標記のテーマは、チェーンストアエイジの6月1日号に寄稿したものである。その際、(2)取引関係と調達のネットワークでは、メーカーが部品不足に見舞われた理由をあげた。(4)マーケティングの計画と実行では、日本が得意とするJIT生産方式が震災で裏目に出た理由をあげた。
同じ日のブログ(5月15日)で、わたしは、個人的な見解を述べさせてもらった。JITシステムそのものを変える必要はないように思う、というのが、そのときの結論だった。
日本のシステムが危機的な状態に陥ったのは、別のところに課題があったからである。
すなわち、①特殊な部品の点数が多すぎたこと、②それが業界共通の部品であったこと、③調達先のトレーサビリティが確保できていなかったこと。しかし、そのいずれもが、部品点数を減らし、緊急時に特殊なモデルの生産を縮小する計画のプロセスに組み込めばよい。
部品の発注に関しては、取引データベースを確立することで回避できるだろう。
以上の見解はわたしの理論的な類推だった。しかし、実際的な検証結果が、「ダイヤモンドオンライン」の記事に、本日登場している。わたしの仮説(推測)は、実際上も正しかったようだ。記者が書いた記事である。その証拠を見てみることにしよう。
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「自動車生産回復の足を引っ張る 部品調達先「集中」の意外な実態」
(ダイヤモンドオンライン 2011年5月13日配信掲載) 2011年5月16日(月)配信
東日本大震災でダメージを受けた生産の回復に躍起となっている自動車メーカー。その足かせとなっている部品調達体制の実態が明らかになった。
日本の自動車メーカーの競争力の源には、これまで築き上げてきたピラミッド型の強力な調達網と綿密な調達体制があるとされてきた。リスク対応にも余念がなく、どの自動車メーカーも同じ部品を複数の部品メーカーから調達し、リスク分散を図ってきていた。
ところが、今回の大震災で強力、綿密なはずの調達網の落とし穴が浮かび上がった。4~5次にわたる調達先のうち、自動車メーカーが把握していたのは「せいぜい2次部品メーカーまで」(大手メーカー)だったのである。
鈴木修・スズキ会長、益子修・三菱自動車社長ら首脳陣も一様に「部品の調達ルートがここまで入り組んでいたとは」と驚く。
自動車メーカーが把握できていなかった3次以降の調達先をたどるうちに、判明したのは想定外の集中リスクだった。
前述のとおり、自動車メーカーから1次の部品メーカーに対しては複数社に分けて発注がなされていても、その先の2~5次になると、再び1社に集中していたのである。特にルネサスエレクトロニクスに代表される半導体、ゴムなどの素材において1社集中が顕著だった。
つまり、2次、3次と進むにつれ裾野が広くなるピラミッド型となっているはずだった調達網が、「樽型になっていたことが初めてわかった」(中堅メーカー関係者)というのである。
静岡県西部の3次部品メーカーは、それまで2社に分散させていたコイルの調達先を昨年、日立系の1社に絞ることにした。「1社調達に切り替えたほうがコスト低減できる」からだ。だが、件の調達先が被災し、おかげで生産の再開が遅れているという。
今回の震災前にも予兆はあった。2007年の新潟県中越沖地震でも被災した部品メーカー、リケンからの供給が止まり、全自動車メーカーの工場が停止した。10年にはレアメタルを使用する部品の供給が細り、危うくハイブリッド車や電気自動車などの生産にも影響が出るところだった。
しかしこれらのタイミングでも、「2次以降の部品会社の調達実態を把握しようという動きは広がらなかった」(中堅メーカー)。
これまで1次部品メーカーに任せておきさえすれば、コストと品質面ではほぼ完璧に要望に応えてくれた。2次以降の把握を事細かに要求することはコストアップにつながるとあって、調達先の分散などは二の次となっていた。
しかし、その代償として想定外の調達先集中リスクを抱え込むこととなってしまったのだ。大震災は自動車メーカーに難問を突きつけている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 清水量介)