ワンコイン古雑誌(○C:田中 龍)

教師が学生から教わることは少なくない。小川ゼミでは隔月で指定図書が手渡され、2週間以内に感想文を提出することが求められる。


隔月レポートは苦痛だろうが、彼らの短いレポートを読むことは筆者にとって至極楽しみである。
 今月のレポートでは、とてもおもしろい話題を提供してくれた学生がいた。ワンコイン雑誌についてである。以下、田中龍君のレポートを要約して、コメントを簡単に付する。
 
 「ワンコイン古雑誌:ワイコイン価格の魅力」(田中 龍)
 <ワンコイン古雑誌とは>
 飯田橋や市ヶ谷の駅近くでもよく見かけるが、この言葉「ワンコイン古雑誌」があることは知らなかった。田中君の造語らしいが、彼の定義では、駅構内(改札外)もしくは歩行者の交通量が多い一等地で、簡易屋台を組み「ワンコイン」(=100円)で売られている古雑誌のことを指す。例えば、新宿駅周辺では、京王デパート前、小田急百貨店前、ミロード前、アルタ前、マイシティ前、あるいは、歌舞伎町入り口などで店を開いている。大きなターミナル駅周辺には、たいてい店が開かれているような気がする。

 <売り手と買い手>
 主に、浮浪者(一店舗を運営するために5~6人のグループを組む)が売り手である。店舗販売員1~2人、雑誌回収係3~5人からチームが構成されているらしい。買い手は、サラリーマンや男子学生。商品ラインナップは、週刊誌(少年ジャンプ、マガジンなど)、文庫本、H本。最近では、降雨時に古ビニール傘も取り扱っている(たぶん、仕入が同じルートだから?)

 <仕入れルート> 
 田中説では、2つの仕入形態(回収ルート)がある。
 1.電車の社内の網棚に放置されている雑誌の回収ルート、
 2.電車のホーム上にあるゴミ箱からの回収ルート。
 そういえば、しばしば浮浪者がゴミ箱をあさっているのを見かける。わたしは、以前に読み終わった雑誌(本来ならば、”白いポスト”行きになりそうな種類など)を彼らに無料であげたことがある。これをまた売りつけられた輩がいのだ! とても納得。

 <営業用”店舗”>
 店舗の代わりに、台車や段ボールを使用する。約1坪の大きさである。開店時間は、朝10時~夜22時(12時間営業)。雨天時は閉店する店が多い。5年前から出始めて、増加の一途をたどっている(田中説)。もっと古くからあったような気がするが、たしかに数が増えたのはごく最近だ。

 <売上構成>
 田中君の予測では、一日平均の売上高が約3万円超(300冊超)。「キヨスクの売上を圧迫しているのではないか?」と彼は心配してくれている。5人で働くとすると、一人当たりの売上が6千円強にあるから、浮浪者にとって悪くはない仕事である。

 「考察とコメント」
 <誰が買っているのか?>
 さて、田中君の売上推計が正しいとすると、一時間当たりの客数は、10~15人くらいになる(ひとり2~3冊購入として)。実は、わたし自身は雑誌を買っている人をあまり見かけたことがない。誰がいつ買っているのだろうかと怪訝に思っていた。もしかすると、購入は夜遅くになるのか? 酔っぱらいが買っているのか? 常連はいるのか? それとも・・・ いろいろな疑問が出てくる。知っている人は教えて欲しい。

 <価格づけ>
 一冊の値段が100円というのは、価格帯としてとても面白い。というのは、例えば、新品が300円の雑誌ならば、ブックオフでは半額の150円だからである。新本の3分の一、正規古本の30%引きで売られていることになる。そして、田中君が指摘しているように、ワンコインなので買いやすい。

 <本の汚れ>
 仕入ルートを知っていなければ、汚れは気にならない程度なのだろうか? あるいは、ブックオフのようにクリーニングするのだろうか? そんなことはありそうにないか。売っている人が浮浪者風だから、わたしならまず買うことはないだろう。それでも売れているのは、やはり安いからだろう。新本なら3冊が買えるし、回収ルートが目の前だから、情報的には間違いなく新しい。中古雑誌が正規ルートで店頭に並ぶのは、出版社への返本後だろうから、雑誌の固定ファンはそれまでは待てないはず。だからこそ成立しているビジネスとも言える。
 
 <品揃え>
 回収がランダムになるから、品揃えに問題は起こらないだろうか? 常連になれば、いつも必要なアイテムは決まっている。どうしているのだろうか? 本屋やコンビニで、万引きなどしていそうだ。そばに寄ってきちんと観察したことはないが、読みたいと思うような種類の本は、ひとつもなかったような気がする。もし必要な雑誌を半正規ルートで調達するのであれば、返本制度にのっかることもできる。売れなくて裁断するだけの本を、そのまま調達してくればよいからである。
 いずれにしても、ワンコイン古雑誌の隆盛については、ほとんど気が付かなかった。うかつであった。立派なリサイクル事業である。