後継者の条件: 孫正義ソフトバンク社長の後継者の選び方は?

 自分の事業を後継する人間をどのように選ぶかは、成功した(しつつある)経営者に課された最後の課題である。結論を言うと、うまく後継者を選べることはごくまれな出来事である。ほとんどは、後継に失敗する。だから、自分が生んだ事業を大切に考えたい創業者は、後継者の選定に大いに悩むことになる。


  後継者を自分の親族から選ぶことは、それなりに正当性を持っている。結局は、後継者に誰を選ぼうが、ほとんど確率的に結果は同じでからである。
 だから、息子や娘、甥や姪から、後継者を選ぶというのは、それなりに正しい判断ではある。そうでなければ、「民族の代表は、その国の国民から選ぶ」(しまむら藤原相談役)という主張になる。
 それもまた、ひとつの方法として正しい選択ではある。つまりは、生え抜きの従業員の中から、後継者を選ぶということである。

 孫さんの後継者の選び方は、以上のふたつとも違っている。多額のインセティン(報酬)をベースにした募集方式である。断言してしまうが、これは絶対にうまくいくはずがない。理屈をいうのもいやになる。
 この先には、自明な結果が予測できる。あのような広報発表をなぜしてしまったのか、わたしにはとても哀しくなる。ソフトバンクを解約したくなってしまった。かなり前からファミリーで3つの契約番号を持っている。15年来のロイヤルなユーザーが契約を解除したくなるくらい、以下のプレスリリースは、気持ちが悪い。

 広報記事を引用してみよう。「言ってはいけない」のオンパレードである。孫社長は、どうしてこのような決定をしたのだろうか。理解に苦しむ、わたしには謎である。ソフトバンクの経営は危ないのではと感じてしまう。
 提携先「アップル」(S・ジョブス)やヤフーも、わたしからすると、ある種の公共心を失いつつある企業に見える。これらの企業には、このごろ危険な「慢心」が垣間見られる。
 わたしの予測は、いままでもかなりの確率で当たってきた。ソフトバンク株は、来週早々には「売り」かもしれない。

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 ソフトバンクは10日、「ソフトバンクアカデミア」のホームページに登録している人を対象として、孫正義氏の公開講義を9月28日に東京で開催することを明らかにした。定員は5000名で、応募者多数の場合は抽選となる。
 同グループの代表である孫正義氏は7月28日から、後継者発掘と育成を目的としたソフトバンクアカデミアの開校と入校生の募集を開始している。ソフトバンクアカデミアの応募期間は10月11日まで。

 孫氏は、同日の同時にはツイッター上でも「今から、ソフトバンクアカデミアの一般募集を開始。志し高き者。興味のある方は、まず『登録』ボタンを!」と告知。その後、「志に命をかけても惜しくない者。集まれ。」「溢れる情熱で真夜中に駆け出したくなる者集まれ!」「弱き者の為に己の命を捧げる事の人物のみ、集まれ!」と熱いつぶやきを投稿していた。
 ソフトバンクアカデミアの公式ページによると、求める人物像はまず「孫正義の後継者を目指す人」。続いて「情報革命に対する志の高い人物 」「多くの人々を惹きつけられる人物 」「誇れる経験・実績を持つ人物」となっている。
 2011年4月より、東京・港区にあるソフトバンク本社で1ヵ月に1~2回開かれるソフトバンクアカデミアに入校できるのは、ソフトバンクグループの社内から270人、一般からは30人を予定している。

 年齢は20歳~50歳で、希望者はまず、10月11日までにエントリーページで登録を済ませ、必要事項を記入し、応募することが必須。テーマや表現方法は「自由」というプレゼンテーション方式で「一次予選」「二次予選」を行い、孫正義氏による「最終審査」を経て入校となる。
 7月28日に行われた開校式で、孫氏は「戦略特別講義:孫の二乗の兵法」と題し、約2時間20分間の講義を行った。その際、後継者に選ばれた場合は10年にわたって育成を行い「ストックオプションを100億円ぐらいは渡したい」と発言している。
 しかし、孫氏は後継者たるべき人物は、ソフトバンクグループの売り上げを、10年で平均5倍ぐらい伸ばすほどでなければならないと強調。ソフトバンクアカデミアに外部から入校するのは狭き門、また、どのようにすれば5倍にできるかは、講義開始後に宿題として出題されるという。
 6月に発表した「新30年ビジョン」では、グループ5000社、株式時価総額200兆円という計画を掲げている孫氏。選ばれた後継者のクリアすべきハードルは、相当高そうだ。
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 記事が正しいとすると、この中には、社会に対する貢献や、経営者としての資質に何の注釈もついていない。マネー(金)だけの評価の世界である。そんな人間に後継を託す人の気持ちが、わたしにはわからない。能力が高くても、募集には人格高潔で立派な人間は集まらないだろう。
 成功した経営者こそ、社会性をもった新しい価値や、ひとびとの幸せに貢献するイノベーションを提供しなければならない。金銭的なモチベーションだけでは、大きな会社を後継できるものではない。それほど、世の中は甘くない。
 孫さんが、そのことを知らないわけではないだろう。個人的には、孫さんに期待するだけに、この広報発表は?大いに疑問である。