日経MJの消費分析欄に、表記の分析記事を発表することになった。掲載は4月23日号である。本HPで”断言”したように、限定品を選択する消費者は、「独立心旺盛だが、集団規範からは大きく外れないように行動をする女性」である。
購入者のプロフィールが想定どおりであることを確かめるために、2つの調査実験を実施した。大学院生の三村君が修士論文で実験した結果である。
1 限定品の効果と理論的根拠
商品をアイテムや時間を限定して販売する手法は古くから見られる。周囲を見回しても、お菓子などの食料品、ビールや日本酒などの嗜好品、自動車などの耐久消費財や高級ブランドバッグにいたるまで、市場には「限定」(exclusive)を謳った商品が多数存在している。限定の仕方には、5つの手法が用いられる。①期間限定、②数量限定、③地域限定、④チャネル限定、⑤顧客限定の5タイプである(図表1)。
商品やサービスを限定する理論的な根拠は、「TEASE理論(お客さんをじらす)」(Brown 2005)である。「限定品にすること」で、顧客のニーズをあえて満たさず、商品を手に入れたいという欲望を増大させる。購買意欲をかきたてられるので売上は増える。ただし、多くの商品が市場に供給されるにつれて希少価値は失われる。商品の希少感を維持することが拡大戦略を志向する企業にとってはジレンマとなる。
2 限定品が好きな消費者の特性
すべての人が限定品を選ぶというわけではない。限定商品を選択する傾向の高い消費者と限定品には関心を示さない消費者がいる。結論を先取りすると、「独立心旺盛だが、集団規範からは大きく外れないように行動をする女性」が典型的な限定品購入者である。本稿では、このことを確かめるために、図表2のような2つの調査実験を実施した。
3 限定品購入に関するおもしろい発見
2つの調査実験から、以下の3つの興味深い事実がわかった。
<発見1>
調査Aからは、限定品フィギュアの実購入者が4つのタイプに分類できることがわかった(図表3)。彼らが限定品を選択する理由は、「商品に対する愛好度」と「希少性を伴う限定性」である。わかりやすく言えば、フィギュアそのものが好きかどうかかと、希少なフィギュアを入手したいという切迫感を持っているかどうかである。質問項目の因子得点を二次元平面にプロットすると、フィギュアの購買者は、「①限定キャラクター愛好者(42名)」「②キャラクター愛好者(10名)」「③希少品愛好者(22名)」「④煽られ/道連れ派(10名)」の4つのタイプにクラスター分類できる。
なお、限定愛好者(①③)と無関心層(②④)を識別するのに有効なパーソナリティ尺度項目は、従来から心理学で言われている「自己独立因子」であった。自己独立因子と関連が高い質問項目は、「人に頼らず、自分で自由に意思決定することは私にとって非常に重要だ」、「自分がどう行動したらよいかは、自分で判断できる」、「自分の意思で行動できると満足する」の3つの質問項目であった。他人に束縛されるのが嫌な人ほど、限定品を購入する傾向が高いのである。
<発見2>
調査Bからは、女性のほうが男性より限定商品を選択する傾向が高いことがわかった(図表4)。おそらくは、女性に比べて男性の方が買い物になれていないためである。男性はブランド等に頼ったヒューリスティックな購買行動を行う傾向があるのに対して、女性の方が通常品と差異のある限定商品を認識できるからであるとも考えられる。
<発見3>
調査Bではさらに、図表4の男女68人を「限定品選択者」(50名)と「通常品選択者」(18名)に分けて、限定品を選ぶ傾向が高い消費者の心理特性を調べてみた。その結果、図表4のような質問項目群に反応しやすい回答者が、限定品を購入する傾向があることがわかった。図表4-1の質問項目は「自由への脅威因子」、図表4-2の項目は「集団同調因子」と呼ばれる心理尺度である。限定品を購入する消費者は、人からの助言を押し付けがましいと思う傾向がある一方で、目立たないようにふるまいながら、周りの人の意見に合わせる「準拠集団への帰属動機」を持っている。
4 限定品販売のためのマーケティング
限定品を購入する消費者の個性が本調査から明らかになった。そのことを踏まえて、限定品をマーケティングするためのポイントを考えてみよう。フィギュアのような関与度が高い商品では、自分で好きなようにしたい人たちが限定品を購入する傾向があった。マーケティング対応としては、消費者が自由に選べるさまざまなオプションを提供することである。
2番目に、お菓子のような購買関与度が低い商品では、他人からの干渉を嫌うひとが限定品を購入する傾向が高いことがわかった。押しつけがましい推奨などはきらなので、「お客様の喜びの声」などの形で、限定品を告知することが有効である。ただし、彼らは同時に目立つことはきらいなので、口コミでやSNS、あるいはブログを介してのコミュニケーションに反応しやすいようにみえる。
限定品を購入する消費者は、ストレスが高い環境下におかれているのかもしれない。自由からの束縛から脱するために、あるいは、普段は理想のようにはなかなかできない自己決定の独立性を維持回復するために、その代替品として限定品を購入するのかもしれない。
以上。図表は省略した。