日本マクドナルドから月次データが公表された。予想をはるかに超えて、既存店売上高が対前年比で-17.0%とダウン(全店では-15.2%)。客数は-8.1%、客単価は-9.7%の減少である。同日に発表された2012年度決算も、予想通りに減収減益である。
問題だと思うのは、フードジャーナリズムの専門家たちが、マクドナルドが減収減益を続けている根本的な理由を理解していないことである。それどころか、「ビッグマックキャンペーン」を礼賛するような記事ばかりを書いている(1月掲載の学生レポート課題を参照)。
この厳しい現実への対応策ははっきりしている。QSCへの回帰である。客数を増やすための小手先のプロモーションなどはやめるべきである。現場が疲弊していることを幹部も知っているはずである。それとも、全店舗中のFC比率(フランチャイズ比)を高めすぎたので(>50%)、本部からは現場が見えなくなってしまったのだろうか。
実際に、これまで何度も指摘してきたことだが、わたしたちが実施しているJCSI(日本版顧客満足度指数)の調査で、マクドナルドのCS(顧客満足度)は大手飲食店チェーンの中では最下位レベルである。細かく見ていくと、基本的な品質と値ごろ感で、消費者からの評価はかなり良くない。これは、ブランドイメージ調査とは別物である(一般に調査すると、マクドナルドのブランドイメージはかなりよいことになる)。
原田CEOはじめとして、このことに経営幹部が気づいてもよさそうなものである。7年間増益が続いてきたことからくる慢心なのだろうか?わたしが見るところ、日本マクドナルドは、「戦略的なダッチロール」を繰り返している。
1月の”「ENJOY!60秒サービス」キャンペーン”(ビッグマックを注文してから60以内で提供できないときには無料クーポンを渡す)は、予想通りに大失敗に終わった。それが証拠に、「1月14日(成人の日)に新成人25万人にビッグマックを体験してもらい、1月21日にブレックファストにおける一日あたりの歴代最高客数を記録した」(日本マクドナルド発表)にもかかわらず、客数・客単価は大幅に落ち込んでいる。
一日の歴代最大顧客数を獲得しながら、月間の客数が大幅にマイナスはありえないだろう。外食産業の不調とは関係ない。経営のやり方がどこかおかしいのである。
ここで、1月に提示した「マーケティング実行論」の<課題2>を再掲する。この答えに対するベストレポートを紹介する。経営的な解は、大学院生の土井さんのレポートに明らかである。
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<課題2>
以下の文章を読んで、「ハンバーガー研究家」(白根氏)のコメント(ウェブ記事)に対して、自らの見解を述べよ。
なお、小川の個人ブログ(11月26日、12月10日、12月21日)と、日本マクドナルドの月次販売データ(対前年同月比)を同時に参考にせよ。
12月のマクドナルドは、既存店で、客数(-0.8%)、客単価(-7.9%)、売上高(-8.6%)ともに前年割れをしている。全店でも、売上は-7.0%のダウンである。これで、既存店は9か月連続で売上を落としている。
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<マーケティング実行論・ベストレポート>
~日本マクドナルドの商品戦略に対する考察~
法政大学院イノベーションマネジメント専攻
土井 元樹
このレポートでは、2012年度下期からの日本マクドナルドの商品戦略について書かれた「ハンバーガー研究家」(白根氏)のウェブ記事に対しての自らの見解と、マクドナルドがとるべき戦略についての考察について述べる。
白根氏は2013年度1月に実施されたマクドナルドのビックマックを中心としたキャンペーンに対し、話題性と現場の士気をあげる効果があり有効と主張している。私はこのキャンペーンは、マクドナルドが価格戦略においてマーケティング上で重大な失敗をしたと考える。その理由として、高付加価値商品を値引きするという価値の逆転が起きていて本来取り込みたい客層に対するキャンペーンになっていないこと、提供するオペレーションの限界を超えてしまいESに与える影響が大きいことの2点である。
まず1点目の価値の逆転についてだが、マクドナルドはモスバーガーのような顧客と密接に関係性を構築する戦略でも、ブラックカウズのような黒毛和牛を使ったハンバーガーという圧倒的な商品力で勝負する戦略でもなく、手軽さ、スピードを重視した戦略である。そういう意味ではクーポンによる販促やアイドル時間を有効に活用出来るコーヒーの展開などの客数増戦略こそがマクドナルドの基本戦略であるべきである。しかし、クーポンを大量に配り過ぎ、カフェアイテムとしての100円マックシリーズが定着した結果、安く食事をするのはマクドナルドという意識を消費者に与えてしまった。これは激安スーパーなどがチラシ戦略をやりすぎ、セール時にしか集客できないジレンマと同じである。
本来ここでマクドナルドでしかない価値の提供を考えるべきであり、もう一度QSC+Vの徹底と高単価商材の投入をじっくりと行うべきである。しかし、今回はビックマックというマクドナルドの高単価アイテムを値引きするという矛盾を含んだ販促を行ってしまった。60秒提供キャンペーンでは、実際に値引きは行われていないが、無理なオペレーションで作成されたビックマックが本来の商品価値を全店で与えるのは非常に困難であり、実際食べた人の感想では商品の崩れなどがあったとの報告もある。また成人への無料配布は実質的な値引きであり、そこで貰った成人がリピートするかは疑問である。
そしてこの戦略の一番の問題点は、このような話題づくりに反応するのは、今までマクドナルドが集めてきた低単価指向の顧客であり、購入動機が安売りと変わらない点である。仮に今までマクドナルドに来なかった高単価指向の顧客がビックマックキャンペーンに参加しようとしても、混んだレジや店内を見て再利用しようとは思わないだろう。マクドナルドが求めている単価700円以上払える顧客は別にマクドナルド以外に食事の選択は多く出来るため、あえてマクドナルドに来る理由が無ければ来ない。まして本人のリピート率が低く商品も分からない中メニューが無くなっており、注文の段階でも不満足を感じるならば尚更リピートしようとは思わないだろう。そもそもマクドナルドはビックマックを売りたいのだろうが顧客は別にビックマックを食べたいとは思っていないのである。
次に2点目だが、既にマクドナルドの基本であるQSC+Vの高さが失われつつある中で、さらに従業員に対し負担をかけまるで機械のように扱う戦略を行っている点である。マクドナルドの提供する価値は商品提供の早さだけではない。店内やトイレの清潔さやマニュアル化された安心感のある一定レベルの接客も本来の価値であるはずである。しかし、売上という短期数値を追いかけてしまう中で、目に見える数値として現れにくいこれらの価値が急落している。
マクドナルドにとってハンバーガー大学という他社にない資源を利用した教育は他社から真似しにくいコアな資源であるが、その良さを消してしまうぐらいのオペレーション負荷が現場にかかっている。これは講義の中で紹介のあったJCSIのデータや店舗観察の結果にも現れている。ESの低下は確実にCSにも影響を与えるので、ここでも本来戦略として取り込みたい高単価指向の顧客へのアプローチとは逆の方向に戦略が向いてしまっている。
ではマクドナルドは今後どうすれば良いかについてだが、私は声かけの徹底と、マクドナルドでしか食べられない季節レギュラーの高単価商品の拡充だと考える。
まず声かけだが、コンビニエンス業界でも最近は普通に行われるようになったが、元々徹底して行っていたのはマクドナルドである。一時期強引に押し売りのようになっていたが、単純に商品を進めるだけでなく、「健康によいサラダや野菜ジュースはいかがですか?」など顧客の健康や嗜好性の高い商品のおススメを行っていくことで単価アップを図るのである。そもそもマクドナルドの強みは高いオペレーション力であり、そういう人材を育てるノウハウである。そこを活かすためにもプラスα商材の拡充を行っていく。
100円マックなどは従来のハンバーガーなどの基本商品とカニバリを起こすものが多いため、単価アップよりはそちらを中心に注文されており、単価ダウンの原因になっている。そこでハンバーガーといっしょに食べるべきプラスαを提案出来る商品開発をしていくのである。例えば野菜をふんだんにつかったシェイクやメッツコーラなどの特保商品の導入なども考えられる。さらに現状の月見バーガーのような季節感のある商品の提案である。毎年この時期に出るといった商材は顧客誘因と単価アップの効果が期待出来る。
2010年からのビッグアメリカシリーズも良かったが、一度きりと言う限定感を出しすぎた為にせっかく良い商品でもレギュラー化が出来ないという弱点もあった。それを補う意味でも季節限定で且つマクドナルドでしか無いようなバーガーを提案していく商品開発力を持つ事である。
大切なのは既存のオペレーション力が活かせる商品を開発するということだ。新しい機械導入や割引クーポンなどの投資をするよりも、話題性のある商品だけでなく、既存メニューを作り立てで素早く提供するオペレーション力を活かしつつ、QSC+Vの価値を顧客に提供することが、今マクドナルドに求められていることだと考える。