自分で講演する以外に、近頃は頼まれしごとで、さまざま講師の講演会をコーディネートすることが増えている。
雑誌や新聞紙上での対談相手として、著名な経営者とのインタビューを依頼されることも多い。対論は得意のほうだが、そうではあっても、本当にすばらしい講演や経営者との座談を演出することはけっこうむずかしい。
そんな思いをしていたところ、先月(7月)の13日、久しぶりにコーディネーター冥利に尽きる講演者と出会うことができた。四方啓日軍(しかた よしあき)氏、㈱JR東海ホテルズ専務取締役、名古屋マリオットアソシアホテル総支配人である(漢字が探せなくてすいません)。
4月から、日本ショッピングセンター協会主催、法政大学エクステンションカレッジ共催の「SCアカデミー」を組織するお手伝いをしている。SC(ショッピングセンター)経営者向けの幹部研修会である。毎週金曜日に、「週一ビジネススクール」の受講者が、千代田区市ヶ谷にある法政大学のキャンパスにやってくる。受講メンバーは、大手SCデベロッパー、テナント各社の中堅幹部。第一期生として、現在、幹部候補生43人が研修会に参加している。わたし自身は、「SC基礎論」の勉強が終わった受講生に、「SC各論」として、マーケティング、流通・ブランド論などを教えている(Cコースの主任教授)。
Cコースの授業は、一回目がわたしの講義であった。二回目以降は、6人の経営者をお呼びして、サービス経営、ブランド管理、SC関連のネット事業、自然派テーマパークの経営などについて、お話をしていただくことになっている(3回目以降のプログラムは、<講演コーナー>に掲載されている)。
第二回目は、四方専務の「顧客満足経営とサービスマーケティング」であった。久しぶりに、講演で大きな感動を受けた。その内容を文字にしてみたい。講演前にわたしが四方専務と打ち合わた取材メモ(6月、JR東京駅前の富士屋ホテルロビー)は、別途に本HPの<Research&Reports>にアップしておくことにする。他の4人(ひとりのみ除く)とも同様の打合せをしているので、今後は講演が終わったことに、HPに順次メモを掲載していきたい。
この文章は、四方専務の当日のお話を、わたしの印象を交えて記録に残しておいたものである。正確な講演録ではないことをお断りしておきたい。
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講演者:四方よしあき専務
講演テーマ:「顧客満足経営とサービスマーケティング」
場所:@法政大学・富士見キャンパス
日時:2007年7月13日(金)午後18時30分~20時30分
日本のホテル業界はいま、「2007年問題」という渦の中にいる。コンラッド、マンダリン、リッツカールトン、ペニンシュラなどなど、世界のプレミアムホテルが、東京に進出してくる年が2007年である。日本のプレミアムホテル(旧御三家)を外資系ホテル(新御三家)が、施設・サービス面で凌駕していることが、専門家や顧客調査で近年明らかになってきている。しかし、世界の最上級ホテルのほぼすべてが東京進出する今年以降は、日本のホテル業界にとって黒船来襲に匹敵する衝撃が予想される。外資系ホテルの日本進出に関して、四方氏は、各社の事業担当者(副支配人、支配人、専務)として辣腕を振るってきた。そうした経験から、ホテルのCS経営(顧客満足)がどのようなものであれなばならないかを教えてくれる講演であった。
<なぜ外資系ホテルの評価が高いのか?>
外資系ホテルで顧客満足度の評価が高く出るのは、CSの定義(とらえ方)と取り組みがそもそもちがっているからである。昔のホテル(現在の日本のホテルも)の顧客満足、つまり一昔前のCSは、「期待される最低水準」をクリアすることであった。しかし、外資系ホテルが目指している顧客満足はそのレベルにはない。「予想を上回る感動」、「顧客のわがままに応え」、「思い出に残る滞在経験」を提供することにある。そうして実現できた付加価値が、ホテルにとっての「顧客満足」である。
日本のホテルは、来館するすべての顧客のニーズに応えようとしている。そうした考えを外資系のホテルは採用しない。例えば、四方氏が1993から1997年まで開業に関わった大阪のリッツカールトンでは、ホテル宿泊客のわずか5%しか対象顧客として想定していなかった。今度開業する東京のリッツカールトンでは。10年後、トップ2%の顧客しか相手にしない。上顧客だけに向いたサービスを設計する。それが、外資系のスーパープレミアムホテルの経営の特徴である。なぜそうした絞込みが必要なのだろうか ?1~2%のトップ顧客に集中する「割り切り」の意味は何なのだろうか?
<米国の一流ホテルのロビーがうす暗いのは?>
一つのエピソードを紹介する。四方氏が「全日空シェラトン大阪」の立ち上げのために、米国に滞在していたときのことである。1990年ごろ、ニューヨークの有名ホテルで、日本人に出会った。バブルの絶頂期、米国の一流ホテルに日本人ビジネス客が宿泊するようになっていた。中でも、一部のホテルに好んで宿泊する日本人客が増えていたが、そうしたホテルは、ロビーは暗いし、エレベーターの位置はわかりにくかった。それにも関わらず、「なぜ、このホテルを好んで利用しているのですか?」という問いに対するビジネスマンの答えが印象的だった。「まるで自分の家に帰ったような気持ちになる。」
確かに、自宅の玄関は、吹き抜けの高い天井にシャンデリアがあるわけではない。煌々と明かりがともっているわけではない。ましてや、エレベーターがあるわけではない。そのように考えてみると、昼間中、ニューヨークのオフィスでハードなビジネス交渉を終えたあと、彼らに必要とされるホテルの要件は、家に帰ってきたときのような、しごくゆったりとした「くつろき」である。エレベーターやエスカレーターは必要ないし、明るい見通しの良いロビーで、ビジネスマンがうろついている姿を見たくはないだろう。それが、薄暗くて適度に狭くロビー、わかりにくいレイアウトこそが一流ホテルの要件なのであった。
(つづく)