ペガサスの経営セミナーが46年間続いてきたのは?

経営コンサルタントの渥美俊一先生が主宰するペガサスクラブの「(2008年度下半期)政策セミナー」を傍聴見学させていただいた。1962年以来、約半世紀に渡って続いている日本を代表する経営セミナーである。参加者は約700人強。日本の大手流通業、フードサービス業の経営幹部たちである。


東京タワー下の「とうふ屋うかい」での会食がきっかけで、招待されたものである。わたしも、「グランドプリンスホテル赤坂」(永田町)に二日間缶詰になっていた。22度に冷房されていたので(たぶん受講者が眠らないように!)、長袖にスーツで指定された座席にすわって二日間を過ごした。他の講師の方の講義も含めて、14時間の講義を全部受講した。
 23日の講義が終わって渥美先生にご挨拶に行った。「ちょっと聞いてすぐに帰られると思いました。全部聞いてくれてくださるとは、大学の先生らしくないですな!」とお褒めの言葉を頂戴した。人懐っこい目で、にこにこ笑っておられた。実にうれしそうだった。
 二日間とも、朝9時スタートで夕方7時(2日目は5時すぎ)までの講義である。渥美俊一氏による「基調講義」が全部で5コマあった。①2008年上半期の日本のチェーンストア業界の情勢分析、②2008年下半期の重点政策提案、である。
 約700ページのテキストに加えて、付属参考資料(約100ページ)を使っての講義形式である。パワーポイントもプロジェクターも使用しない。他の講師と交替で、7時間を壇上からの語りだけで話を繋いでいく。この形式で、46年間セミナーを継続してきたのである。確固たる使命感と知的、体力的なスタミナがないと続かない芸当である。82歳の老人にこれができてしまうのは、ある意味で神業としか思えない。あと25年後のわたしには、まずは無理だろう。正直にそう感じたものである。
 渥美先生をドライブしているものは、突き詰めるとふたつである。豊かな消費生活を実現することと、日本の小売業およびそこで働く人たちの地位向上のためである。米国小売業の動向をベンチマークし、そこに少しでも近づけることが日本の小売業経営者たちの使命である。繰り返し繰り返して、このことを説き続けているのである。その根本にあるのは、宗教的ともいえる社会思想と運動論である。方法論としては、現場観察(米国視察)と計数管理(科学的管理法)が道具になる。
 1962年間から一貫して、この理念と方法論を、日本の小売経営者に説いてきたのである。考えてみると、2000年にJFMAを創設して以来、わたしたちが目指してきた方法論と理念は、渥美先生のものと相似形でもある。ペガサスの渥美さんの水準には到底及ばないにしても、花のある豊かな日常生活の実現と、花産業の社会的地位の向上が、わたしたちが目指す場所である。そこは明確である。
 そうした観点からは、渥美さんのセミナーから学んだ点がふたつあった。ひとつは、セミナーを通しての組織運営の仕方である。わたしたち(JFMAとMPSジャパン)に欠けているのは、一貫性のある組織運営である。年次目標の設定、それと連動した諸活動の企画運営。セミナーや海外視察のテーマが、どうしてもその場のしのぎの企画や運営になってしまいがちである。
 ふたつめは、こちらのほうがより深刻なのだが、コンサルティングのためのデータを、業界横断的にきちんと収集しつづけていることである。年次のテーマ設定や業界の課題は、データに基づいて比較検討されている。そのために、ペガサスのスタッフはかなりの時間を調査分析に注いでいる。この点は、大いに学ばなければならない。花業界のデータを継続的に蓄積するための仕掛けは、早速に始めてはいる。
 小売業のトップ経営者は、皆さん不安である。いつもある種の神経症に悩まされている。事実、個別流通業の寿命は短い。良い時代は10年と続かない。いまの成功は、もしかすると偶然で、ラッキーだけなのかもしれない。客観的な自分のポジションがわからないのである。他社や類似業態と比べて、本当に業績は良いのか?いまは良くても、未来の見通してはいったいどうなるのか?
 そのことを確認するために、赤坂のホテルに半年ごとに一度、彼らは集結するのである。マラソン仲間のホームセンター「カインズ」の土屋裕雅社長と、コーヒーブレイクのときに会場でお話しをすることができた。ペガサスが主催する「米国流通業視察ツアー」や「技術セミナー」に、土屋さんは何度も参加している。「(渥美先生の話の)80%は毎回同じことを言っているのだけれど。そのときどきで聞くほうの状態は変わっている。受け取り方が微妙にちがうので、そのたびにまた違った点で参考になるのですね」
 土屋社長は、同じセミナーを何度も聞くことがあるらしい。「ちがうタイミングで聞けばそれは、別の講義内容なのですよ。小川先生。それと、事例がどんどん新しくなっていきますから」
 二人が話しているそばから、ダイヤモンドフリードマン社の千田直哉編集長がそうコメントしてくれた。たしかに、わたしのセミナーでの講演も、大学の授業でも、同じコンテンツを使っていても、まったくちがった結論や主張や流れになることが多いのである。

 先ほど、カインズのホームページをチェックしてみた。土屋社長のご挨拶が掲載されていたので、ここに転載してみる。文中に、渥美先生の思想と理念が溢れている。

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http://www.cainz.co.jp/Profile_Folder/Profile_flame.html

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カインズにしかない商品
カインズにしかできないサービスで
ひとびとの豊かな生活文化の創造に貢献する

株式会社カインズ 代表取締役 土屋裕雅

日本経済は、長い低迷期を脱してようやく拡大期に入ろうとしています。しかし、オーバープロダクツ、オーバーストアの状況にあるわが国流通業界では、そのまま市場の拡大に結びつくことはありません。少子高齢化時代に向かって、むしろ、縮小傾向に向かうと予測されています。経済の過半を占める個人消費の低迷は、日本経済の将来にとって大きな不安要因となります。これに対して、個人消費拡大の起爆剤の役割を担うのが、われわれチェーンストアであると言えます。近代的に組織化されたチェーンストアが、魅力ある商品を提供することによって消費を刺激する。とくに、カインズのように生活必需品を提供する企業が、質の高い商品をより安く提供することで実質的な所得増をもたらし、生活文化の創造に貢献することで個人消費を拡大し、ひいては経済全体の活性化をリードすることが極めて重要であります。カインズは、日本のホームセンターのリーディングカンパニーとして、その重責を担わなければならないと考えています。

 このために最も重要なことは、カインズがどこよりも魅力あるチェーンストアとして、お客様をひきつけるパワーを持つことです。カインズには、楽しみがあり喜びがある。驚きがあり、生活を豊かにしてくれる商品やサービスがある。そのような企業でありたいと考えています。これを実現するテーマが“make a difference”「違いをつくろう」です。カインズでしか買えない商品、カインズにしかないサービスの創造によってお客様をひきつけることです。

 この目的追求においては、カインズはホームセンターという業態を超えて商品やサービスを開発していき、カインズ独自の業態をつくります。カインズにしかないブランドの商品を開発します。これによって当社は、他社の追随できないトップ企業へと躍進してまいります。