井尻さんの「始末」のつけ方: 新日本流通SCバケット事業からの撤退

 インパックの守重知量社長から、日報をいただいている。守重社長から社員に向けた「社内メール報」である。業界動向を知るのに便利なので、わたしにも随時に送ってくださっている。海外視察や展示会、業界や社内で起きている日々の事柄など、参考になる意見や記録が多い。

 一昨日は、長年、花業界で湿式の輸送バケツを運営していた「新日本流通のSCバケットの撤退」について、社長日誌をメールしてくださった。SCバケットの担当者である井尻さんとは、守重さんと松島さんと一緒に、つい先日も青山で会食をしたばかりだった。
 もともとは、2001年に前任者の垣内部長(現在は引退)とわたしがお会いしたことが、花の輸送コンテナとして「SCバケット」が生まれるきっかけだった。日本酒の通い箱と洗浄システムが、オランダの花市場で採用されているシステムと、実によく似ていた。そんなこんなで、新日本流通の花事業がスタートした。酒の通箱サイズも、洗いの仕組みも、実にオランダのシステムと相似形だった。
 そんなわけで、井尻さんとは、最初のころからのお付き合いであった。「2001年4月でしたよ」と、会食の時に、ご本人から当時のメモ書きを見せられた。忘れずに記録をきちんととっていたのには、びっくりさせられた。几帳面で誠実な人柄があらわれている。

 JFMAの発足後に、わたしたちが最初に取り組んだプロジェクトが、「切り花のバケット輸送」と「鮮度保持プロジェクト=日持ち保証販売」だった。そのうちの日持ち保証販売は、プロジェクトが2003年にいったんは途切れていた。
 しかし、2009年に、JFMAの内部プロジェクトとして、食品スーパーのヤオコーの店頭で実験が再度、始まった。それを受けて、2010年には、農水省のプロジェクトとして再度スタートを切っている。現在は、二年目に突入している。国をあげて、全国的に展開する一大プロジェクトに育っている。

 それとは対照的なのが、切り花の流通バケット導入の動きだった。10年ほど前にエルフバケット(24センチ×24センチ)とSCバケット(30センチ×40センチとハーフサイズ)が、花の市場に導入された。共存・競争で始まった「湿式バケット輸送」だったが、近年は、バケット流通そのものが、浸透の壁に当たっている。
 2006年頃までは、鮮度が大事なバラを中心に、急速に普及が進んだバケット輸送だったが、エルフバケットにしても、コスト上昇と回収率の問題で採用は伸び悩んでいる。いまだに、縦型の湿式段ボール箱による輸送形態も継続している状態だ。
 そんな中で、後発だったSCバケットのほうは、少しずつは伸びていたが、市場への流通量が10万バケットを大幅に超えることなかった。昨年から、デポジット制度に手を加えたが、数量が伸びることがなく、今年に入ってから撤退が決まった。
 民間の事業であるから、利益を生み出せない現状では、これ以上は継続ができなかったのだろう。そのように想像はする。いろいろな社内事情もあったのだろう。
 それにしても、最後に、井尻さんから聞いたエピソードを聞いて、SCバケットの誕生に関与してきたわたし個人としても、何とも言いようのない残念な思いに浸ったものだ。

 バケットシステムの業務を停止するにあたって、最後に、井尻さんはFAJ(大田市場)の佐無田常務に会いに行った。新日本流通のSCバケットとFAJのエルフバケット(協議会が運営しているが、実態としてはFAJが主体メンバーである)は、サイズが異なるだけでなく、適当に棲み分けがなされていた。リターナブルバケットのうちの片方を失うことを井尻さんから知らされた佐無田さんは、たいへんに残念がったそうである。
 両社は競争しながらも、切り花の流通コンテナ(バケット)の浸透に共同で寄与してきたのである。複数の仕組みがあれば、顧客には選択の余地が出てくる。いまさらながら、流通全体でのパイを広げられていない現状を無念に思う。その気持ちは、佐無田さんも同じだったということである。
 しかし、井尻さんは、撤退にあたって立派な姿勢を貫いている。その思いを、守重さんが社長の日報にお書きになっている。そのままで、引用させていただくことにする。日付は、2011年5月26日となっている。9月までの引き継ぎにあたっては、「ペレット化」などに取り組むそうだ。

2、始末をつける! (守重さんの「社長日報」からそのまま引用)

 今回、花業界の仲で切花の縦型輸送(湿式輸送)のためのバケットのレンタルシステムを提供していた新日本流通が撤退を決めました。このはなしは昨年来、さまざまな方面から聞く事が多くありました。また、新日本の社長、担当の井尻氏が来られ、協力の依頼を頂きましたが、このときはお断りを経緯がありました。切花を水につけたまま輸送する仕組みは、生産者、加工業者、生花店に取って決して悪い話ではありません。
 私たちもレンタルではありませんがバケットの販売を続けています。毎年最低で4万個は出ていました。ここで申し上げたいのは、新日本さんの、井尻さんの始末のつけ方です。バケットは全てペレットの戻し、業界にたいして多くの提案を残して事業を終了させる事は尊敬の対象です。「始末をつける」とはこのような事を言うのでしょう。
 それにしても基盤の一つがなくなる事は残念で仕方ありませんが、事実として受け入れるしかありません。しかし今後に期待する事は悪いことではありません。