2011年の最後の「JFMAニュース」の巻頭言は、オランダの農業に関するコメントで終わることにした。日本がオランダから学べるもの、がテーマである。昨日は(9日)、横浜で開かれた「オランダセミナー」に関する守重副会長の報告が参考になった。EUを見舞っているきびしい経済環境の中で、オランダはそれでも懸命に努力している。
12月7日に、オランダ大使館主催の「サステナブルセミナー」が大阪で開かれた。その様子を伝えるメールを、インパックの守重知量社長(JFMA副会長)からいただいた。
いつもよりも長文のメールだった。それだけ内容が濃いものだったからだろう。農業分野の主講演者のカーラ参事官の体調が思わしくなく、斉藤事務官が交代でお話しをされたようだった。斉藤事務官には、JFMAでもしばしばお世話になっている。
守重さんのレポートは、「この二十年でオランダ農業は大きな危機が二度ありました。20年前、オランダ農業は日本の4倍、アメリカの2.5で、世界でトップの生産性を誇っていました。現在でもオランダ農業の国際競争力はアメリカに次ぎ2位となっています。これは想像ですが園芸分野(野菜と花)では恐らくトップでしょう」ではじまっていた。
ところが、南ヨーロッパ(後に、アフリカに産地が移転)から安い野菜などが流入して、欧州の量販店に並んだ結果、オランダ産品が売れなくなった。その後、オランダは、花の分野でMPSのシステムを生み出し、安い農産物に対する対抗措置を考えた。品質の安全性で防衛する一方で、施設園芸の設備に工夫を凝らし、さらに生産性を向上させることに努力してきた。
この10年の動きは、従来の温室栽培において、自動化と高密度化を推進したことがオランダ農業の目指す方向だった。もう一つの戦略は、自国の技術を海外に販売することだった。有名な事例は、韓国向けにパプリカの温室を販売したことである。
いま日本の量販店で販売されている3色(赤、黄色、オレンジ)のパプリカは、70%以上が韓国産である。しかも、温室や液肥、農薬の供給を含めて、パプリカの栽培製造技術は全部オランダ産である。日本人がパプリカをスーパーの籠に入れるたびに、間接的にその買い物金額の一部がオランダ人に渡されていることになる。
さて、こうしたオランダの農業技術戦略そのものが、一体全体「持続可能かどうか」という問いかけが今回のテーマである。結論を先に言ってしまえば、オランダの農業は、おそらくは「サステナブル」である。
農業分野を自国の中心的な産業として位置づけてきたのが、オランダの国家戦略だった。税金をつぎ込んで守りたくなるものだが、オランダ人はそれをやらなかった。世界的な製品のプロモーションも、業界団体が資金を集めて実施した。
基本的に、農業分野は民間企業が支えてきており、政府の補助金は支払われてこなかったのである。この点は、米国とのFTP交渉で議会が混乱している韓国とは対照的である。韓国の農業は補助金漬けである。いったん輸血の流れが途絶えてしまえば、患者の命は心もとない。対して、オランダの農業は自立しているのである。
冬場などは曇天が続くから、オランダは農業をやるためには気候条件がよろしくない。いまはコストが安くて済んでいるが、北海のガス油田も無制限に採掘できるわけではない。エネルギー面では、将来的には不利な立場に立たされることがわかっている。だから、栽培品目を変えて、品種開発をして、輸送方法に工夫を凝らしている。世界標準がオランダ発になるように努力している。
東日本大震災以降は、日本でも植物工場的な生産方法が見直されている。自然農的な栽培環境が よいという価値観に、微妙に変化が起こっている。オランダにとっては、自国の技術を売るチャンスである。長い間の積み重ねが、きびしい経済環境にあるオランダを救うことになるかもしれないのである。
ひるがえって、日本農業の現実を眺めてみると、目を覆いたくなる現実を見てしまう。政府も農業団体も、さらには農業を営む人々も、目先のことしか頭にない。明日の生活のことよりも、孫子の代が良い環境で強い農業を営む準備に絶望しているだけである。わたしたちの立ち向かうべき課題はつぎの3点である。粛々と議論すべきは、(1)国際競争にどのように立ち向かうべきなのか、(2)補助金の使い方をどのように最適化すべきか、(3)集団営農の日本的システムをどのように民間主導型に転換していくのか、である。
それほど複雑なことではない。国土の形は違えども、オランダというモデルがある。韓国流の農業政策は、技術的な蓄積を海外に依存しているから持続可能ではない。やってはならない参考事例である。日本の農業は、育種力や生産技術など、自国の強みをもっと磨くべきである。そこに資金を投じるべきである。