Franken Wine (欧州旅行:こぼれ話)

 欧州ツアーの最終日に、「IPMの歩き方」というミニセミナーを開いた。講師は、フローラ・ツェンティワンの坂崎潮(JFMA顧問)氏である。坂崎さんは仕事柄、毎年IPMを視察に来ている。


坂崎さん曰く、「(育種家としてここ(IPM)に来るようになってから)7年になるけれど、あっと驚くようなモノには出会ったことがありませんね」。サントリー時代に、大ヒット商品「サフィニア」を世に送り出して人の言葉である。坂崎さんは、(やられた!)ということが無いことを確認しにIPMにやってきているらしい。
 今回のJFMAのツアーには、サントリー時代の部下である四方さん(サントリーフラワーズ)が同行してくれていた。四方さんは、「それでも、気がつかなかったようなめずらしいモノには出会いますね」。また、会場ですれちがったJFMA理事の三好正一副社長(ミヨシ種苗)も、「はじめてでしたけど、やはり直に見にくることは大切です。日本で気が付かなかったようなものはありますからね。毎年来ないとね」。
 逆に、1番ホール(温室、装備、施設部門)で会った、日本最大の鉢苗生産者、ハルディン篠原社長は、坂崎さんに賛同して、「業界を引っ張っていくモノが見あたらなくなったですね」という感想をもらしていた。
 見る人によって、風景の見え方が変わるものらしい。わたしはと言えば、4年前のときと比べると、IPMのパワーが落ちてしまったと感じた。メゾンオブジェには力強さを感じたのとは対照的であった。それは、植物(花卉)のプレゼンテーションが後退して、デザイン素材が前面に出ているからかも試しれない。そんな気がする。
  *  *  *
 ミニセミナーが終わって、(並行して)食事になった。旅行のディナーでワインを選ぶのは、いつも坂崎さんの役割である。坂崎さんは、学生時代にドイツのブドウ栽培農家で一年間研修を受けている。ブドウにはかなりうるさいワイン通である。わたしもしばしば、行きつけの新橋の店に連れて行かれたことがある。それはそれは、ボトル持ち込みで、最高のワインコースを用意してくれる。
 その坂崎さんが今回のディナーで選んだのが、Franken Wine であった。フランケンワインは、ドイツ統合前の東独地方で生産されていた辛めのワイン(の総称)である。マイン河とその支流の丘の斜面で栽培されていて、Würzburgが主産地である。
 独特の緑色の細口瓶に詰められたワインを飲みながら、坂崎さんのコメントがおもしろかった。
 もともとドイツの伝統的なワインは、白の甘口であった。いまでこそ赤もずいぶんと良くなったが、モーゼルワインのような甘めのワインが、ドイツ人の一般的な好みであった。最近になって、旧東独地方の辛めのフランケンのようなタイプが好まれるようになった。安くて(一本10~20ユーロ)、それなりにおいしいからである。ところが、フランケンを日本に持ち帰って飲んでも、ドイツで感激したことが嘘のようにまずく感じる。それはなぜなのか。
 坂崎さんによると、それは人間のカラダの作りによるものだという。ドイツワインをおいしく飲むためには、ドイツ人の食事にカラダがあっていなくてはいけない。彼の経験によると、ドイツに来てから一週間くらいすると、食べ物でカラダの構成物(血液、細胞など)がドイツ風に変わる。そのときになったからドイツワインを飲むと、とくに辛口のランケンを飲むとおいしく感じる。しかし、日本に帰ってから、刺身や豆腐などの日本料理を食べていたのでは、カラダがフランケンをおいしく感じられないのだという。
 なるほどと思った。硬水の水、やや脂っこいジャガイモ肉料理で、カラダがフランケン向きになっていくのだろう。日本では、お水は軟水だし、野菜の種類も違う。料理の魚はあっさりめだし。それでは、フランケンがおいしくなくなるのだろう。フランケンはドイツで飲んでこそフランケンなのだ。
 同行の平田さんや福井さん(敷津花壇)、榊原さん(JFMA事務局)、斉藤さん(サントリーフラワーズ)は、みなさん、それでもウォルマートでフランケンを買っていた。おいしいおいしいと、当日の会食ではお飲みになっていらしたが、「やっぱり日本で飲むと、フランケンはまずい」のを試すために買ったのだろうか。わたしは忠実な人間だから、一本も買わずに帰ってきた。