訪問の手土産にお花を持参することの効用

 『農耕と園芸』(2012年次回号)に、「訪問の手土産にお花を持参するメリット」というコラムを書いた。先々週のある出来事を踏まえてのことである。本日、経営大学院で「フラワーバレンタインの2012年度報告会」が行われる。花を贈ることがどれほど効果があることなのかは、女性のほうがよくご存知ののように思う。

 
 昨日の夕方のことである。大学院の学生とふたりで、埼玉県の奥秩父にある小鹿野町で、急な山道を走る20㎞のレースに参加した。生まれて初めてのトレイルランである。標高差400mの登山道を、約5時間かけて走ってきた。ふたりとも筋肉痛のうえに、疲労困憊である。
 西武秩父駅からは、特急電車のレッドアロー号に乗って池袋駅についた。疲れてはいるが、そんなときには、行きつけの飲み屋で一杯引っかけたくなるものだ。一緒の大学院生も同じ気持ちだった。そこで、ふたりの共通の知り合いが経営している上野の店に行くことにした。れんこん料理を専門に食べさせてくれる居酒屋である。店主さんは、むかしわたしが教室で教えていた学生の母親である。

 上野駅の改札口を出た右手に、大手専門店チェーンのショップがある。店の予約時間からすでに数分遅れていたので、最初はそのまま通り過ぎようとした。しかし、店頭を飾っている紫色の大輪のシャクヤクが気になって、駅舎を出たところで引き返してきた。思いなおしたのは、しばらくぶりの訪店なので、「手土産にお花を」と思ったからだった。
 わたしが店の前で立ち止まった理由を聞いた院生が、「桂子さん(母親の名前)、お花がとても好きなのだそうですよ」と、わたしが知らないことを知っていた。ちょっとびっくりしたが、ある年齢で商売をしている女性には、お花が好きなひとが多いことを経験的に知っていた。とくに、飲食業とアパレル関係の女性にその傾向が顕著である。
 紫のシャクヤクは、やや開き気味だった。「あまり日持ちしないですけど、よろしいでしょうか?」。その店員さんはとても正直だった。教育がよく行き届いている。日持ちはしなくてよいから、一番美しい今の花を届けたいと思った。

 お店に着いたときに、桂子さんがわたしたちを入り口で待っていてくれた。シャクヤクにチョコレート色のバラを二本添えてもらい、遠慮がちな赤のリボンで束ねたブーケを手渡した。「(シャクヤクは)開き切っているので、あまり日持ちがしないかもしれませんよ」と一言付け加えた。
 その花束とは別に、黄色いひまわりの一輪を、「こちらは、娘さんに!」と手渡してみた。うれしそうだった。そのあとの会話は、ご想像にお任せするとして、ふた束で、値段は1,500円である。
 おそらく、飲食店の経営者だから、お菓子のような食べ物はそれほどありがたがられなかろう。上野の近辺には、「うさぎや」のような有名なお菓子の老舗もある。むしろ、だからこそ、ちょっとおしゃれな花束のほうが、贈りものとしては喜ばれるのではないのか。

 かつてのバブル期の様に、5 ~6千円のバラの花束ではない。1,000円~ 1,500円も出せば、花店の店員さんが素敵なプレゼントをデザインしてくれる。
 花業界の団体組織の会長さんだからというわけではない。昨晩のプレゼントが特別だというわけでもない。大手企業の経営者や知人や友人たちの事務所を訪問するとき、わたしはいつも、お土産に小さな花束を購入して持参する。
 一番良いのは、その花束を男性の経営者ご本人に渡すことではない。できれば、女性の秘書さんに、「これをどうぞ」と、さりげなく手渡しするのが、上手なプレゼントの極意なのではなかろうか。