世界同時デフレの終焉: ウォルマート効果の消滅

 1月24日発売の「週刊エコノミスト」では、特集「2005年価格大予測」を企画している。
 最初の頃のDWをごらんいただくとわかるが、3年前にわたしはマクドナルド流ビジネスの未来に異議を唱えて、毎日新聞社と大げんかをした。にも関わらず、今回は原稿執筆を依頼された。編集長が交替したらしい。喜んで申し出を受けることにした。


わたしの執筆分は、見開き2頁である。予定稿のタイトルは、「価格原論:モノ・サービスの価格はどのように決まるか?」。全文を、<Research&Reports>にアップした。内容は、現在執筆進行中の「消費市場としての中国(仮タイトル)」(日本経済新聞社から5月頃発売)の一部を編集したものである。本の内容については、仮の<目次>をアップする予定である。
 注目して頂きたいのは、「ウォルマート効果」の消滅である。デフレ要因の反転であり、それは世界経済が新しい局面を迎えることを予見したものである。学術論文ではないので、文中に注釈をつけたような、説明をくどくどとは書いていない。しかし、根拠は明らかである。
 例えば、「ニューズウイーク日本語版」2005年1月19日号は、「熱烈歓迎ウォルマート」という記事を発表している。書き出しは、中国へ進出したウォルマートが、「圧倒的な低価格」をアピールできない事実と困惑が示されている。当たり前である。ウォルマートの商品は、9割方が中国産である。単にそれを売るだけなのだから、マネジメントの強み(物流効率、販売方法など)は活用できない。他社と比べてどこで差別化するかが見えていないのである。別の方法を編み出さないと、同社は中国では成功しないだろう。
 実は、中国人はものすごくブランド好きである。新しい商品提案には、驚くほど鋭く反応する。そのことを見誤ると(貧しい生活者のイメージで商売を展開すると)、おそらくどの国出身の経営陣も痛い目を見るはずである。
 
 以下、「3 ウォルマート効果の消滅」の部分だけを抜粋して掲示する。

 1 同一商品の日中価格差(省略)
 2 価格設定のための3つの方式(省略)

 3 「ウォルマート効果」の消滅=デフレの終焉
 最後に、全般的な価格水準がどの方向に向かっているかを考察してみる。
 20世紀後半から続いてきた世界同時デフレ現象は、中国とウォルマートが牽引してきたものである。しかし、以下の3つの要因が反転しつつあるので、デフレは終息に向かう兆しがみられる。すなわち、原材料価格は「低迷」から「高騰」へ、人件費は「削減」から「上昇」へ、流通マージンは「圧縮」から「安定」に向かう。これを「ウォルマート効果」の消滅と呼ぶことにしよう。デフレ終焉の根拠は、フルコスト原理の公式にある。
  商品価格 = 仕入原価 + 人件費 + 一般管理費 + 適正利益
 米国ウォルマートの商品は、80~90%が中国産である。仕入原価は、主として賃金と原材料費(+物流コスト)から構成される。米中間では賃金水準に約10倍の格差があるから、商品価格全体に占める原価比率は現状ではかなり小さい。中国貿易に携わった経験がある人たちは、このことをよく知っている。同時に、残り2つの費用項目を圧縮しながら、ウォルマートは経営の合理化に努めてきた。とくに、2番目の(国内)人件費は重要である。なぜなら、ウォルマートの主要顧客は、基本的に低所得者層だからである。低価格の商品は、日本などとは比べものにならないくらい訴求力がある。
 ところで、米国は大いなる借金国である。しかし、借金は永遠に続けることはできない。このまま浪費を続けていると、いずれ元に対してドルを切り下げられる。そのとき何か起こるかは明白である。ウォルマートの商品価格は、元の切り上げ分だけ上昇する。商品価格が上昇すると、米国人の所得は相対的に減少する。ウォルマートで働く労働者の賃金水準は、生存ぎりぎりのレベルである。生活を維持するには、賃金を上げざるを得ない。人件費の上昇は、内外で2重の圧力として作用する。最終的に、米国企業の収益を圧迫する。
翻って中国側の事情を見てみる。このままの速度で国内消費市場が拡大していくと、所得が上昇して国全体としての購買力が高まる。国内需要の拡大は、輸出非依存型の産業育成を誘発する。その一方で、国内産業の成長は資源消費をさらに加速し、国際的な原材料価格の高騰をもたらす。グローバルな観点から見ると、すべてがこれまでとは逆の方向で回転しはじめるはずである。デフレの時代は終わり、高い経営効率で成功を収めてきた企業は別の方策を考えなければならない。そして、デフレの恩恵を最大限に享受してきた米国は、IT産業が勃興しはじまめた10年前とは別の国際戦略を創案しなければならない時期にさしかかっている。