ファーストリテイリングの2014年8月期の決算が発表になった。海外事業の伸びは想定通りだが、国内ユニクロ事業の好調(7156億円+4.7%、営業利益1106億円+14.2%)が予想外とのアナリストたちのコメントを多く見受ける。しかし、これは少しも不思議な結果ではない。
ファーストリテイリングの業績は、連結売上高が1兆3829億円で+21%、営業利益は1486億円で+11.8%である。
ところが、拙著『CSは女子力で決まる!』(生産性出版、2014)で紹介しているが、つい最近には、(ファーストリテイリングが、)「国内ユニクロ店舗スタッフ全体のほぼ半分にあたる1万6000人を正社員に登用する」と発表した(14頁)。わずか半年前の4月11日のことである。
その日、港区の本社で記者会見した柳井社長は、2014年度の業績(連結純益)を下方修正すると発表した。FRの株価は即日、終値で11%の下落している。だから、半年間での業績転換、とくに国内事業が好転したのには、明確な理由があるはずである。
「錦織効果」(テニスの2大会連続優勝と全米準優勝のPR効果)は先月のことである。業績の急転換を説明する主たる理由にはならない。
結論を言ってしまおう。国内ユニクロの業績が改善した主たる理由は、以下のふたつである。
ひとつめは、「脱ブラック宣言戦略」である。この間(2014年4月~9月)、国内衣料品業界の上位企業の業績が大幅に改善されたとは聞かない。9月を除けば、むしろ低迷ぎみである(チェーンストア全体の既存店売上高の実績:4月~8月は、94.6% 97.8% 97.2% 97.9% 99.9%である)。その中で、ユニクロだけが業績を好転できた要因は、4月11日に発表した人事政策の転換にある。
他社(飲食業各社、ワタミ、ゼンショー)がもたもたしている間に、わずか一日で、柳井社長は「国内店舗スタッフの半分を正社員にする」と決断した。実は、3年前から「ユニクロ・ブラック説」が巷間に流布しており、優秀な人材が払底しているところで、アルバイト社員の採用が困難を極めるようになっていたはずである。
メディアによって演出された「企業イメージの悪さ」を払しょくするためには、人事に関する思い切った決断が必要だった。決断は一日だったろうが、柳井さんとしては、「3年間の熟慮」の結果だったはずである。4月以降、マスメディアの記事でもネットの書き込みからも、「ユニクロの職場がブラックである」という趣旨の記事が完全に消えてなくなった。
柳井さんの決断の速さと、ファーストリテイリングの広報対応の手際の良さが際立っていた。他社(ベネッセやマクドナルド)がお手本とすべきの事例でもある。
ふたつめは、それと関連して、ユニクロに対する顧客満足度(CS)が高まったからだろう。もちろん、国内ユニクロ事業で、コア商品(とくに女性もの)のマーケティングがうまくいったこともあるだろう。が、基本的には、下期(3月~8月)からの「店舗スタッフの正社員化」の効果が出て、CS(顧客満足度)が上昇し、店舗運営(接客サービス)が効率化できたからである。
決算報告書をみると、店舗スタッフの正社員化によって、店舗運営のための人件費は2%程度アップしている。ところが、営業利益率が50%を超えている(前期比で+3%改善)ので、人件費の上昇が利益増でほぼ相殺されているのがわかる。懸念された人材への投資(人件費アップ)が十分すぎるほどに報われているのである。
前年度と比較して、ユニクロの顧客満足度が大幅に高まった証拠は、10月21日に発表される「日本版顧客満足度指数」(JCSI)の衣料品部門の結果を楽しみにお待ちいただきたい。ユニクロに関していえば、わたしたち研究者(小野:青山学院大学、小川:法政大学)が想定していたのとは、まったくちがう新しい現象が生じている。
つまり、ユニクロのようなマスを対象にしたブランドであっても、顧客満足度が最高水準に到達することがありうる。サービスの研究者にとって、例外的な事象を説明する理論が求められている。チャレンジングな課題ではある。
なお、今回の調査(2014年10月発表、8月~9月調査)では、ユニクロが属する衣料品業界だけでなく、サービス業全般に地殻変動が起こっている。
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