環境に優しい花作り(オランダ発MPS規格)

ヨーロッパでは、「環境対応の花作り」(MPS)が始まっている。循環型農業を導入するうねりの中で、きわめて自然な動きである。MPSは、欧州諸国にとって動植物の生態系と自国の産業を同時に守るための最終兵器である。


こうした動きは、健全な保守主義であると私は信じている。ナイーブな市場主義はこのトレンドに抵抗できない。
 ところが、他方で、日本の花産業は、売上高と収益の減少にみまわれ、まったくそれどころではない。生産者は、目先の市場対策とコスト削減に動いているが、品質劣化と低価格志向は、誰にもプラスにならない「負の循環」を生み出すだけである。それが自明であるにもかかわらず、誰もこの「悪魔のサイクル」を止めることができない。
 以下は、私(小川)が、MPSの特集で、「月刊誌:フラワーショップ」のインタビューに答えた記事のすべてである。近未来(ほんの5年後)のことを考えてほしいものである。

 <オランダでMPSが立ち上がったきっかけ:
 その背景にある本当の理由>
 「私が一番最初にMPSのことを知ったのは、1996か67年頃だったと思います。オランダのメッツという卸売り会社を取材したとき、そこで扱っている商品に“MPS”というラベルが付いていたんです。96、7年頃のオランダと言えば、アフリカ等、海外から花がどんどん入り始めて、国内の生産が大変になり始めていた時期。オモテむきには“環境に優しい生産方法”を掲げていますが、環境配慮というよりも“海外からの輸入品に対抗する”という目的がMPS設立の背景には実はあります。
 〈環境〉と〈海外からの輸入品に対抗する措置〉として商品に付加価値をつけるにはどうしたら良いか―、海外で作られたものは品質が悪いかというと、そうでもなく、むしろ良かったりする。それに対して国内産のものを守るためには、生産方法で付加価値をつけようと。これがMPSが設立されたきっかけです。
 さて、MPSがいざ導入されると、当初はそのラベルが付されていれば“特徴のある商品”としてオランダのセリでは高値がつきました。しかし、現在は高値も安値もないんです。というのは、オランダ全体の3/4の農家がMPSを導入してしまったので、差別化がはかれなくなってしまったんですね。ですから、一般の消費者の見方というのも私たちが再生紙のマークを目にして少しも珍しく感じないのと同様、“当り前のこと”になっているんです。
 とはいえ、海外から入ってくる商品が全部MPSかというと、日本のようにほとんど導入していないという国もありますから、MPSという付加価値が価格に反映されなくなっても、海外に対する抑制措置にはなっていることは確かです」

<世界規模の花き生産/流通の将来を左右するMPS

 日本における導入の見込みは?>
 「日本での導入が進まない理由は2点あります。まずは現在の不況。農家の再生産コストさえカバーできない状況のなかで、普通の農家が今、MPSを導入できるような経済環境ではないという問題。MPSを導入すれば、間違いなく環境の保護になるにも関わらず、農水省が声高に提唱できない理由がここにあります。ただし、いわゆるトップを走っているような農家はすでに取り組んでいて、天敵―虫を使ったり、無農薬は無理ですから減農薬や低農薬、それから肥料もなるべく使わないとか有機肥料で生産するとか、様々なかたちで取り組む動きは出てきています。それがオランダのようにMPSという基準に沿って実行しているか、と言えばそうではない。日本での統一基準というのが現状ではまだ定まっていませんから、それらの動きのことは“MPS的な試み”と呼ぶことはできるでしょう。
 では、実際日本での統一基準が設定され導入が始まる目安ですが、私は2、3年後とみています。ここで導入が進まない理由のもう一点、“花は口に入らない”という大きな理由を挙げましょう。ご存じのように、農薬の問題で直接影響があるのは生産農家と花屋です。生活者としての消費者にダイレクトに影響があるわけではないので、必然的に野菜、すなわち食についてのトレーサビリティ(生産履歴)の問題解決が優先されます。花に関しての取り組みは、食のメドがたった後に、ようやく始まることとなります。」

<MPS導入に向けて消費者の環境意識を変革し、
 ビジネスチャンスを獲得するなら、今>
 「鮮度保証販売を例にとりますと、これはある値段で鮮度保証/日保ち保証されていることが付加価値として認められ、消費者に購入してもらえた。では、MPSはどうかといえば“環境に配慮して生産された花”ということですから、目に見えたメリットではなく、もっとエモーショナルなものなんですね。これが食べ物なら、自分の体の中に入るものですから“体にいい”となりますが、花は飾るだけですから、“環境にやさしい”という目には見えないメリットを日本人がどれだけ見てくれるかどうかがひとつの課題となるでしょう。少なくともヨーロッパでは消費者が認めてくれた。しかし、日本では一般に難しいとされています。まず、食に関して環境に配慮した生産をしなければならないという問題が消費者にも常識となり、その段階の上に“口にはせずとも花も環境にやさしく生産すべき”という考え方が消費者の段階で育つ。そこに行くまで、やはり2、3年という時間は必要だと思います。
 いずれにしても、MPSの意味というのは“環境にやさしい花の栽培の仕方をしているか”という生産者の改善努力に対しての評価であって、“守れ!”と強制するものではない。ですから、始めは認証基準もゆるく設定し、次第に現実的に持って行くという方向性になると思われます。
 それから、この先花の輸入がどうなるか、というのも大きな要因となるでしょう。輸入が急激に増えれば、全体が本腰を入れて急速に取り組み始めるかもしれないですね。少し脅かす意味で申し上げると、中国の例えば三東省などは乾燥地域なので虫はあまり出ませんし、土も良く、有機野菜が作りやすいんです。ということは、花も作りやすい。加えて中国は30代の若者がトップのベンチャー企業が多く、日本におけるMPS設立のための投資に二の足を踏んでいる日本の企業たちと違って、失敗成功を省みずに投資してくる人が多いですから、MPSの導入を先行して取り組まれたら、日本ははっきりいって厳しいと思いますよ。そういう意味ではMPSというのは、不況から一歩抜け出すビジネスチャンスとしての可能性を大いにはらんでいると言えるでしょう」