【学生感想文】 辻中俊樹著『マーケティングの嘘』新潮新書

 4月の読書感想文の優秀者は、4年生女子の江頭さんと松村さんでした。アップします。辻中先生、学生の感想文を、是非ともご覧ください。3年生!先輩に負けずに頑張ってくださいね。また、4年男子も。

 

 経営学部4年 江頭菜摘

 私が学んできた事は嘘だったのかと、「マーケティングの嘘」というタイトルを見て、マーケティングのゼミナールに所属する身として衝撃が走った。しかし、読み終わってみてタイトルの意味に納得した。私が小川孔輔ゼミナールで学んできたマーケティングは嘘ではないが、将来入社する企業のマーケティングには嘘がある可能性もありうると分かったのである。本書の内容と小川孔輔ゼミナールでの活動を踏まえ、嘘のないマーケティングを行う企業とは何か考えてみる。

 本書でいうマーケティングとは一般的に市場調査で用いられる定量的マーケティングを指している。市場調査からマーケーターは消費者像を描くのであるが、その定量的データから実在しない「偽物の消費者イメージ」が構築されていると述べられている。本書の中で働くママの料理の例から分かるように、仕事が忙しく時間のない生活を送り、料理スキルも低いという情報を得ると、彼女たちの料理は手抜きのイメージが浮かぶ。しかし、筆者が考案した「生活日記調査」によって彼女たちの料理は子供の健康を配慮したもので、時間がない中でも最新の器具などを用いて要領よく調理されている事が分かったのである。
 「一人」のデータと聞くと、マーケティングの材料として不十分にも聞こえるが、若い母親の料理の例の結果は、私の周りにいる若い母親の友人にも当てはまっている。彼女たちから話を聞いていると、40 代後半である私の母親より料理に気を遣っているという印象を受けた。生活日記調査の結果から十分なデータは取れると言えるであろう。

 ここで一つ私が懸念する事といえば、生活日記調査の一人の「データの質」である。本書に生活日記調査のサンプルが掲載されていたが、記入者にとってはなかなか面倒な作業であるという印象を受けた。大雑把な性格で字を書く事が嫌いな私が対象者になってしまったら、細部まで記入せず質の悪いデータになってしまうであろう。被験者の調査への協力度や調査を最後まで遂行する意思を維持していかねばならないと感じた。被験者に対する謝礼や、手書きではなくウェブからの投稿にするなど工夫する事によってよりよいデータが獲得できるのではないだろうか。

 本書を読み、定量的分析よりも定性的分析によって真実の消費者像を導き出せるという事を改めて学んだ。また、小川孔輔ゼミナールでは定量的に分析する時もあるが、定性的データを重んじているので、マーケティングの嘘を学んでいるわけではないと安心した。小川孔輔ゼミナール7 か条にもある「現場主義に徹する」は、本書でいう「偽物の消費者イメージ」の構築を防ぐ姿勢であるといえる。ゼミナール活動において企画立案をする際、データを見ても案が出ず、煮詰まる場面がしばしば出てくる。その際、小川先生は「現場を見てきなさい」とよくおっしゃる。ゼミに入った当初は、目の前にデータがあるのに、現場に足を運んでも同じデータが出て二度手間になってしまうのではないかと正直疑ってしまった。しかし、半信半疑で現場に行き、ユーザーの声を聴いてみると、データでは取れなかった多くの新たな発見に気付け、そこから企画案を完成させる事が出来たのである。

 現在私は小川ゼミの金羊社班の一員として企業の方々と一緒に訪日外国人向けのお菓子の商品企画を目指して活動している。4 月末には市場調査として外国人200 人に街頭アンケートに出掛ける。時間の関係上、生活日記調査は行えないが、彼ら彼女らから定量的データだけではなく、定性的なデータを得られるよう、特にフリーアンサーの項目において質の高い回答をもらえるよう調査に励みたいと思う。調査に限らず、常識に惑わされることなく、新鮮な気持ちを持って日々活動していきたい。

 大学4 年生として就職活動をしていると、多くの企業とそのマーケティング手法に出会う。ITが発達した現代社会の中において、企業によってはユーザーの顔を全く見ず、ウェブ上のユーザー情報からユーザー像を導き、アプローチを仕掛けている。もちろんウェブ上のデータからの分析は、ネットが発達する以前の時代の分析より、多数のデータを集める事ができ、コストも安く、手間暇もかからず合理的な手法であると言える。しかし、どんなにネットが発達しようと、データには限界があり、消費者の心の声が分かるのは「ヒト」であると私は考えている。本書や小川ゼミの活動を踏まえ、より一層この想いが強くなった。

 冒頭で述べた「嘘のないマーケティング」とは現場主義に徹し、定量的データだけでなく定性的データをも扱うマーケティングであると思う。小川ゼミで学び、本書を読んだ学生として、この嘘のないマーケティングを行う企業に入社したいと強く思う。

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 経営学部4年 松村沙耶

 この本のタイトルを読んだとき、「マーケティングの嘘とは何だ?」と思いました。本を読み進めてくと、市場調査で用いられている定量的マーケティングは偽物の消費者イメージを作り出しているということが理解でき、タイトルの意味を理解することが出来ました。

 この本で私は特に「気づきを蓄積をしていくことである。一つ一つの気づきは断片に過ぎないけれど、この断片を収集することが、どこかで大きな問いにつながっていく。」という文に共感しました。私がアルバイトをしている時に気づきの大切さを感じます。
 去年の夏合宿で行った生活日記調査を支えているエスノグラフィーは私のアルバイト先でも実践されています。私はスターバックスのアルバイトで時間帯責任者という職位に就いています。時間帯責任者は店舗運営業務の多くに携わっており、社員の方と同じ仕事を任されます。発注や現金管理、人材育成はもちろん、より良いお店を作る為に店舗改善をしていくのも私の仕事です。時間帯責任者として求められることは広い視野を持って、色んなことに気づくことです。そしてその気づきを気づいたままにせず、行動にうつします。
 私はアンケートや調査をするのではなく、実際お客様がどのようなものを頼むのかを日々観察することで見えてくるものがあると思います。そして自分の目で見て気づいたことは大きな効果や成果が出せると感じています。

 私の働く店舗では朝、ドーナッツが本当によく売れます。働いている店舗が渋谷の駅ビルという立地もあり、平日の朝は1時間約140件ほど取引が行われます。もちろんコーヒーだけを頼まれるお客様もいますが、4・5人に1人はドーナッツを頼みます。こうした朝のお客様の行動を見て私は食品の並べ方を変えました。通常ドーナッツはペイストリーケースの上段に置いています。しかし、朝のピークの時間帯はペイストリーケースの中段に並べ、また朝限定でプレーン以外の味も販売するようになりました。前まではお客様に様々な種類から選択する楽しさを提供していましたが、朝は時間がなくじっくり選んでいる時間がないことがわかり半年前から朝のピーク帯3時間は並び方を変えて販売しています。
 この並べ方にして以来、よりドーナッツの売れ行きが良くなり売上がのびました。実際にお客様の様子や歩くスピード、話し方等を観察することで売り上げを大きく変えることがあるとこの経験から学びました。そして行動を観察することでアンケートではわからない気づきを発見でき、効果も大きいということを感じました。この本でも書かれている通り、データーを分析することも大切ですが、お客様の行動を見てニーズはどこにあるのかを察し、そのニーズに応えることが一番効果的であると思います。

 少し話が変わってしまいますが、P&Gは、市場調査やグループインタビューに頼らないと提言しています。その代わりにマーケティングとして実践していることは、「生活してみる」と「働いてみる」ということです。「生活してみる」では、P&Gの社員が消費者と一定期間一緒に暮らし、消費者がP&Gや競合の製品をどのように使うのか、消費者のライフスタイルはどんなものなのかを観察するそうです。また一方「働いてみる」では、P&Gの製品を取り扱う小売店で、P&Gの社員が一定期間働き、消費者がどのような購買行動をとるのかを観察しています。観察して気づくだけでなく、体感してニーズや改良点を見つけている手法に面白さを感じました。数値や文字による意見、インタビューだけではなく、社員自身が消費者と共に体験することによって新たな気づきを見つけられ、その気づきが大ヒットをもたらしているのだと思います。

 この本を読み、改めてマーケティングの深さを感じました。そして市場調査は様々な手法があり、一番効果的だと考える手法で実行する必要があると再確認しました。様々な調査方法がありますが、私はデーターに頼らず、1人の行動や実際に自分の目で確かめていこうと思いました。