日本版CSI(顧客満足度指数)開発の現在

日本版の顧客満足度指数(JCSI)の開発作業プロジェクトがはじまってから、ちょうど一年が経過した。現状を皆さんにお伝えしておきたい。開発の実施部隊長である、サービス産業生産性協議会、主席コンサルタント・向山聡氏が書いたPR記事をここに転載しておくことにする。本人と開発組織(わたしが座長)からの許諾は得てある。


【会報用・CSI記事】
<記事見出し>
開発進む!「日本中の様々なサービス評価がわかる指数=顧客満足度指数」(第一回)

<リード>
協議会で担っている「日本版顧客満足度指数(CSI)」の開発が着実に進んできた。この指数は「お客様が自分自身で経験したサービスを評価をした」ことを集積していくことで、様々な業界を越えた比較・分析ができるもの。
会報では、3回のシリーズでこの「日本版CSI」の内容や分析結果、今後の展開などを説明する。まずは、その狙いから。

<本文>
●「お客様の気持ち」の不思議
「携帯電話に支払うお金が増えたので、旅行に行かなくなった/本を買わなくなった」などと良く言われます。これは、個々のお客様が「同一業種内」ばかりで比べているのではなく、「自分が接している様々な商品・サービス」を比べて選択をしていることを示しています。「うちの業界の中では評判が良い方なんだけど、業界全体の調子は良くないなあ」というような業種・業界がたくさんあるのですが、それって「自分の業界だけを見ている内弁慶」になってしまっていて、「お客様の心」や「お客様の気持ち」にまで踏み込んでいないから起きてしまっていると考えられます。
それでは、「お客様の気持ち」に近づくには、どうしていけば良いのでしょうか?従来は、それぞれの会社で、ご利用を頂いたお客様にご意見を伺ったり、アンケートをすることで、何とか「気持ちに近づこう」という努力をしてきました。この調査は、それなりに成果が出ていたのですが、どうしても「よく使ってくれているお客様から聞く」「好意的に意見をくれるお客様から聞く」という形になってしまい、大きな課題である「ちょっと試しては利用しなくなるお客様」や「距離をおいていて、他のサービスに行ってしまうお客様」の声を聞くことができなかったのです。

<図1:顧客満足度調査の標本>

現在、開発を進めている「日本版CSI」では、ちょっとだけ使っているというライトユーザーや他社の利用者などの評価を聞くだけでなく、他サービスを利用しているお客様の評価も聞いていくようになっています。この結果、幅広いお客様の声を聞くことができるようになり、個別企業としての課題や改善点だけでなく、自分達の属する業種・業界の課題や改革の方向性がわかるようになるわけです。

●「業界を超える」ことの意義は?
「日本版CSI」の大きな特徴に、いろいろな業界を越えて、比較・分析ができることがあります。それでは、「他業界と満足度を比べる」ことができると、どんな良いことがあるのか、少し整理をしてみましょう。
一番大きいのは、「これまでの業界での常識・当たり前」を覆すきっかけになることだと思います。「うちはお客様のことを考えて経営している」と思っていても、お客様は「他でもっと良いと感じている商品・サービス」を経験していれば、低い評価をしてしまうわけです。結果として、ズルズルと会社の状態が悪くなっていく「ゆで蛙現象」になるのですが、昔からの意識を変えることは難しいわけです。
どこを重点に努力をしていけば良いのか、どのように力を入れていけば良いのか?を考えていくとき、「図2」の分子部分がわかっていることが重要になってきます。つまり、お客様が認める「質の維持向上」ができているかどうかがわかることで、むやみなコストダウンやサービスレベルの低下に走ることなく、経営として目指す目標にもなり、そのための行動を決めるきっかけになるわけです。

<図2:生産性向上の図式>

この分子部分で高い成果を出している企業や業種を見つけ、それらを目標にして個別努力をしていく「ベンチマーキング」が可能になってきます。業界が異なっていても、目指す方向の先にある企業や業種があれば、より良い成果を生む会社に変わっていく指標、きっかけになっていくわけです。

●世界では、どうしているのか
自分達の属する業種や企業の課題を見つける指標の必然性は、すでに世界で考えられてきている事例がありました。米国で14年前から調査を継続しているACSI(American Customer Satisfaction Index)がそれで、この指標をベースに様々な国が調査を行うようになってきています。東アジアでは韓国が、国家戦略目標の一部としてすでに10年間、調査・発表を継続していますし、最近では中国やタイ、シンガポールなども指標の測定を始めました。
米国をとってみると、消費者が利用をする各種の商品やサービスに幅広く網をかけ、GDP(国内総生産)の66%をカバーする43業種の調査をしています。非常に幅広い一般サービスから商品、政府サービスのようなものに対する一般消費者の満足動向を調べ、指標化を進めているため、異業種のお客様満足度やその「満足パターン」の違いなどを理解し、学習する基礎ができてきているのです。

<図3:米国版CSIの対象業種・セクター>

もちろん、統計学などの学問として考えれば、回答する国民自体が異なるわけなので、正確な比較はできないのですが、それぞれの国でのサービス評価の違いなどもわかるようになってきており、世界を相手にする必要が出てきた企業にとっても、比較検討の材料になる指標になってきています。

●日本での現状の進展と、わかったことは
この開発中のCSIについて、詳しいことは次回にお伝えするのですが、いくつか、わかってきたことがあります。
商品やサービスを利用する際に、多くのケースで人は何らかの期待を持って採用し、実際にやったり買ったりすることで評価を行い、使ったお金との対比も含めて「満足したかどうか」を決めているということです。この心理の流れについては、いくつかの調べている業種で似たような動きがありました。また、満足をした結果、そこで終わるのではなく、良いことを伝えたり、ダメなことを口コミで伝えたりする行動も含めた形で、「これからも使うか使わないか」を判断しているという心の動きも同様でした。

<図4:原因→満足→効果 モデル>

これらの心理的なパターンの強弱が業種や企業によって異なっており、そこを分析していくことで「業界としての特徴や課題」「企業としての特徴や課題」も読み取っていくことができるようです。また、このことで単に「どこの会社が一番」というようなお祭り騒ぎでなく、自分達がより高く評価されるように効果的な方向決めを進めていくことができる材料になります。
このためには、数万人の方々に利用経験を確認していくという大規模な調査が必要になるのですが、今年度はこの7月を皮切りに秋と冬に調査を進め、本当に心理的な流れは共通なのか、個別の企業や業種にどのように利用できるのか、などを検討しながら開発を進めています。
次回はこの調査から判明したことや、この心理モデルについて、ご説明をしていきます。

サービス産業生産性協議会
主席コンサルタント・向山 聡