秘書の福尾が、日経新聞(8月24日)に掲載されたある人物の写真を、メールに添付して送ってきた。IM3期生の堀健一郎君だった。堀君は、2年前に「サミー・ホールディングス」から「鉄人化計画」に転職している。社長になるらしい。上場企業の社長に就任することは、小川ゼミとしてはじめての快挙である。おめでとう!
IM研究科の後輩たちの励みにもなる。まだ46歳だったのか。
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<日経の記事>(2013年8月24日、朝刊)人事欄
鉄人化計画 堀 健一郎氏 (ほり・けんいちろう)
91年(平3年)独協大経卒。
00年エイベックス(現エイベックス・グループ・ホールディングス)入社。
13年鉄人化計画執行役員最高執行責任者(COO)。
神奈川県出身。46歳
(11月26日就任。日野洋一社長は代表権のある会長に)
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思いおこせば、堀君とは奇妙な縁である。日経新聞の略歴には書かれていないが、堀君は、法政大学IM研究科の3期生である。獨協大学を卒業して某広告代理店に就職。転職先のエイベックス(取締役)にいるときに、大学院の門をたたいてきた。
エイベックス在職中は、社内の人間関係について彼なりに悩んでいた時期だった。その堀君が卒業研究プロジェクトで取り組んだのは、いまや駅構内や街角にあふれている「ジュース・スタンド」のチェーン展開だった。
それまで彼が経験してきた広告代理店(CM制作)や音楽プロダクションの経営とは、全く無関係な事業内容だった。
わたしは意地悪な人間である。入学試験のときに、わたしは堀君の面接を担当した。だからではないが、迷い鳥のように小川ゼミに飛び込んできた堀君に軽くジャブを放ってみた。
「今までの仕事と無縁に見えるけど、あなた、それ、ほんとにやる気あるの?」
「はい、やってみたいと思います」
わたしのやさしくない突っ込みに対して、堀君はまじめに応えた。
卒業プロジェクトの提出は、諸事情があって、締め切り日のぎりぎりになった。無事に卒業できたのだから、まあ万々歳だろう。ジューススタンド事業は、目の付け所がよかった。大学院に来るまで「虚業」の世界を歩いてきた堀君は、地に足の着いた「実業」をやってみたかったのだろう。
堀君は、優れたビジネスセンスを持っている。もしかして具体的なビジネスとして取り組んでいれば、JR駅構内のジューススタンドなどを取り込んで、それなりに成功していたかもしれない。
これまでも、堀君は数回の転職を経験している。そのたびに、ポジションが上昇していくから、それはそれですごいことだと思う。ただし、その後も職業人としては紆余曲折があって、転機が訪れるたびにわたしの携帯が鳴った。
堀君に対して、わたしは「メンター」なのだろう。だから、成功体験をしてうれしいときも(メディアへの露出など)、研究室に雑誌の切り抜きが届いた。秘書の福尾が、だから、日経の記事に目をとめることができたのだろう。
わたしの心配事はひとつだけ。
社長就任が、堀君の人生の中で早い段階で到来したことである。幸運な昇進に見えるだろうが、わたしの経験は別の懸念を感じさせる。少しだけ先に生まれ、少しだけ余計な経験を積んだ人間からのアドバイスである。
創業経営者でもない50歳前の人間が、経営トップに昇り詰めることの恐ろしさについて感じてほしいのだ。基本的に、人間は嫉妬深い生き物である。そして、リーダーとなる人間はかなり欲深い存在である。
この2種類の性質の異なる物質が化学反応を間違えると、合成化合物が爆発を起こすことがある。組織の力学がどのように働くかはしらないが、この先の会社運営においては、堀君には自らの若さを意識したリーダーシップを考えてほしいのだ。