【新春セミナー・こぼれ話】 「社長の器は、会社経営によって作られる」『JFMAニュース』(2016年1月号)

 弥生さんに叱られることを承知で、原稿をアップします。いま郵送中の「JFMAニュース」に掲載の巻頭コラムのことです。内容があまりにもおもしろいので、速攻でブログに掲載することに。ルール違反をお許しください。会員企業の個々人に届くまで時間がかかりすぎます!ので。



「社長の器は、会社経営によって作られる」『JFMAニュース』2016年1月号
 JFMA会長 小川孔輔

 2016年の新春セミナーは、異業種から二人の経営者をお招きして、「農と食の流通を変える」というテーマで開催された。セミナー会場の法政大学スカイホールは、約160人の聴衆で埋め尽くされ、ほぼ満席の状態だった。基調講演者は、ローソンの玉塚元一社長に、パネルディスカッションは、玉塚さんに加えて、カインズホームの土屋裕雅社長と青山フラワーマーケットの井上英明社長に討論をお願いした。司会はわたしが務めることになった。
 当日は、基調講演もパネルも大変に盛り上がった。内容も好評だったと思う。玉塚社長の講演内容については、「ローソンがセブンを超える日」というセンシティブなテーマ設定だったこともあり、講演録をニュースとしては掲載できない。ただし、パネルの内容は、一部を記事として紹介することになる手はずになっている。

 パネルでの討論に関しては、3人の経営者に、事前に簡単なメモを渡してあった。全部は無理としても、それぞれの取り組みの一部についてお話しいただくつもりだった。
 「農業」については、
 ①グローバル調達に対置して国内調達をどのように位置づけるか、
 ②生産者の高齢化や人手不足、農産物の物流に対する対抗措置は?
 ③農業への参入方法をどうするのか。
 「食」については、
 ①美味しさ、安心・安全、健康・美容をどのように実現するのか、
 ②コストとベネフィットのトレードオフにどのように対処するのか?
 ③他業態(たとえば、CVSと花と飲食)とのコラボレーションの理想的な形はありうるのか、
の三点だった。

 ところで、パネルディスカッションを開始するにあたって、三人のパネラーに、「トップとして何を目標に経営に携わっているのか。そして、世の人々にどのような価値を提供したいと考えているのか」を冒頭で話してもらうことにした。各自が答えを用意してくれて、自己紹介が一巡しそうになったところで、司会者の想定とは異なり、パネルは思わぬ展開となった。わたしに代わって、井上さんが玉塚さんに質問を始めたからである。ふたりはトライアスロン仲間で、旧知の間柄でもある。
 井上さんの質問は、「(以前に)旭硝子やIBMや柳井さんのユニクロへ行ったり、どうしてそんなにコロコロ仕事が変わるんですか?」というものだった。玉塚さんの返答が意外だった。「俺、学びたいんだよね」がその答えだったからである。「海外にも行ってみたい。ITやシステムの勉強もしたい、柳井さんの経営なども学びたい」。日本を代表するコンビニエンスストアの社長(54歳)が、「学びたい」と答えたわけである。井上さんも、「(自分も)経営にあたっては、向上心(エレベーション)が大切だと考えている」と畳みかけた。

 実は、土屋さんとわたしはマラソン仲間なのだが、土屋さんがわたしと一緒にレースを走ったあと、「自分は社長になる前は“ヒッキー(引きこもり)”だったが、カインズホームの社長に就任したことで外(人前)に出るようになった」と述懐していたことを思い出した。土屋さんの場合も、会社の成長が自分の成長だったのである。経営者として自らを変えていった結果が、今日のカインズの成功につながっているのである。
 「会社は、経営者の器以上には大きく成長できない」とよく言われる。創業経営者(井上社長)、二代目経営者(土屋社長)、プロ経営者(玉塚社長)と立場は異なるが、三人の社長はともに自らを成長させながら企業を大きくしてきたのである。