誕生日の日(10月23日)に、「成熟業態における新成長戦略:流通企業におけるポジショニング戦略と競争戦略」というテーマで、㈱成城石井社長の大久保恒夫氏から講演をいただいた。わたしは、日本ショッピングセンター協会の主催による講演会のコーディネーター役であった。講演はおもしろかった。
大久保社長は、ご存知のかたも多いと思うが、IYの業務改革を指揮した鈴木敏文氏(7&Iホールディングス会長)の下で、若かりし頃、IYグループの戦略スタッフを務めていた。その後は、流通経済研究所勤務を経て独立創業(リテールサイエンス)。ユニクロ、良品計画の改革をコンサルタントとして成功に導いた。
2004年に、ファンドの紹介で九州のドラッグイレブンの社長に就任。2007年からは、同じくファンド(アドテージ・パートナーズ)から招聘されて、成城石井社長に就任している。「企業再生引受人」である。登板したすべての事業の再生を成功に導いている。異色の経営者、コンサルタントである。
そのお話が面白いのは、現在のディスカウント、PB商品全盛のなかで、プレミアム性を主張しているからである。講演の冒頭で大久保氏が最初に言うのは、「値下げはしません」「従業員の首は切りません」である。それでいて、すべての小売業の再生に成功できているのは、以下のような理由からである。以下は、わたしのメモから、講演内容を要約したものである。
1 現場とのコミュニケーション
計画より実行のほうが大切だから、たくさんのことを指示しない。現場で実行できる最小限のことを伝える。ただし、実行できたかどうかは、入念にチェックを入れる。まずは、挨拶ができるようにする。挨拶ができない従業員は、そのほかのこともできない。
2 商品アイテムの絞込み
売り込む商品(128アイテム=8アイテム×16部門)を決めるので、上位10~15%の商品だけに、販売努力を集中させる。それらの商品(粗利が大きいことが大切)に関しては、安売りではなく、商品の良さを伝えるように売場を編集する。その結果として、単品の仕入ロットは大きくなる。(例:ユニクロの改革は、単品大量販売がポイントだった!絞込みの成果である。)
3 教育に投資する(管理スタッフを減員しない)
商品の優れていることを消費者に伝えるために、売場レベルでの教育を徹底する。セルフでありながら、商品の良さを伝えられなければ、良い売場は作れない。例えば、売場で顧客に問われたときに、正確な情報をつたえる従業員がそこにいれば、店へのリピートは増える。固定客作りこそが、小売業の生命線である。そのために、スーパーバイザーを増やす。
印象に残った言葉。「成功している企業や組織に長く留まらないで、つぎつぎと仕事先を変えるのはなぜか?」(小川)との質問に答えて。大久保さんは、「自分の価値を高められるかどうかが、新しい仕事を引き受ける基準だ」。正確な表現は少し違っているかもしれないが、感動の一言だった。