生まれ故郷の能代商業が、甲子園で初勝利。秋田勢が14年ぶりに初戦突破

 いや~あ、そんなに甲子園で勝ててなかったのか。考えてみると、夏の甲子園で秋田勢が校歌を歌ったのを聞いたためしがない。最後に勝ったのは、どこの高校だったのか?秋田高校?秋田人は、夏にはめっぽう弱いのだ。暑いと動きが鈍くなる。しかも、真夏の甲子園である。

 そんな中で、昨日は、能代商業が出場3回目にして、甲子園で初勝利した。それも、昨年は、ぼろくそに打たれた鹿児島勢との試合である。しかも、おまけもついて、逆転勝ちである。

 第93回全国高校野球:能商、鹿児島勢に雪辱(その1) /秋田
 ◇六回逆転、流れつかむ
 やったぞ、14年ぶりの初戦突破だ--。

 
【能代商・神村学園】
 県勢として14年ぶりの初戦突破を果たし、喜びを爆発させる能代商ナイン=阪神甲子園球場で 第93回全国高校野球選手権大会第4日の9日、2年連続出場の能代商は第2試合で神村学園(鹿児島)と対戦。5-3と甲子園初勝利を挙げた。県勢としても97年の秋田商以来となる勝ち星。試合は三回に2点先制されたが、六回に打線がつながり一挙4点を加え逆転。完投した保坂祐樹投手(3年)は制球に苦しんだものの、5安打に抑える好投を見せた。校歌斉唱後、三塁側アルプスに駆け寄った能代商ナインに、全校生徒と地元応援団から大きな拍手と声援が送られた。能代商は大会第9日の14日午前8時、第1試合で英明(香川)と対戦する。
【田原翔一、篠崎真理子】

▽1回戦

能代商   000104000=5
神村学園  002010000=3

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 2点を追う六回表、吉野海人選手(3年)の中前打を皮切りに打線が爆発した。続く保坂祐樹投手(3年)は右中間を破る二塁打。さらに山田一貴主将(3年)の右前適時打で吉野選手が生還、保坂投手も野選で生還し同点に。ヒットが出るたびにスタンドは大きくわき上がった。

 なお1死二、三塁の好機。声援もひときわ大きくなる中、「絶対ランナーを還して勝ちたい」と打席に入った平川賢也捕手(2年)が、勝ち越しとなる右前適時打。山田主将が生還し、スタンドは歓声とメガホンを打ち鳴らす音に包まれた。山田主将の祖母、シゲさん(74)は「まだまだ安心できない」と口では言いながらも、ほおは自然と緩む。県大会決勝翌日の先月24日の練習中に骨折し、ベンチ入りできなかった成田瑠茉さん(2年)は、同級生の平川選手の活躍に喜びながらも「悔しい。でも仕方がない。頑張ってほしい」と力を込めた。打線はさらに岳田諒平選手(2年)の右犠飛で1点追加。吹奏楽部の佐藤楓さん(3年)は「すごい。秋田の連敗も止められるかも。野球部のみんなならできる」とエールを送った。

 保坂投手は三回まで毎回死球を与えるなど制球に苦しんだ。父の充彦さん(48)も序盤は「攻める気持ちを持って投げた結果。まだまだこれから」と心配そうにマウンドの息子を見つめていたが、リードを得た保坂投手は投球が安定。硬さが目立った内野手らも、確実にアウトを取れるようになった。ベンチ入りした安井崇喜選手(3年)の母、直子さん(39)は「いつも通り力を出せば勝てる。つらい練習をしてきたんだから負けません」と信頼を寄せた。
 
 勝利の喜びにひたるアルプス席の能代商生徒ら 2点リードのまま迎えた九回裏2死、マウンド前に転がった打球を保坂投手が捕り送球、一塁の岳田選手ががっちりキャッチ。観客は総立ちになり、黄色のメガホンを振って悲願の1勝を喜んだ。保坂投手の母、淳子さん(48)は「よく頑張った。その一言に尽きる」と顔をタオルに埋め、泣きながら息子をねぎらった。

 ◇「選手の頑張りが開花」県内から喜びの声
 能代商が夏の甲子園で県勢14年ぶりの勝ち星を挙げ、県内からは喜びの声が相次いだ。

 佐竹敬久知事は「『能代商業よくぞやってくれた』という思い。県民に大きな元気を与えた今日の一勝を、さらに次の一勝につなげ、秋田の元気を全国に発信してくれるよう期待する」とコメント。

 県高校野球強化プロジェクト委員長を務める岩見茂・県野球連盟会長は「勝ち方が的中した。すべて作戦通りに戦えたからうまくいったのかなと思う。この1勝は大きい。今の能代商は投打ともにいい。次の試合も楽しみだ」と話した。

 伊藤耕生・県高野連会長は「選手たちは序盤から落ち着いて試合に臨めていた。昨年悔しい負け方をしただけに、選手たちの1年間の頑張りが花開いたと思う」と喜びを語った。

 保坂栄・県野球連盟理事長は「勝つべくして勝った印象。次の英明には手ごわい投手がいる。序盤から点を積み重ね、自分たちの野球で頑張ってほしい」と次を見据えた。

 小野巧・県教委保健体育課長は「ミスはあったが、それを上回る積極的な姿勢が勝利に結びついた。これまでの県勢は初球から打ちに出る迫力が劣っていた。今日は昨年の敗戦を生かすことができていた」と評価した。【坂本太郎、加藤沙波】

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 ■一投一打

 ◇執念で「マウンド守る」--保坂祐樹投手=3年
 「今度はずっとマウンドに立っていたい」。2度目の甲子園での目標について聞かれるたび、必ずこの言葉を口にしてきた。

 マウンドに執念を燃やすのは、昨夏の甲子園で二回途中で降板した自分の悔しさを晴らすためだけではない。「自分がマウンドに立ち続けている時は、チームが勝っている時のはず」だからだ。チームが勝つために、マウンドを守ると決めた。

 試合前日、帽子のつばの裏に「ONE FOR ALL」とフェルトペンで書き込んだ。自分はチームのために頑張るんだ、という思いを込めた。

 対戦相手の神村学園は昨夏と同じ鹿児島県勢。五回までに4四死球と制球が定まらず、「つらいマウンドだった」と言う。先制点も奪われ、ほぼ毎回走者を背負った。しかし、今夏は崩れることはなかった。「3点目を取られた時が一番苦しかった」と振り返るが、要所を締める投球で相手打線を5安打、長打なしに抑える好投。自らの二塁打も含め、六回には打線がつながり4点を挙げ逆転。2点差を守り切った。

 「鹿児島県勢に勝ててほっとしている。完投できてうれしかった。この1勝に満足しないで、2勝、3勝としていきたい」。エースは次の1戦を見据えた。【田原翔一】