この期に及んで、急きょだが、新しい原稿を付け加えている。『CSは女子力が決める!』の終幕は、「侮れないぞ、男子力も!」である。8社目のホワイト企業は、「島根日野自動車」になる。唯一のB2B企業の事例である。まだ、日野自動車の本社からは、許諾をいただいていないドラフトの前半部だ。
小川孔輔(2014)『CSは女子力で決まる!』生産性出版 V3:20140720
「終幕(カーテンコール): 侮れないぞ、男子力も!@島根日野自動車」
<B2BサービスのCS事例>
クリスマス休暇を間近に控えた昨年の12月20日、およそ一年3か月ぶりで「島根日野自動車販売」(本社:島根県松江市)を訪問することになった。わたしは、7年ほど前から「日野自動車」(本社:東京都日野市)が実施している「販社向けのCS調査」の設計とデータ分析のアドバイザーをしている。
日野自動車(本社)のCS推進室は、全国40か所にある系列販売会社のために、年一回「顧客満足度調査」を実施している。調査対象は、その年に、日野の販社から新しい車を購入したか、整備や車検で車(トラック・バスなどの商用車)を日野のサービス工場に持ち込んだ事業者である。対象企業は、物流業者や土木建設会社、旅館や病院、飲食店チェーンなど多岐にわたっている。
ちなみに、島根日野自動車販売(以下では、「島根日野」と呼ぶ)は、全国40販社の中で、常にCSのスコアが最上位(5位以内)の販売会社のひとつである。とくに、新車販売部門のCS得点が高いことと、従業員満足度(隔年で社内CS調査を実施)が高いことが島根日野の特徴である。
ただし、この日は、CS調査のアドバイザーとしてではなく、本書を執筆するために、「米子支店」で現場担当者の方に再度インタビューさせていただくことが目的だった。本論ではとりあげていない「B2B企業」のサービス事例として、もっともふさわしいケースが島根日野、とりわけ「米子支店」だと考えたからだった。
<新人フロントマン・石原秀司君の15か月後>
「フロントの石原君は、ちょっと疲れているかもしれませんね」
米子空港から出雲支店に向かう車中で、井上 本部長(島根日野自動車)から、午後にインタビューを予定しているフロントマンの石原秀司くんの近況を聞かされた。入社9年目の石原君は、米子支店の新任フロントマンだ。
2012年の9月に、わたしたちが現場視察に訪れた直前に、検査部門からフロントマンに抜擢されたばかりだった。米子支店で整備部門(メカニック)に配属されていたのだが、前任者が他支店に異動になったために急きょ、フロントマンの任務を拝命していた。
「慣れないしごとで、もう毎日バタバタしています」(石原君)
新人のフロントマンは大変そうだったが、表情は明るかった。
「工場長が前々任者(フロントマン経験者)なので、教わりながらどうにかやっています」(石原君)
一緒にインタビューに応じてくださった坪内和人工場長には、ずいぶんと世話になっている様子だった。それが、一昨年の秋のことである。
本社の担当部署から高いCS得点を獲得している販社を選んでいただき、これまでも10社ほど現地の販売拠点を訪問してきた。わたしの現場体験から、島根日野が顧客対応と現場(営業部門とサービス工場)のサービス体制が際立って優れているように見えた。そこで、取材の対象として、再度のインタビューをお願いしたわけである。
<フロントマン:営業とサービス部門の要>
自動車販売の世界で「フロントマン」の仕事は、アメリカンフットボールのQB(クオーターバック)の役割に似ている。クオーターバックは、敵陣の中を走っていくレシーバーに正確にボールを投じなければならない。ときには、楕円形のボールをランニングバックに手渡して突進させる「ラン攻撃」の決定を下すこともある。
フロントの役割も、QBと同じである。取引先から車検依頼や納車などの電話をもらったら、顧客の特性や整備の緊急度を瞬時に判断して、工場のメカニック(整備担当者)や営業担当者に仕事を振っていく。
フロントマンは顧客対応チームの要であるだけではなく、クレームなどにも対処しなければならない。また、フロントマン自身が「実行部隊」の一員でもあるから、朝早くから夜遅くまで休みなく働くことになる。そして、年齢が若いのに責任が重たい分、ストレスフルでとても孤独である。
だからではないが、フロントマンの動きをみていると、その販売会社(販売拠点)のサービス品質の水準をほぼ間違いなく言い当てることができる。
「フロントマンが孤立していそうな雰囲気の販売拠点」は、顧客サービスや従業員満足度に重要な問題をはらんでいる場合が多い。周囲から声掛けをされて、いつも笑顔で会話に応えているフロントマンがいる販売会社はほぼ合格点である。
そして、たいていは営業成績も従業員の満足度も高い。もちろんCSの水準が高いことは言うまでもない。