11月6日に、チェルシー・ジャパンの鈴木勝博氏(執行役員、店舗運営管理部長)に講演をいただいた。日本SC協会「アカデミー選択Bコース(担当:小川)」でのお話だった。チェルシーが、日本国内で運営しているプレミアムアウトレットモール(御殿場のプレミアムモール以来、8箇所の開発の歴史)と基本戦略についてであった。わたしの印象は、「アウトレットモールは、つまるところ“ショッピング・テーマパーク”である」だった。
プレミアムアウトレットモールは、現在、全国に30箇所ある。トータルの売り上げは、5000億円。その規模は、ちょっとした業種(ラーメン、ハンバーガー)に匹敵している。アウトレットモール業態の二強のひとつが、10年前に米国から上陸したチェルシー・ジャパンである。現在、御殿場(2000年)、佐野(2003年)など、日本に8箇所ある。二強のもうひとつは、三井不動産のアウトレットパークである(全国10箇所)。
最大規模は、御殿場プレミアムアウトレットモールで、売場面積が約1万3千坪ある。売上げは、約550億円である(2008年)。坪当たりでは、年間400万円である。通常のSCよりも効率が2倍である。チェルシーが展開するアウトレットモールは、首都圏・近畿圏では、標準がだいたい1万坪を欠けるくらいの大きさである。
パルコ出身の鈴木氏がチェルシー(プレミアムアウトレットモール)の仕事に関わるようになったのは、チェルシーが日本に進出する直前だった。当時の所属は、丹青社であった。「タテからヨコへの転身」である。「タテ」とは、パルコのような中層のショッピングビルを指している。「ヨコ」とは、オープンモール型のアウトレットモール(通常は、平屋のみ)のことである。日米のSCの違いがよくわかる表現である。
鈴木さんによると、10年前に米国チェルシーの担当者が、日本でアウトレットモールの立地を探していた時に、彼らがもっともこだわったのは「日本らしい風景」だった。だから、使用されていない遊園地の跡地がある御殿場に注目した。日本の象徴である富士山が、美しく見える場所であることが、立地選択の決め手になった。
アウトレットモールは、米国でも大都市から車で90分圏内にある。日本では、首都圏・近畿圏など、想定商圏人口が600万人と言われている。概念的には、ラグジュアリーブランドなどのディスカウント販売が、消費者の来場目的になる。それだけではない。付加的な魅力として、観光が組みあわさっているのが、アウトレットモールの特徴である。
だから、チェルシーが日本でプレミアムアウトレットモールを展開するときは、かならず米国のどこかの町並みを模してデザインをする。例えば、りんくう(2000年)は、アメリカ東南部の町チャールストン、土岐(2005年)はコロラド、仙台泉(2008年)はバークシャー地方がイメージタウンである。こうした発想は、舞浜のTDLと同じである。非日常性の演出である。
日本のプレミアムアウトレットモールと米国本土のモールとの違いがおもしろい。米国では、飲食店はファーストフードに毛が生えた程度で充分とされていた。しかし、日本人が観光地に求めるものは、贅沢な気持ちになれる和洋中のレストランだったりする。飲食店ゾーンとそのブランドは、実際に米国とはちがってレベルがかなり高めになる。地元の高級店を誘致したり、有名シェフの店を持ってきている。この辺のテナント運営についてのノウハウは、日本のパターンが最近になって米国に逆流しているらしい。
サービスについても同様である。米国のアウトレットモールは、ラグジュアリーブランドの販売とはいえ、店舗もディスカウントだから、買い物に余分なフリルは求めない。しかし、日本人の場合、そうはいかない。バスを使っての送迎や、その他の細やかな対応が必要とされる。そうは言っても、206店舗(御殿場)のショッピングモールを6人で運営してしまうノウハウは、さすがにアメリカである。「日本人の発想ではとてもできないな」と感心した。
いくつか、経営的な数値を紹介する。もっとも効率が高いのは、最初開業した御殿場のプレミアムアウトレットモールである。来場者は、20代後半から30代の前半。平均は40歳。神奈川、静岡、東京(85K)が中心である。ひとつのグループが3.9人で来場。滞留時間は2~3時間。休日の客単価は、約1万8千円(平日は1万5千円)である。駐車場は5千台収容できる。
その他のモールは、佐野のアウトレットモールをのぞいて、やや効率は悪くなる。神戸三田やあみでは、客単価が佐野や御殿場の20%である。滞留時間も少し短くなる(二時間弱)。ただし、どこのモールも、増床の予定がある。坪効率と客単価が上がってくるときが増床のタイミングらしい。
日本における今後の展開を考えると、大型商圏(600万人)での立地は限られてくる。すでに飽和といわれている。チェルシーが当初狙っていた8~10箇所程度の開発は、国内ではすでに終わっている。アジアへの展開になるのか? 地方都市(300万人商圏)への進出も視野に入ってはいるが、経営効率やコンセプト(ショッピング+観光)ではどうなのだろうか?
三井不動産や三菱地所、IY、イオンなどは、都市部の辺縁部(「アーバンエッジ」というらしい)にディスカウント型のアウトレットモールを建設しかけている。ラグジュアリーブランドとの棲み分けに問題はないだろうか?受講生からも、懸念とも言える意見が述べられていた。