トヨタ自動車海外事業部の仕事のお手伝いで、中国内陸部の都市・成都に来ている。成都は戦国時代、蜀の都であった。三国志にも登場するきれいな町である。
人口約600万人。観光ガイドブックによると、「この地方特有の気候で、毎日もやがかかって晴れることがない」とある。昨日も今日もたしかに曇りである。8月末なのに、昨夜は肌寒いくらいである。「晴れない軽井沢」といったところか?
成都の地名は、4月の反日デモでイトーヨーカ堂が店を壊されたニュースで記憶にあたらしい。中国内陸部の都市なので、ファッションなどはもっと地味かと思っていた。さにあらず。昨日のグルインに集まってきた18人(3組)も、なかなか進んだファッションスタイルで登場した。成都には、台湾系の太平洋百貨店も出店している。夜半に複数のデパートを訪問した電通(国際マーケティング部)の岡田浩一部長によると、百貨店で販売されている化粧品・雑貨のお値段は、上海・東京とあまり変わらないとのこと。ほとんどのブランドショップ(グッチ、ヴイトンなど)も路面店で見かける。看板広告のセンスも悪くない。
今回の定性調査は、中国4都市(広州、北京、上海、成都)で、自動車ユーザー(各都市3グループ、それぞれ6名)を対象に、自動車に関する情報収集源、購入プロセス、購入重視点、主要各ブランドのイメージをグループで比較調査させたものである。トヨタ本社から3名(わたしを含む)、TMCI(トヨタ自動車中国投資有限公司)のメンバー4名が現地(北京事務所)から参加、電通の中国担当者4名と一緒のジョイント・リサーチであった。
わたしは、上海と成都のグルインのみの参加である。上海(26日)から続いたフォーカス・グループ・インタビューが昨日(28日)ですべて終わって、本日いま帰国の途につこうとしている。詳しい話は帰国してから紹介するが、成都のホテルから、忘れないうちに、「中国人消費者の車選び」についてひとつだけ感想を述べておくことにする。
グルイン中(3グループ約2時間半)、たまたま、マジックミラーのこちら側から中国人自動車ユーザー(申告家族年収50~100万円)を見ていて思いついたことがあった。インタビューの最後に、6つのブランド(GM,トヨタ、VW、本田、プジョー、現代)をグループ分けする作業を参加者全員にお願いする。たいていは、ロゴマーク付きのカードを、「GMとVW」「トヨタと本田」「現代とプジョー」という3グループに分ける。彼ら・彼女らに、区分けの説明を求めると、中国進出の順番、車の品質(内容はブランドと混同されていてやや不明確)、会社の規模(世界での成功)が分類基準になっていると答えてくる。
民族感情の激しさや、4月の反日デモの影響で、日本ブランドへの評価は、とくに、暴動が起こった成都では相当に悪いだろうと予想していた。にもかかわらず、トヨタ車と本田車へは評価がそれほど悪くなかった。とくに、本田はオートバイの原体験があるせいか、若向きでスポーティなブランドと見られている。トヨタも心配していたほど悪くはない。20年前の輸入車クラウンの良い広告のイメージ(「そこに道があればトヨタあり」)が残っている。どちらかといえば、「世界的に成功しているブランド」という良い評価である。
その様子を見ていて思ったのは、各国の料理と自動車のイメージの関係であった。良くも悪くも、日本車は「日本料理」のように評価されている。中国人の判断基準は、薄味で個性が乏しい。たくさんの美しいお皿に、それぞれ少量の料理が盛り合わせで出てくる。そういったイメージである。
ヨーロッパ(料理)は、おいしいパンにチーズにワイン。ドイツ料理となると、これにジャガイモとソーセージがプラスされる。品数は多くはないが、それぞれに深い味わいがある。しっかりした料理と高級感があるアウディやBMW、ベンツ、ワーゲンを連想させる。評価は一番高い。ただし、あこがれの分、値段も高い。
米国は、ステーキとフレンチフライ。アイテムは多くはないが(少品種)、脂がたっぷりに乗った分厚いステーキ肉に、大量のフレンチフライかポテトサラダ。ワイルドでオーセンティック。それなりの重量感と権威を感じさせる、世界ナンバーワンブランド。キャデラックやビュイックの世界である。
あそらく中国人は現状、自国の国産車にはあまり魅力を感じていない。品質・技術面でプアーだからである。しかし、本来は、中国人は「中華料理」が好きなはずである。中華料理の理想型は、たくさん料理(お皿)が次々と提供されてきて、それぞれのアイテムが相当のボリュームがあること。ひとつひとつの料理の出来映えにはあまりこだわらないが、値段が安いことが望ましい。お皿の数は、エアコンやABSやDVDプレーヤーなどのたくさんの装備品に対応している。
おもしろいのは、いま中国市場でもっとも「理想的な中華料理」を提供しているのが、韓国の現代自動車(エラントラ、ソナタ)なのである。「品質に問題がある」「高級感がない」などのコメントがグルインの参会者からは出されていた。にもかかわらず、現実の市場シェアは、この一年間で、VWから10%近くの顧客を奪っている。建前では、欧州ブランドを高く評価しながら、実際の食事は、コストパフォーマンスが高いお値段そこそこで、自分たちの手の届く範囲にあって、なおかつそこそこゴージャスに見える「韓国料理」を選んでいるのである。
日本メーカーの課題は、まず日本料理とはどのようなモノなのかを知らせること。そして、その良さを体験を通して味わってもらうこと。さらには、値段を適当に安くしてあげること。京都の料亭で懐石料理を提供するのではなく、回転寿司やラーメン定食(上海で大受けしている「味千ラーメン」の路線)をまずは味わっていただくことである。これに尽きるような気がする。
それでは、おあとは、東京にて。