先週(3月9日~11日)、短い期間ではあったが、上海に滞在していた。遅れに遅れている新刊「中国市場が日本を変える」(日本経済新聞社)を執筆するためである。
上海市内のいくつかの店舗と日系合弁企業については、3年前から年一回は定点観測をしている。今回も、南京東路店のユニクロ・吉野家(KFC、マック)・ローソン、准海中路店のユニクロと太平洋百貨店などを店頭観察してきた。
ベンチマーク調査のリストには、新たにラーメンチェーンが加わった。どの店も以前にも増して盛況である。停滞の日本とは大きな違いである。いまの上海は、おそらく70年代初頭の東京である。自信と活力にあふれている。
また、キリンビバレッジ(合弁企業:錦江麒麟食品公司)については、継続的にブランド移転がなされた成果を確認している。今回は2年ぶりで、本社の住所が変わった錦江麒麟の事務所を訪問した。総経理の小林厚氏と広告担当部長の能氏に、3時間にわたってインタビューの時間をいただくことができた。
「午後の紅茶」(2000年)と「生茶」(2001年)の移転以降、「聞茶」(2002年)「アミノサプリ」(2003年)「Fire」(2004年)の3つのブランドが移転されている。いずれも”思わぬ”成功を遂げている。2年間で、売上本数が約50%増えている。興味深いブランド移転の実態は、後ほどHPに別途アップすることにする。
ユニクロ(優衣庫)の准海中路店では、店長代行のC氏(名前を伏せてほしいと言われたので・・・)に、一時間話をうかがった。現在8店舗がすべて黒字転換している。今年は、杭州、大連に出店が予定されている。驚いたことには、ジーンズなどの店頭価格を一度下げたあと、ふたたび開店当初の販売価格(2002年秋)に戻したことである。売れ行きは変わっていない。ユニクロの日本での「品質宣言」と呼応して、上海でも価格政策を変更した結果である。これが凶と出るか吉と出るかは、しばらく見てみないとわからない。
ローソン、吉野家は、現地に着実に根付いてきている感じがする。日本的なサービスの良さが、上海人に受け入れられている様子が、客の入りでわかる。いつか書いたような気がするが、「うまい」「はやい」「やすい」のなかの、最後の「安い」が「きれい」に置き代わっている。「丁寧な挨拶」と「行き届いた清掃」が日本発のファーストフード店の特徴である。
今回は、野村総研シニアアナリストの恩田氏とラーメンの「一風堂」(現地ブランド名、78一番ラーメン)を訪問した。日本のラーメンメニューと店舗形態が、現地でどのように修正されているのかを見るのがおもしろかった。ボリューム(50%増量)とセットアイテム販売(3品目)が特徴である。
熊本の「味千ラーメン」が中国へのラーメン文化移植のパイオニアである。日本風のデコ(店内装飾)と高級感の演出、そして中国風メニューの開発(例えば、ラーメン+焼き鳥+チャーハン)が成功のポイントである。恩田さんの解説によると、現在では、78一番ラーメンのほうが繁盛しているとのことである。韓国企業のように、社長が現地で暮らしていること(現地化)が、従業員のやる気を引き出す要因になっている。
そういえば、経営大学院(IM研究科)の客員教授、安井先生からの紹介で、現地で暮らしている木村勉社長(日新電機)と面談する機会を得た(9日夜)。木村さんは、京都に本社がある日新の子会社総経理である。それでいながら、重慶の山奥に小学校を寄付している。都市と農村の貧富の差に対して、日本人として貢献するためである。中国で地道な社会貢献をしている日本人も少なくはないが、こうした事実をマスコミはあまり報道していない。