隣国中国との連携(JFMA通信2003年5月号)

キリンアグリバイオ事業部、上海事務所長の張志豪さんから、「2003年中国国際花卉園芸展示会がお蔭様で19日に無事に終了いたしました」という電子メールをいただいた。


SARS騒ぎがなければ、わたしが講演者として「日本の花卉産業の現状」を報告することになっていた。予定を変更せずに展示会に参加したキリンビール・松島アグリバイオカンパニー社長に、特別講演を代行していただいた。中国の花卉業界関係者の反応と展示会の報告を兼ねてのメールであった。
 4月16日から19日まで「上海国際展覧中心」(上海花卉協会主催)で行われた展示会の様子は、展示会のホームページで見ることができる。出展会社は271社で、オランダ、ドイツ、南アフリカからは国を代表する形での出展。アメリカ、フランス、イギリス、日本などは、民間企業ベースでの出展となった。日系企業としては、キリン、サカタ、ミカド&花の大和などが展示社として参加している。以下は、張志豪さんからの報告の要約である。
 (1)SARSの関係で、予想通りに海外からの出展会社は減った。
    以前の展示会には、欧米から100社以上が出展していたが、
    今回の参加は、欧米人は10名未満であった。
 (2)展示各ブースは総じて洗練されていた。張さんが送ってくれた
    デジカメの画像を見ても、以前に比べて中国の花卉産業が
ある水準に到達ししつつあることがわかる。
 (3)展示品は、切花の場合では、ユリ、カーネーション、
    バラ(キクはわずか)など。鉢物は、コチョウラン、アンスリウム、
    ポインセチアなどである。ガーデンニング用の草花は、
ペチュニア、パンジーなどで、総じては品種数は少ない。
 (4)中国花卉協会が主催した検討会では、松島社長が講演。
    中国花卉園芸産業の関係者は、日本の市場に対して強い興味を
示した。
 中国花卉協会に所属するひとたちの興味はどこにあるのだろうか? 製品輸出国として日本が非常に有望な市場であると見えているはずである。松島社長のプレゼンテーションは、これまで知ることができなかった日本市場の特性を関係者にうまく伝えたはずである。
 二番目に、彼らの興味は、品種と技術的な側面にある。新品種への興味もさることながら、私たちが中国の業界関係者に積極的に伝えることができるものとしては、生産と販売の方法があるのではないかと思う。すなわち、広い意味での経営技術的な面である。
  * * *
 花卉産業を離れて、もう少し一般的に中国との貿易・技術交流の未来を展望してみたい。
 2002年、中国は米国を追い抜いて日本にとって最大の貿易相手国になった。輸入額も輸出額も最大である。世間一般では、中国の諸産業(家電、繊維、農業など)は日本にとって驚異であると論じられている。個別の産業を見れば、たしかその傾向はただしい。地方では家電・繊維産業が衰退したり、中国に生産がシフトしたことで野菜産地が価格競争力を失い苦しんでいることは事実である。
 ところが、その反面で大いに潤っている企業も多い。儲かっているの人たちは、周囲からの嫉妬が怖いから、そのことを話したがらない。農業分野でも中国に投資しているのは、商社マンや量販店の仕入れ担当者と組んだ日本国内の生産者(団体)である。自動車・工作機械、家電製品では、最終製品の中国からの輸入量が増えると当時に、素材・部品の輸出が急増している。欧米との貿易では、現地生産が進んでいるので、完成品だけでなく素材・部品の輸出が減少しはじめている。
 それは当然のことである。輸送コストとリードタイム(受注から着荷までの時間)を考えれば、中国(北京、上海、大連、広州など)は日本の日帰り経済圏なのである。飛行機で10時間も飛ばなければ到達しない国とは大違いである。
 結論は明瞭である。EUというお手本がある。ひとつの経済圏に組み込まれる国同士は、長い目で見たときには「競争関係」ではあり得ない。紆余曲折はあっても、長期の関係性においてはお互いに「協調関係」にある。そう考えないとお互いが不利益を被る。共通の前提と理解(シンパシー)があれば、協働することはむずかしくない。得られる成果をどのように配分すべきかのルールを設けるだけである。
 日本の立場は、はっきりしている。中国の経済的な発展を引き続き助けることである。物質的・経済的な側面からだけでなく、文化的・精神的・教育的な面からの支援をより強化すべきである。日本からのハードとソフトの技術支援は、いつの日にか中国の人たちから感謝されることになる。戦争の罪悪感から忘れ去られてはいるが、第2次大戦前は日本人の教育的な好意(行為)に対して、後に中国政府の要人となって中国人から大いに感謝された日本史の一面もある。
 中国に出て行く日本人の若者と、中国から来る留学生をもっと大切にしなければならないと思う。その萌芽は、大学などの教育現場で現れ始めている。アジアの未来に希望を託すことができる若者が生まれていることに、大いなる希望を感じている大学教師もいることを皆さんに伝えておきたい。