中華街で食事をして、横浜・関内駅(@JR京浜東北線)にあるビジネスホテルに戻る途中、大通り公園の側道に、ジャズをライブで演奏しているカフェバーを見つけた。翌日(7月14日)、根岸森林公園でリレーマラソンを走るためにホテルに泊まっていた。その帰り道である。
中華街からふらふら関内の辺りまで戻って来て、気がつけば夜の9時半。夕方の涼を期待しての夕立(シャワー)には降られず、蒸し暑いままだった。
携帯で明日の天気をチェックしてみると、横浜地方(南部)は、レース中の気温が33度を超えてしまうらしいがわかった。ちょっと憂鬱な気分で、濱の古くからの街を歩いていた。
目に留まったのは、ライブハウス風の店。暗闇の中に、”Jazz Cafe gig”の看板。店内をちらと覗くと、ウッドデッキのテラスに開いた折戸際のテーブルに、サキソフォンやトランペットを膝に抱えたミュージシャンらしき中年の男女が数組。
アルコール入りのタンブラーを回しながら、彼らは目をつむってステージの音楽に耳を傾けている。
アマチュアのミュージシャンのグループらしい。かなりの人数である。ステージで演奏をする準備をしているのだろう。3連休の日曜日。なんとなく良い雰囲気である。
翌朝、ハーフマラソンのスタート時間はそれはど早くない。ホテルの最寄駅、JR京浜東北線・関内駅からマラソン会場になっている根岸森林公園までは、電車(根岸駅)とバス(旭台)を乗り継いで約30分。ゆったりと時間がありそうだ。夜遊びするにも余裕がある。
部屋に戻ってあとは寝るだけ。ほんの30~40分。そう自分を得心させて、店中に入ってみることにした。バーボンをロックで寝酒に一杯。もうすこし、このまま自分を行かせてみるのもよいのかな。
ドアを開けると、目の前がカウンターになっていた。予想とすこしちがっている。店内の「常連客」とはやや風采も年齢も異なるわたしの姿を見て、年配のママさんとおぼしき品のよい女性が、ひとつだけ空いているステージ前のテーブル席にわたしを案内してくれようとした。
一瞬のことである。カウンターの上に置いてあるボードの「注意書き」が目に留まった。
「お客さんは、チャージ無料です」
「えっ?」 わたしは、目を疑った。
室内を見渡すと、テーブル席に腰掛けているわたし以外の面々は、全員がなんらかの楽器を脇に抱えている。そうか、みなさんは3連休のこの週末、楽器を演奏するために、この”小さなライブハウス”に通って来ているのだ。
だから、わたしのような偶然に入店してしまったお客は無料で、彼ら・彼女たちは、「テーブルチャージ1000円」を支払うことになるのだ。納得してしまった。
玄関正面のカウンター席に5人が座っている。彼らはなぜか楽器を抱えていない。ベースやピアノやドラムの担当なのだろう。運ぶのが難しいインスツルメンツの奏者は、座る場所も特別そうだ。
それから、”観客席の中央には、4人がけのテーブルが5つくらい。つぎのステージでは、ジャムセッションに参加するはずの演奏者(プレイヤー)たちが3組ほど、別々の席にまとまって腰かけている。
あとは、わたしが腰掛けるように勧められた2人がけの角テーブルが3脚ほど。この席は、ステージの真ん前まで、向かって右側の壁に沿って配置されている。
その奥がステージになっている。観客席から左側に、白いジャズピアノが一台。年代物に見えるが、若い女性ピアニストが、澄んだ音色でセッションの伴奏をしている。ジャズピアノは、アドリブ演奏が多そうで、クラシックとは別の才能が必要そうだ。
最初に座ったセッションでは、前列に3人の奏者が並んでいた。テナーサキソフォン、トランペット、エレキギター。どこかで見たように組み合わせだ。そうなのだ、例の大きなハリケーンが到来して水浸しになった米国南部の都市ニューオーリンズで見たステージそのものだ。
わたしが店に入って最初のステージが終わると、10分間の小休止になった。
目の前に座っている中年の男性(年のころは50歳ちと手前)に、この店の状況をたずねてみた。ちょっとお腹が出かけているこの男性は、のちにベース奏者だとわかるのだが、わたしのぶしつけな質問に丁寧に答えてくれた。
関内の辺りには、Jazz Cafe gigのような”ライブハウス”(ジャムセッションができるカフェバー)が20軒ほどある。横浜駅付近にはなくて、なぜか関内付近に多い。思うに、もともとJAZZが米国南部の文化である。これが横浜から日本に入ってきたことは想像に難くない。
こうした店に集まってくるのは、40代以降と20代の若い世代の二つのグループ。アマチュアの演奏家が集まってジャムセッションをやるのが目的である。
ちなみに、ジャムセッションとは、32小節でテーマを演奏したあと、任意に組んだメンバー(ピアノ、ベース、ドラム、サキソフォン、トランペット、ギターなど))がアドリブで演奏していくセッションのことらしい。(わたしはトランペットの経験はあるが、JAZZがよく知らないので、説明はこの程度で(恥))。
昨夜は、演奏者で店内が満席(約30人)だった。室内で周囲に聞いてみたところ、鎌倉から来ていたプレイヤーもいたが、ほぼ関内近辺に住んでいる方ばかり。だから、横浜関内管内には、コアなアマチュア演奏家が約5千人いると推測できる。
数字の根拠は、20軒×30人(満席)×8.5(週末、月一回だけセッション参加)=約5千人。
全国では、この20倍の愛好家がいると考えられるが、素人ミュージシャンが1000円のチャージを支払って、気軽に演奏できる場所を多く確保することはむずかしいらしい。人口密度だけでは説明がつかない。
都内には、新宿と渋谷にそれそれ3軒ほどの”JAZZ Bar”(=アマチュア向けのライブハウス)があるという。断然に、横浜・関内が優勢である。JAZZそのものが、太平洋を渡ってきた音楽文化だからなのだろう。
そして、なんといっても、アマチュアJAZZ仲間とその演奏文化を支えているのは、横浜という町が持っている”民度”と”歴史”なのだろう。そう感じて、横浜の夜を過ごした。
また、誰かとこの町に来てみたい。どなたか、いらっしゃいますか?わたしと一緒に、一晩、横浜の”JAZZ Bar”をハシゴしてもよろしいと思われるお方は? 夏の夜、7月末から8月にかけて、週末がよろしいかもしれませんね。