆるお客さまの行動バリエーションをデジタルを使ってエンハンス(拡張)させることを目指しています。

小川 具体的にはどのような施策になりますか。
井関 例えば、よくネットスーパーを利用されるお客さまは、来店利用率も上がることが分かっています。よって、オフライン送客用のインセンティブメールを送ります。さらに、同一IDでイオンの専門店ECも利用されるお客さまは、イオントータルでの財布シェア(※1)が高くなる優良顧客であるため、サービスを拡張するべく店舗受け取りとご自宅届けが選択できるサービスをお勧めするなどしています。このように、お客さまの買い物導線の中にデジタルがシームレスに入り込んだマーケティングを心掛けています。昨今はIoTへの取り組みが盛んですが、オンとオフをつなぐことで生まれる利便性をいかに創造し、提案していくかが重要だと考えています。

※1. 顧客がイオン全体(リアル、ネット双方)で使用する購入金額割合
 
2015年12月にスタートしたイオングループ横断のEコマースサイト「AEON.com」
https://www.e-aeon.com
大学院での研究の成果を実践に

小川 大規模小売では、本社での一括施策、オペレーションを展開することが多いですが、御社は個店単位でのデジタルマーケティングや販促を手掛けられている点が特徴的ですよね。例えば、電子チラシShufoo!の「ミニチラ」を活用して、店舗スタッフが個店別の情報配信を実施していらっしゃる。
 
凸版印刷の電子チラシサービス「Shufoo!ミニチラ」を活用し、商圏範囲内の顧客に、個店別の情報を発信している
井関 「Shufoo!」の取組は今期から本格展開しましたが、そもそも2004年くらいには、ブログのトラックバック(※2)を通じて情報が伝搬する仕組みというものを考えていました。それをうまく、われわれのチェーンオペレーションにつなげられないかと。
※2. ブログのリンク先に対してリンクを張ったことが自動的に通知される仕組み。

 小川和也氏
小川 その当時から、チェーンオペレーションを意識されていたということですよね。
井関 発想自体は、相当前からありました。問題は、その仕組みを社内でどう実現するかということ。そのため、外部の力も借りようと大学院(法政大学 大学院 イノベーション・マネジメント研究科)に通って論文のテーマにもしていたくらいです(笑)。その論文が評価されて協力者が増え、奨学金をいただいたりもしました。

小川 ちなみにその論文はどのようなタイトルだったのですか。
井関 「ブログとモバイルの活用による顧客の需要創造革新」というようなタイトルでした。お客さまを副店長のような位置付けにし、一般市民の皆さまが中立的な立場で情報発信をすることが肝で、オピニオンリーダーの発信力の強さ、トラックバックによってどのように情報が伝搬するかといったことを、ネットワーク図などを使って論じています。

小川 まさにソーシャルメディアマーケティングのエッセンスがそこにありますね。まだ黎明(れいめい)期で、ソーシャルメディアといういう概念自体も、現在ほど明確ではなかった時期ですが。
井関 ええ、面白い研究でした。ランドセルのECを題材に、ブログを書く副店長が発信したコメントであるとか、トラックバックでつながっていく第三者のユーザーが言葉を拾ってどうつなげて行き、最終的にECにどれくらい影響を及ぼすのかといったことを、統計的に分析しました。勤務の傍ら、夜間に大学院に通っていたので、実務とリンクさせながら研究を続けていました。

小川 井関さんの実務にとって、有機的な研究だったといえますね。
井関 トラックバックネットワークでECの売り上げが伸びるという検証ができ、ありがたい環境でした。各地域に情報発信をする人がいるということの価値がよく分かりました。イオンにはまず本社があり、さらに540店ほどGMSがあるのですが、各地域でデジタル化されていない会話、情報が大量にあるわけです。お客さまの声、従業員の声、各地域、各拠点で日々なされている会話がデジタル化し、コンテンツとなったときに、どうなるのかという実験ができました。
デジタルだから伝えられる情報がある

小川 大学院を卒業して本社に戻ってからも、その研究を生かした取り組みをされていたのですよね。
井関 その研究を現場で押し進める試みをしました。ただ、当時のブロガーはある一定以上のWebリテラシーを持った方に限られていましたし、まだTwitterもなく、情報を拡散する手段も少なかったことで、運用には苦労していました。発信する情報の質も高くなく、レギュレーション作りも試行錯誤で、長く続けることはできませんでした。

小川 その当時の諸環境が想像できます。それからTwitter、Facebookが一気に普及し、モバイルも随分と進化しましたからね。
井関 やはりスマートフォンの登場は大きなインパクトでした。その辺りから潮流が変わりましたね。

小川 2007年くらいを境としたスマートフォンへのシフトという大きな変化は、デジタルマーケティングにおける1つの節目だったと思いますね。
井関 実感からいってもそうです。従業員が情報発信をするということが単なる作業ではなく、楽しく情報発信をする、楽しく仕事をするという価値につながっていて、だいぶ手応えが感じられるようになりました。

小川 井関さんが大学院で研究していた概念が、周辺環境が整う中で、ようやく形になり始めたということでしょうね。よくいうところの、「時代がようやく追い付いてきた」というか。
井関 ええ、ようやくという感覚はあります。われわれのデジタルにおける戦い方も、今でこそ地上戦から地対空ミサイルを使うイメージですが、十数年前は空対空戦でECのピュアプレイヤーたちと真っ向から戦おうとしていました(笑)。
 われわれが大事にしなければならないものは商品であり、総じてコンテンツです。デバイスやアプリケーションのようなものは、それを作るのが得意な方々がいらっしゃいますし、われわれは決してうまい方でもないので、外部のパートナーと組んでやっていければと思っています。
 デジタルマーケティングにおいても力を発揮できるのは中身の部分。コンテンツマーケティングが重要だと考えています。そのとき、マスの情報をWebに置き換えて発信するだけでは面白くありません。イオンの540拠点に来店されるお客さまが欲しいのは、テレビCMで流しているマス情報ではなくて、自分が今日とか明日に行く近所のイオンのタイムリーな詳細情報なんですね。

小川 お客さまにとって有用な情報、コンテンツを伝える方法は、デジタルならではというものがありますからね。マスの情報を単純にデジタルに置き換えてもダメですし、タッチポイントがPCとスマートフォンでは違う訳で、伝えるもの、伝え方のチューニングが欠かせないことは言うまでもありませんね。
井関 まさしくです。そういうことを一層意識しています。その観点から、各店舗のお客さまの生活に必要な情報を、必要とされるときに、その店にいる従業員から発信していくことが一番有効だろうと考え、オペレーションの変革に取り組みました。