高級なレストランや料亭では、おいしそうな料理に小花が添えられていることがある。季節感を演出したり、素材を美しく見せるためのアクセントとして、プレートに花は散らして見せることは、一流の料理人のテクニックとして欠かせない大事な演出法である。
よく見かける料理の添え花は、デンファレ(ラン)と金魚草(スナッパドラゴン)である。日本料理では、小さな黄色いキクが添えられていることも多い。
世界中で花の生産現場を歩いてきたわたしとしては、料理皿の上に乗せられた花を見ると、実はぎょっとする。食べることはもちろんしない。お箸ではなく、手でそっとつまんで皿のわきに寄せる。なぜなら、たとえば、デンファレはほとんどがタイから輸入されていることを知っているからだ。この花は、現地では農薬漬けである。
青紫やピンクのデンファレは色味がよい。パスタや肉料理が主流のフレンチやイタリアンでは、薄い小麦色や肉色のブラウンとの対比で、料理を美しく引き立たせる。店内の雰囲気にもよるが、ちょっとばかしエキゾチックなムードを醸し出すのにも向いている。
しかし、注意してほしいといつも思う。一流の料理人であっても、ランや金魚草の生産現場を歩いているわけではない。注意深く水洗いをしてもらわないと困る代物なのだが、水を通せば花が痛んでしまう。現実的には、ほとんどそのままで料理のプレートに乗っかるのだろうと危惧する。
思うのだが、食の安心・安全を主張するのであれば、せめて一流の料亭やレストランでは、無農薬の花を使用してほしい。あるいは、農薬の検出基準を表示することを義務付けることが必要なのではないだろうか。
たとえば、「このレストランでは、無・低農薬の花を丁寧に洗浄して料理に添えています」とか。「安心マーク」(料理に使用する花の安全基準)を店内のメニュー表に表現することでもよいだろう。
問題なのは、料理に使われている花が、そもそも無・低農薬で安全だと錯覚されていることである。口に入れて食べるわけではない。量的にもわずかなものだから、気にするひとも多くはないかもしれない。しかし、きちんとチェックをされてはいないわけだから、わたしたちの体に良いわけがない。
そこで提案である。MPS(環境認証プログラム)のシステムで栽培されていて、農薬の使用量がわかる花を、こうした料理用の花に活用することはできないだろうか?
日本にMPSを導入してから6年になる。料理の添え花のようなところに、「MPSマーク」(安心の指標)を利用してはどうだろうか? 「MPSパーク」(農薬の使用量を控えているので、安心して子供や犬を遊ばせることができる公園)なども提案されていた。
花の業界としても、そろそろ、そうしたことを考えるタイミングではないだろうか。