TDR(東京ディズニーリゾート)の顧客満足度が、昨年に引き続き大幅に低下している理由を、3日前(11月24日)のブログで解説した。本日はその補足である。「マクドルド症候群」を象徴するもうひとつの重要な品質指標が、今年になって劇的に落ちているのである。
一緒にいる顧客のマナーの悪さと安全性の低下である。具体的に、ふたつのSQIの二年間の変化を数値で示してみる。
(*文言は簡素化してある) 2015年 2014年 2013年
・A:一緒にいる客のマナーが良い 4.69 5.03 5.33
・Q:サービス施設は安全である 5.92 5.94 6.12
ふたつの指標の中で、前者がとりわけ大切である。「一緒の顧客が不快だと思う人」が増えてくると、リピート(再来訪)にマイナスの影響が及ぶことが知られている。本家ディズニーが開業以来掲げている基本コンセプトは、「雰囲気の良さ」と「清潔と安全」である。データを見る限りでは、TDRにおいて、ディズニーのコアバリューが毀損している。ブランドの基本価値を壊す、実に由々しき事態なのである。
11月24日のコメントで、ひとつだけ訂正をしておきたい。元関係者からのアドバイスがあったからである。
「・・・TDRとマクドナルドに共通しているのは、その背後に米国本社の意向があることだ。つまり、米国から見ると日本は大事な収益源になっているために、現地の事情をよく知らずに、数値(売上と利益)だけで日本事業をコントロールする傾向があることだ」(一年前の小川の記述)。
指摘によると、この部分は実際とは異なっているらしい。正しくは、「ライセンシービジネスとして、米国ディズニー・カンパニー社から8%の売上ロイヤリティーの上納を求められる構図は、日本マクドナルド社と同じです。しかし、パーク混雑時に入場制限の実施を強く求めるのは、米国ディズニー社で、オペレーションの工夫で、できる限りピークインパークの入園者数を伸ばそうとするのは、OLCの方です」とのことだった。
基本的に、事業収益を優先したいがため、バルブを閉めること(入場制限)ができない状況に変わりはない。この点に関して、マクドナルドとは違って、米国のディズニーはブランドイメージを守ろうとしている。だが、日本側のマネジメントが、売上優先になっているらしい。米国のディズニーはまだ救いようがある。
もう一点重要なポイントは、人的サービスの提供方法が日米で異なっていることである。そのことは、近年のアトラクションや商品施設のサービス設計に表れている。日本のTDRを米国のパークと比較すると、来場者・商品売上ともに2倍の規模を誇っている。
「これは、米国のパークでは見られないことです。このオペレーションは、ウォルト・ディズニーの創業コンセプトであるテーマ性のこだわり、機械に頼らない”hand to hand & converstion”(対面での接客と会話)の効果を低減させ、顧客満足に少なからず影響を与えていると思います」(元関係者、一部編集)
コスト削減のために、キャストを減らしていることも、CS低下の要因になっている。わたしがコラムで指摘したように、「待っている間の所在なさを打ち消してくれる、キャストとの対話やパフォーマンス」は、いまはほとんど経験できなくなってしまったらしい(定性調査から)。
売上至上主義、効率優先で失いかけているのが、魔法の国での感動である。「園内で、”もう飽きてきたよね”というフレーズをよく耳にするようになった」(元キャストの感想)。感動が失望に変わりつつあるからである。感動指数も失望指数も、この二年間で5ポイント以上も上下している。
米国ディズニーが、この事態を知ったらどう思うだろうか? ディズニーのブランド価値の源泉は、「非日常的な世界での驚きと感動」だったはずである。
CS低下以上に、TDRにとっては、感動指数の低下と舞台(パーク)の雰囲気の悪化が問題である。そのことに、オリエンタルランドのトップマネジメントは、そろそろ気づいてもよいのではないだろうか? JCSIの諸指標だけでなく、利用者からの確かな証言も揃っている。