【日経MJヒット塾】 「続・食のイノベーション(下):常識破る発想、市場創る」(2014年2月7日)

 先週の金曜日で、「日経MJヒット塾」の連載が最終回になった。昨年11月から、毎週金曜日に記事が掲載され、全6回の連載だった。このシリーズは、いずれ『食のイノベーション(仮)』として、「マクドナルドの時代は終わった」と一緒に書籍化を考えている。



 「続・食のイノベーション㊦: 常識破る発想、市場創る」

 豆腐市場は6千億円規模とされ、需要は底堅いものの価格下落が響き、緩やかに縮小している。この伝統的な食品製造業で売上高1千億円をめざす企業が存在する。伝統産業の常識を覆し、ヒットを連発している相模屋食料(前橋市)である。
 自社ブランドの豆腐や油揚げは生活協同組合やシジシージャパン(CGC)系食品スーパーなどでトップシェアを握る店がある。さらに大手流通業のプライベートブランド(PB=自主企画)商品も製造している。
 前橋市に5つの近代的な工場を置く。自動化製造ラインでは、パックの中に豆腐を入れるのではなく、ファナックのロボットが流れる豆腐の上から素早くパックをかぶせていく。量産に対応した逆転の発想。日本最大の豆腐工場から日量約100万丁を出荷する。この圧倒的な製造能力を強みに青森から関西まで供給し、他の追随を許さない。

 食卓に登場する頻度が高いのりから豆腐まで、和食材のほとんどは地方の中小メーカーが製造する。全国の豆腐製造業の事業所は9059(2012年度末の営業許可事業所、厚生労働省調べ)と、10年で4割減った。
 ところが、その中にあって相模屋食料は2002年度に28億円だった売上高を12年度には142億円と、10年で5倍に伸ばしている。急成長した秘密は、既存プレイヤーが「これ以上、改良ができない」と思い込んでいた「木綿とうふ」と「絹とうふ」という基本的な商品カテゴリーに着目して製品イノベーションを起こしたことにある。
 急成長のプロセスにおいて、同社は①製造工程の見直し(自動化ラインの導入)②品質の改善(おいしくて日持ちがする製造方法の開発)③徹底的なコスト削減――に取り組んできた。

 3代目の鳥越淳司社長は旧雪印乳業の営業マンから転身した40歳の若い経営者である。人気アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクターに由来するヒット商品「ザク豆腐」を自ら発案。斬新な商品を開発するメーカーとして相模屋食料の名を一躍全国的に有名にした。
 量販店で主婦に指名買いされることがほとんどなかった豆腐の分野で「商品ブランド」を作れたのがヒットの要因だ。これまで顧客になりえなかった新しいターゲット(20~30代男性)を発掘して、酒のおつまみとしても即食できる新しい食シーンも提案した。

 鳥越社長は豆腐業界の常識を疑う。量販店の営業を担当してきた経験に裏打ちされた「顧客視点」で見るからである。既存の豆腐メーカーにとっては小売店(流通チェーン)が顧客。それに対して、相模屋食料の顧客は最終消費者であると考える。
「豆腐屋とおできは大きくなるとつぶれる」という格言がある。しかし、10年に豆腐専業で初めて売上高100億円を突破した後も成長スピードは減速していない。
 生地にでんぷんを含んだ「焼いておいしい絹厚揚げ」、技術的に作ることが難しく、ありそうでなかった「なめらか木綿3個パック」。さらに「油で揚げない油揚げ」。業界の常識を破る発想で新しいタイプの商品を次から次へと投入できているためである。

【成熟産業の革新】食の伝統分野に多く見かける、市場の成長が望めないと思われている産業でもイノベーションは起こりうる。ターゲットの変更、新しい顧客ニーズの発見、製造工程の見直し、新タイプのプロモーション活動の工夫などが必要だ。