短評:池内計司(2008)『「つらぬく」経営:世界で評価される池内タオルの真髄』エクスナレッジ(★★★★)(『経営情報』2009年8月号)

著者の池内計司氏は、四国今治のタオルメーカーの2代目社長である。一橋大学卒業後、パナソニック勤務を経て、1983年に家業の「池内タオル」に入社した。その後、父・忠雄の事業を継承する。大企業から中小企業に転身し、時代の先端を走ってきた団塊世代の経営者である。


本書は、製造コストが安い中国など、タオル工場の海外移転が進む中で、国内に踏み留まり、環境をコンセプトにしたブランド「IKT」を立ち上げ、会社を再生するまでのプロセスを綴った自伝である。「モノが売れない時代」のスマートなマーケティングの書として読むこともできる。
 池内タオルの主力商品、例えば、「ストレイツ カラーソリッド」(2002年、ニューヨーク・ホームテキスタイルショーにてグランプリ受賞)は、100%オーガニックコットンを原料としている。最後の織りの工程では、秋田県能代市(評者の生まれ故郷!)にある風力発電所の風力エネルギーを使用している。そのため、IKTブランドは、通称で「風で織るタオル」として知られている。池内のタオルには、熱烈なファンがいる。実際に使用してみるとわかるが、100%オーガニックコットン製のタオルは、何度繰り返して洗っても、はじめのやわらかな風合いが変質しない。
 池内タオルは、従業員25名の小さな会社であるが、国内外で数々の受賞歴がある。2007年には、「元気なモノ作り中小企業300社」に選ばれている。翌年には、第12回新エネ大賞・審査委員特別賞を受賞している。特筆すべきは、業界で初めてのISO14001を取得したことであろう。
 本文には書かれていないエピソードを紹介する。2007年、評者は池内タオルの本社を訪問する機会を得た。その秋に東京で開催される講演会のため、事前に池内社長と打合せをするためだった。訪問の日、松山市内で中島みゆきのコンサートが開かれた。熱狂的な中島ファンの池内社長は、道後温泉に投宿する予定の評者を、コンサート会場の近くまで送ってくれると申し出てくれた。今治から松山まで同乗させていただいた車は、初代のプリウスだった。自らも環境配慮の車を運転する生活スタイルは、しばしば言行不一致の経営者が多い中で、見事な実践の例であった。