<コラム13> ラベルとちがうと味覚がわるかも? サントリーの発泡酒、Ad生(アドナマ)の味覚実験

 長崎秀俊君(当時、大学院生、現インターブランド在職)と、2002年に学会報告した「サントリーアド生の事例」を、マーケティング入門の第7章コラムに書いた。実に懐かしいケースである。実は、長崎君のパッケージ実験を別のコラムにと考えていたのだが、書き出してみると、資料的な価値は、アド生実験のほうが高いと考えた。発売前に紹介してしまう。


<味覚実験のブラインドテスト>
 コカ・コーラとペプシ・コーラを実験対象に選んで、学生たちに「ブラインドテスト」を試してもらうことがある。紙コップに注いだコーラを、ラベルを隠して飲んでもらったあと、どちらのブランドかを答えてもらう実験である。何度ためして、コークとペプシの正答率は、50%を有意に上回ることは無かった。ほとんどの実験で、コークと答える人の割合は、48%から52%に入った。 「ラベル無しに、コーラの味を識別することはできない!」のである。
 ただし、同時にいつも実験の対象とするスポーツドリンクの場合は別である。アクエリアス(日本コカコーラ)とポカリスエット(大塚製薬)を、学生たちに飲んでもらうと、約80%の確率でポカリスエットを識別することができる。では、ビールの場合はどうだろうか?
 
 <サントリー AD生の発売>
 2002年6月18日、サントリーから発泡酒「AD生(アド生)」が発売された。
 中身は、同社の発泡酒「純生」と同じだったと推察される。AD生の特徴は、缶の表面に企業広告を掲載したことである。エイベックス、ユニクロ、JTBが協賛して、自社製品の広告を缶に印刷し、広告媒体とした)。意欲的なマーケティングの取り組みであった。
 写真は、実験に用いた「ユニクロ アド生」(写真1)と「エイベックス アド生」(写真2)である。「ユニクロのアド生ポロシャツ」(350ml缶)の表面には、「Ad生[アドナマ]のどごし発泡酒  ユニクロドライ、ポロシャツ1900円 汗をかいてもすぐ乾く、ポリエステルとコットンの立体構造、綿100%のようなやわらかい肌ざわり、抗菌防臭で紫外線もカット、大麦で旨くなった!広告で安くなった!」と記載されていた。
 その当時、大学院生であった長崎秀俊君(現、インターブランド・ジャパン在職)と筆者は、AD生を使って、企業名(製品・サービス名)のラベルが、消費者の味覚に影響を及ぼすかどうかを確認する実験を行った。発売のほぼ一ヵ月後、20002年7月17日のことである。実験の概要と調査手順は、以下の通りであった。
 
 <AD生、味覚テスト実験の概要>
 ■ 調査実施日 : 2002年7月17日
 ■ 調査場所 : 法政大学(セミナー会議室、二箇所)
 ■ 実験比較対象 : アド生ユニクロ VS アド生エイベックス
 ■ 実験目的 : パッケージ上の情報提示差異による知覚品質への影響
 ■ 被験者数 : 58人(うち風邪気味回答者等除く51名データを採用)
 ■ 当日の天候: 最高気温31.3℃ 最低気温26.7℃ くもり
 ■ 実験環境 : 実験室の温度を25℃に調節
 ■ 実験手順 : ①ほぼ5名ずつの被験者を着席させ、調査の主旨を説明。
           ②パッケージを見ながらアド生(ユニクロかエイベックスのどちらか)を
             試飲し、質問紙票に味覚の評価を記入してもらう。
           ③パッケージを見ながら純生を試飲し、質問紙票に味覚の評価を
             記入してもらう。(順序効果を考慮し、半数で②と③を入れ替えた。) 
 ■ 製品評価項目 : フレーバーについて/口あたりについて/味わいについて
 ■ パッケージ評価項目 : パッケージデザインについて
 ■ 総合的評価項目 : 製品、広告への好意的態度形成について購入意図形成について
 
 <味覚実験の結果>
 実験の結果である。ユニクロとエイベックスの広告別に、ラベルを見ながらアド生の製品を評価したもらったものである。図表1は、被験者たちの項目別の得点である。スコアは平均値である。7件法で評価を取っている(非常にそう思う7点、そう思う6点、どちらかといえばそう思う5点、どちらともいえない4点、どちらかといえばそうは思わない3点、そう思わない2点、全くそうは思わない1点)。
 ふたつの項目で、エイベックスのほうが、ユニクロをスコアが上回っていた。「甘みがある」と「軽さがある」の二項目である。とくに、「甘みがある」では、有意な差が見られた。有意ではないが、逆に、ユニクロのアド生のほうが、「炭酸がきつい」と「苦味がある」では、平均スコアが大きくなった。
 サンプル数が少ない(N=28とN=23)ので、この場合は決定的なことはいえない。しかし、もしかすると、製品のラベルを見ながらビール(発泡酒)を飲むときに、製品(企業)のイメージが、われわれの味覚中枢を微妙に刺激するのかもしれない。エイベックスがビールを甘く感じさせ、ユニクロがビールを苦く感じさせるのは、なぜだろうか?
 
出典:長崎秀俊(2002)『マーケティングにおけるパッケージ戦略-サントリーアド生のコ・ブランディングによるパッケージ戦略についての一考察-』、日本マーケティング・サイエンス学会、全国大会(2002年12月)発表資料
 
 「ユニクロ アド生」(写真1)
  「エイベックス アド生」(写真2)