「清らかに農を営む」(有機栽培カーネーション農家、鈴木さんのメッセージ)

 元旦から、MPSジャパン(花き総合認証プログラム)がプログラム加盟の農家さんからデータの収集を開始している。


いろいろ課題はあるが、来年1月の認証開始に向けて具体的な活動がはじまっている。
 早ければ2ヶ月後のこの4月から、「参加者マーク」と「日本産マーク」が一緒についた花が、市場や小売店にお目見えることが予定されている。すでにMPS参加者(農家=データ提供者)が30社近くになっている。
 ところで、日本でのMPS登録の第一号は、長野県佐久市在住の有機栽培カーネーション農家、鈴木義啓である。鈴木さんは、昨年の「岐阜MPSセミナー」(@大垣)にわざわざ長野から駆けつけて下さった方である。その場で、第一号にサインをすることを約束していただいた。
 鈴木さんは、農家のご出身ではない。なぜ農業をはじめることになったのか。いまなぜ花の無農薬栽培に取り組んでいるのか?その理由をご自身のHPに書き込まれている。興味深いメッセージなので、ご本人の了承を得て、わたしのHPに採録させていただいた。
 HPには3つのメッセージ(2006年9月)が書き込まれている。そのうちのひとつだけを「切り貼り」させていただくことにする。http://busidan.net/ringring/images/index_r2_c2.jpg
 タイトルは、「清らかに農を営む」。しかし、現実的には、清濁併せ持つこと重要さ、漸進改良主義の大切さを主張されている。共感を覚えたので、昨日ご本人とも電話でお話をした。2月11日に、ご本人は、農協の共選から離脱され、ご自分の道を歩まれている。

「清らかに農を営む」
皆様、こんにちは。Suki Flower Farmの園主、鈴木義啓です。私は東京生まれの東京育ち。農とは一切の関わりのない環境で育ちました。でも花が好きで好きで、いつの日か自分で育てた美しい花を、多くの人に楽しんでもらいたいという夢を抱き続けてきました。サラリーマンや、デザイナーの仕事を十年弱ほど経験し、二〇〇三年の夏、人脈も土地勘もない信州へ移住し、花の栽培を学び始めました。そして二〇〇四年の秋、私は信州佐久へ辿り着き、Suki Flower Farmの施設を整備し、土作りを開始しました。
 私の農への取り組みについてお話する前に、農業という職について少し触れたいと思います。農業という職は、一般的なイメージでは、自然の中で清らかに営利を得ることのできる職種、という感じではないでしょうか。確かにそのような側面がない訳ではありませんが、実際のところは、人が自然に対し極限まで介入し、ありのままの自然とは異なる、表現的に正しくないかもしれませんが、限りなく「人に都合の良い」自然環境を用意して、可能な限りの恵みを搾取することで営んでいます(ちょっと過激な表現ですね・・・)。たとえば私の栽培はビニールハウス内での栽培ですが、そもそも自然界にそのような環境は存在しないですし、寒期には暖房を焚いて促成栽培もできてしまいます。まさに人の都合ですよね。
 実はこのようなことを考えるようになったのは、とある自然農で生きている人から手紙を頂戴し、自身の生き方や農について、改めて考えさせられたのが切っ掛けでした。その人は、命の繋がりや、命の不思議さをずっと見続けてきた人で、私のような農業を否定する訳ではないですが、私自身の農への取り組みについて熟考を促してくれました。そして、私の中で今、大きなテーマとなっているのが「清」と「濁」なのです。
 おおよそ人は清濁併せ持つ存在だといえます。こと農業に限定してみれば、たとえば農薬を使用して害虫を殺すとすれば、市場や消費者が望むのだからと考えて使用するとします。農薬使用の善し悪しは置いておいて、こと自然界の生態系破壊という点に限れば、場合によっては環境破壊に繋がるケースがあります。また肥料の過剰施肥(有機・化成に関係なく)は、地下水汚染を始め、自然への悪影響は計り知れないものになります。また資材によっては、鉱山開発、輸入資材の増加など、様々に影響を及ぼすことでしょう。人の要望に応えることは、結果として人の都合を優先することで、自然環境を破壊することに繋がることもあります。それでも営農していかなくては、畑を守ることはできません・・・。
 人には「濁」の部分が多大にあることを踏まえた上で、どこまで「清」の割合を増やせていけるだろうか。それが、今の私の大切なテーマとなっています。人の都合をどこまで自然界の秩序に委ねることができるのか、今はそれを探りながら一歩一歩進んでいるところです。
 農に関する「清」と「濁」。私がなぜ執拗に記述するかといいますと、おそらく農に関わる人であっても、私の経験してきた「濁」の世界を実感として理解できる人は限られていると予想するためです。増してや農に関わらない人であれば、なおさらのことではないでしょうか。
 そもそも畑というのは人為的なものです。土を耕すのも、育てたい作物の種を蒔くのも人です。その栽培の過程で、どこまで人が関与するかによって、農法が変わってくるといえそうです。また畑によっては、さらに人の関与の割合が変わってきます。例えば路地畑と、ハウス畑とでは、明らかに後者の方が人の関与割合が高いですよね。
 さて、私の栽培する花ですが、おそらく全ての農作物の中でも、人の関与割合の高い部類に入るのではないでしょうか。おそらく「食」に関わる人には想像できないような、もうはっきりと書きますが、濁は濁でも汚泥レベルに濁っているのが「花」の農業です。少なくとも、私が経験してきたのは、そのような世界でした。
 人が関与することで、自然からしっぺ返しを受ける最たる例は、土壌の塩類集積と連作障害ではないでしょうか。ここからは「花」の一つの事例ですから、すべての花栽培と誤解しないでください。
 花は美しいですよね。でもその美しさの陰に、濁の世界が隠れています。特に施設栽培では。毎年のように営利作物を栽培しますと、徐々に連作障害による病気が増えてきます(連作することで、その作物に悪さする菌の密度が高まります)。毎作ごとに行う土壌消毒とは、そのような菌を殺菌リセットする意味合いがあります。土壌消毒には様々な方法がありますが、もっとも浸透している方法は農薬を使っての殺菌ですね。私は毒物劇物取扱責任者の資格を有していますが、劇物の中でも毎年禁止薬剤になるのではないかと噂されている薬剤・クロールピクリン剤を用いての土壌消毒がありますが、実は私、このクロールピクリン剤の使用中、ハウス内でガスマスクが外れ、危うく自らの生命を失いかけたことがあります。クロールピクリン剤は、土壌の微生物、小動物を皆殺しにするだけでなく、ときには人の命まで危険に晒す薬剤です。人の都合を最優先にする農業は、このような現実のもとで行われています。
 また肥料管理ですが、これまた花の場合、非常に極端な使用をします。特に窒素量に関しては半端ではないですね。濃く肥料を用い、多量の灌水で、背丈とボリュームを追求します。そのような管理は害虫に狙われやすいので、毎週なんらしかの薬剤防除をすることになります。そして土壌は塩類集積され、多量の灌水で地下水汚染していく・・・。
 決して極端な事例ではないと思います。多かれ少なかれ当たっていると思います。私は当初、そのような栽培法を受け入れていました。自らが薬害を被るまでは。正直な話、お爺さんお婆さんの世代で農業を終えるのであれば、もしかしたら、それはそれで致し方のないことかもしれません。でも私のような若い世代が今後何十年と農業を継続するとき、もしくは次の世代へ引き継ぐとき、このような「濁」の農業で本当に良いのかと、私は薬害で苦しんでいるときに思ったのです。そうではない、慣行ではない、新しい農の取り組みを目指さなくてはいけないと思ったのです。
 ハウスという人為的畑で、営利栽培を連作する私が、どこまで人による関与を除いて、自然の生態系の営みに委ねることができるだろうか。その実行こそが、私の望む「清」の割合増への転換といえます。非常に壮大なテーマで、いつ軌道に乗るかはわかりません。でもそのような取り組みをはじめて二年となり、少しずつですが、可能性が高まっていることを実感しています。
 Suki Flower Farmのキャッチコピーは、「清らかに農を営む」です。それは、この文章の記載どおりです。人と自然とが共生し、土本来の力で花を栽培することで、環境にやさしい花、そして美しく健康な花を栽培していきます。営利と技術と生態系は、決して矛盾するものではなく、すべてにバランスの取れた畑を目指して頑張ります。そんなSuki Flower Farmを、どうか応援してください。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

Suki Flower Farmの約束。
1,化学物質による農薬は一切使用いたしません。
2,肥料散布の際には、土壌診断に基づく適量使用をいたします。
3,肥料三大要素(窒素、リン酸、カリ)は有機質のみを使用いたします。
4,花の世界における国際環境指標「MPS」認証を取得します。

Suki Flower Farm
代表 鈴木義啓
二〇〇六年九月吉日