世間には、さまざまなノルム値がある。授業への出席率、入試の受験率、公開セミナーの参加率など。標準値は、わりに安定している。大学入試や入学者の手続き率、公開セミナーなど、実例を示してみる。なお、本記事のアップ時間は、正確な時間に書き換えてある!
明日は、2010年度で第一回の経営大学院(IM研究科)の入試である。今年は、第1回目に25人が申し込んできた。昨年は、21人であった。昨年と比較すると、受験者は20%の増加であるが、問題は何人が受験会場に現れるかである。面接官の人数を、事前に決めておかなければならない。
学部の入試などでも、通常は、受験料を納めた人の5~10%が欠席する。5%が欠席の標準値である。だから、IM研究科事務主任の江原君は、面接の終わる時間を心配していた。わたしは、ノルム値を判断材料に、25人中のうち、ひとりは欠席すると予測した。面接時間は、当初の予定通りに終わると断言している。
外れたら、わたしが江原君たち、大学院事務のひとたちに、お昼をおごることになっている。まあ、わたしの勝ちだろう。この手の賭けには、わたしはめっぽう強い。入試の手続きなど、予想はお手のものである。
不思議なもので、受験やセミナーの参加には、必ず欠席者が出る。それも系統的に欠席者がで出るのである。ノルム値を外れたら、どこかに問題があると考えてよい。異常事態が起こっているはずである。わたしの経験から、ノルム値を紹介しておきたい。
一般入試の欠席率は、ほぼ5%である。お金を納めているので、法政くらいになると、純粋な欠席者は少ない。風邪とか体調不良によるものである。世の中で、体調を壊す人間は、あるいは、プレッシャーでつぶれてしまう精神力が弱い「日和見人間」は、だいたい5%いると考えてよいだろう。
明日の大学院入試の場合も同じである。だから、25人の申し込みに対して、わたしは、欠席者が1~2人と予測している。「面接のための余分な時間は、リザーブしておかなくて良い」がわたしの答えである。
江原君は、けっこうまじめで純粋な性格だから、「願書を出した全員に来て欲しい」。事務の願いを踏みにじってしまうかもしれない発言ではあるが、世の中はきちんとした法則に支配されている(「NO SHOWの法則1(有料の場合)」)。
受験料は3万5千円である。それを支払っていても、これほどの欠席者が出てしまうのである。無料セミナーなど、お金を支払っていない場合は、ほぼ3割から4割が会場に姿を見せない(英語では、DO NOT SHOW UP)。
講演会場の席数を準備するのに、30~40%は多めに予測しておくことがふつうである。40%くらいは、いつもオーバーブッキングにしておく。そうでないと、満杯のお客さんがいる雰囲気にならないからである。
この30~40%という基準値は、セミナーを有料にしても、「前予約、料金後払い」だと、ほとんど下がらない。欠席者は、やはり平均35%程度になる。多少、人気のある講師でも、安定した数字だからおもしろいものである。無料の場合に、人が会場に姿を見せない法則(比率)はかたい基準値である(「NO SHOWの法則2(無料の場合)」。
大学の入学者手続率の場合は、予測がもっと複雑である。法政大学(経営学部)の学部長時代の経験では、受験に合格した受験生のうち、ほぼ3分の2は、経営学部に入学してこなかった。つまり、わが大学に合格しても、入学金と授業料を払わないで、他大学に逃げてしまうのである。
長期統計では、法政大学(経営学部)は35~40%の手続率ではある。もろもろの理由で、これが上下に変動する。景気や併願校の入試日、手続きの締切日などによる。そして、手続率は、そもそもなかなか予測が難しいのである。
文部科学省との約束事があるので、(定員の110%が入学者の上限で、それを越すとペナルティが課される)、たくさんの学生を入学させるわけに行かない。補助金がカットされてしまうからで、大学としては、翌年に学部の新設ができなくなる。
2008年度開校の「スポーツ健康学部」(多摩キャンパス)の新設で、関係のない某学部で120%の手続きを出してしまった。その年、H大学は学部が増設できなくなった。
法政の場合、逃げていく先は、早稲田や慶応である。最近では、明治や中央にでも、法政大学は100%が負けてしまう。「勝敗表」と学内では呼んでいる。
正直に言うと、H大学以外の4つの大学の教授陣が、それほどよいとも思えないの。そうなのだが、WKやMCに入学金を支払って、H大学には入って来ないのである。
キャンパスも都心にあるので便利である。校舎もきれいになったが、これが競争の現実というものである。ブランドが、すべてではないはずなのだが、教師やカリキュラムが目的で、法政に来る学生はいまや皆無になってしまった。
わたしのゼミ生のうち、少なくとも法政の付属校や首都圏の高校から、「小川先生の授業を受けたい。経営学部のゼミに入って勉強したい!だから、M大学やA大学を蹴って、法政大学にきました」という猛者が3人はいた。いまは(10年ほど前から)、そうした学生は皆無になってしまった。
大学のブランド力は、たしかに重要だし、無意味ではないが、世間(企業)は、大学をそれほど評価してはいない。企業社会は、もっとシビアで能力主義である。親と学生が、大学に対してブランド信仰をもっているだけである。
H大学経営学部の35%~40%という手続き率は、上位校になると、60~70%程度に上昇する。要するに、玉突き現象なのである(わたしも、40年前にK大学に入学金を納めている)。それとは逆に、下位校にもなると、手続き率は20%にも落ちる。だから、AO入試(書類審査と面接だけ)でお茶を濁そうとする。
一般推薦(高校からの推薦)という制度もあって、そうして入学してきた学生の質は、良い場合もあれば、悪い場合もある。一般に基礎学力は高くないことが多いが、そうして入ってきた子供たちは大学に対してロイヤリティが高いし、のちに大きく伸びることもある。
文部科学省や低偏差値の学部では、附属推薦と一般推薦を減らしたいようだが、この先も、推薦入試は減らないだろう。飛行機の座席予約でいえば、「早割」のようなものである。要するに、大学も経営的な観点から、イールド(操業度)を上げるために、事前に座席を確定しておきたいのである。
学部の授業の出席率はどうだろうか? わたしはいまは学部の授業を担当していないが、かつては、「経営学総論」(30年前)などの授業で、出席率は3割程度だった。もちろん出席などはとらない。入学手続き率に近い打率は立派だと言われていた。「平均打率」(登録者中の授業出席率)は、大教室授業では、10~20%程度だったろう。
20年前に、はじめてマーケティング論を担当することになったが、「打率」は、一挙に60~70%にアップした。授業の内容がおもしろかったのだろう。時代的には、授業がわかってもわからなくとも、学生が出席だけはするようになったころからである。
ただし、授業のときに、私語をする学生が増えてきた。うるさいので、3年目からは、「イエローカード」と「レッドカード」を発行するようになった。これに、「ホワイトカード」を付け足したら、授業がゲームとして、なかなかおもしろくなった。
わたしが、300人の大教室であっても、ピンマイクを持って歩き回って授業をしていた。授業中に学生が眠らないように、質問をして歩いていたのである。座っている学生にマイクを向けて、立派な回答をした学生には、「ホワイトカード」(出席票)を渡す。名前と学生番号を書くと、10点もらえる。
学期中の上限は、公式には3枚(30点)である。たいていは、これで成績はAになる。むかし今村というゼミ生がいたが、こいつは、マーケティング論で4枚もホワイトカードをらっていた。実に目立っていた。いまはどうしているのだろうか?同級生とつきあっていたが、たぶん分かれたはず、、、
イエローカードに話を戻すことにしよう。
教室で私語をしていたら、一枚目の黄色カードが発券される。さらに騒いでいたら、イエローの二枚目をもらえる。二枚合算で、レッドカードになる。サッカーの反則と同じで、その時点で退場処分になる。期末試験の受験資格を失う。
歴代で、イエローカードは、100枚くらい発券した。10年間で、3人はレッドカードで退場処分になっている。試験を受けられなくなった学生は、男子2人、女子一人である。その瞬間、レッドカードの3人は、「838番教室」から追放された。
これには、後日談がある。当時、経営学部の事務主任は佐藤悦子さんだった。レッドカードで教室から退去になった学生の親から、電話がかかってきた。もちろん、モンスターペアレントである。佐藤さんの対応は、はっきりいていた。
「自分の娘だけがなぜ期末試験を受験できないのか?」と言う抗議の電話だったのだが、佐藤悦子さんは、その親の話を聞き入れず、逆に、「あなたのお子さんは、こんな状態だったのですよ」と説明してくれたらしい。
親がすごすごと引き下がったとは思えない。いまの事務ならば、たぶん、学部長に話をもっていくにちがいない。この話は、佐藤さんから直接にl聞いたわけではない。同僚から、随分経過してから、「小川先生、こんなことがあったんですよ」と佐藤さんの対応を聞かされたのである。
今年の春に、佐藤悦子さんは退職している。いまは、温泉巡りでもしているのだろうか?